1週間くらい前の出来事です。
しばらくは、振り返るのもシンドかったのですが、ようやく気持ちも整理出来てきたので書きます。
院内ではBLSやACLSの講義をしていたりする機会もいただいていました。
さて、その日は勉強会の帰り道でした。
帰りの電車、あと少しで最寄駅というところで、すぐ近くで「倒れた!緊急停車!」と大声が。
どうしたのかと思って、近づくと、明らかにヤバい色の顔色不良で明らかに異常な呼吸。引き攣るような、死戦期呼吸みたいだ。
数名が必死で座らせようとしていましたが、両肩を叩き、意識レベルを確認すると刺激にはほとんど反応なし。
私は「こういう時には、とにかく胸骨圧迫!」と習っていましたし、教えてもいました。
ある日の院内研修の際には新卒の子からの質問で「心停止でない方に間違って胸骨圧迫をしてしまっても大丈夫でしょうか?」というお話がありましたがその時の私は"誤って胸骨圧迫をしてしまっても、血液の流れに支障はありません。緊急の場面で、心停止を正確に判断することは困難です。心停止かどうか判断に迷ったら、躊躇せずに胸骨圧迫を開始して下さい。"と説明していました。
参考URL http://www.j-circ.or.jp/cpr/qa.html
ところが、私が寝かせて、「異常な呼吸ですし、橈骨も触れませんから胸骨圧迫を始めます」と胸骨圧迫を始めようとすると、中年男性数名に大声で「いやいや!息してるから!こういう時は心マなんてしなくていいよおー!」と怒鳴られるように言われ、半ば羽交い締めにされるように止められてしまったのです。
すると、もう、私は、その場の空気に飲まれ、なにもできなくなってしまいました。
いや、ただ、私がハッキリと言えばよかったんです。
「これは必要なことなんです。この呼吸、顔色は、きっと普通じゃありません。胸骨圧迫はもしかすると必要ないかもしれませんが、メリットがデメリットを上回ると感じています。」と。
でも、私は止められたことがとてもショックで、身動きがとれなくなってしまったんです。
それで、何もできなくなってしまったんです。
その場の空気では、まるでとんでもない悪いことをしていたのは私の方みたいでした。
私は目の前で止まる寸前の呼吸をみながら、遠巻きにみているだけでした。
よき援助者であろうと日々を過ごしてきた何十年かが崩れ落ちたような気分でした。
それに、止めた男性の方々はニヤニヤしながら、馬鹿にするような目で(もちろん、被害的な感情が溢れていたので認知が歪んでいた可能性も高いです)私をみているような気がしました。
その時の私は複雑な気持ちが溢れ出して、足がガタガタと震えていました。
「ああ、もう私は病院以外の場所では、もうBLSなんて怖くてできない!」としか思えなくなっていました。
怖い。苦しい。恥ずかしい。
情けない。助けてほしい。誰か。
そんな気持ちが溢れ出していました。
病院ならハリーコールをかけて、先生が来るまで出来ることをやればいい。
でも、ここでは私は何もできない。
「エラそうに院内講師とかしてたけど救急のトレーニングなんか意味がないのだ…」とその時は思ってしまいました。
誤解されそうですが、私は止めに入った方々を非難しようとしているわけではありません。
それよりも、何よりも、私は、私自身に強い嫌悪感を感じたのです。
…そんな私の支えになったのは、同業者のパートナーや友人、オンラインでのお知り合いからの声かけでした。
この場を借りてお礼を申し上げます。
本当にいつもありがとうございます。
(ちなみに急変された方はなんとか微弱な呼吸を維持しながら、抱えられるようにして電車を降ろされるところまでは確認しました。)
(胸骨圧迫がその方に本当に必要だったかどうかはその時点ではわかりません。)
(繰り返しになりますが、私は止めに入った善意の方々を非難する意図はありません。)
さて、救急現場に救急車が到着するまでの間に偶然現場に居合わせた者をご存知の通りバイスタンダーと言います。
"バイスタンダーが一次救命処置を実施した際のストレスに関する検討"という調査では、その結果として「多くのバイスタンダーがさまざまなストレス反応を経験していた。また,その体験を他者に話して,自分の気持ちを理解してもらいたいと考える者が多かった」と述べられ、また結論としては「BLS 教育において,BLS 実施によるストレスとその対処法に関する教育を考慮する必要がある。さらに対策の一環として,相談を受けるシステムを整備することが有用であり,急務であると考えられる」ということが考察されています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsem/16/5/16_656/_pdf
その他にも、"航空機内での心肺蘇生の実施により心的外傷を負った1例" 総合病院国保旭中央病院神経精神科 大塚祐司(宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 3, 71-82, 2007) http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/08/cprtrauma.htm
では、読むだけ胸が苦しくなるようなCPRの描写がされています。
私の体験は、航空機の事例に比べれば、些細なことだと思います。
今の私は、みんなに優しい言葉をかけてもらい、聞いてもらい、気持ちもあの時に比べれば落ち着いてきました。
今は、"自分がまたいつか急変の現場に立ち会って「BLSが必要!」と思ったら、どこででも出来ることをやらなくてはならない。それは「自分が傷ついたような気持ちになったから放棄していいもの」ではない。むしろ、誰でもやるべきことだ"と思えています。
でも、その時は本当に怖かったのです。
あるいは、それは集団における正常性バイアスなのかもしれません。
こんなに情けなかった私の話を。
それはきっと、誰かの役に立つと思います。
自分ができることは何か。
そして、次に院内外で急変に遭遇した際には、私はもっとしっかりと立ち回りたい。
私とその場の方のためにも。
この文章は、そうした決意のために書きました。
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