2017/04/24
現代ビジネスに同じ記事が上がった(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51507)ので追記。否定的な反応が多くて安心した。
(追記おわり)
この薬を飲んではいけない、あの大学に入ってはいけないなどと煽り、なにかと物議を醸している『週刊現代』が、4月29日号で「働かなくなった日本人の末路」という特集を組んでいる。
モーレツ社員時代の長時間労働を賛美するオッサンが何人も出てきて、現政権の働き方改革は日本を滅ぼすという持論をご開陳なさっているというだけの記事。まあ、そうして日本の経済成長を支えてきてくださったオッサンの皆さんの生き方を否定するつもりはありませんし、勝手にしゃべっててくださいって感じです(私は長時間労働の蔓延のほうが日本を滅ぼすと思いますが)。
そんなことより、「実は日本は他の先進国より労働時間が短い」というデータを示しているのが気になります。「今でさえこんなに短いのに、もっと短くするなんて馬鹿か」いうようなことを言っている。えっ、マジですか?
“『データブック国際労働比較2016』を見ると、’14年の週労働時間(製造業)で日本人はG7(先進7ヵ国)の中で労働時間がかなり短いほうなのだ。厚生労働省が調べた日本の週労働時間(製造業)は37.7時間。”
“米国の42時間や英国の41.4時間、ドイツの40時間より少なく、フランスの37.8時間、カナダの37.1時間と変わらない水準なのである。”
『データブック国際労働比較2016』はネットで見られる。該当するページはこれ(http://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2016/06/p205_t6-2.pdf)(pdf注意)。
たしかに数字は合っているが、注を見ればわかるように、調査の対象が全然違う。カナダ、イギリス、ドイツ、フランスは時間外勤務を含む(脚注の4と5)。イギリス、ドイツ、フランスはフルタイム労働者のみが対象(脚注の5)。対して、日本の数字には時間外勤務は含まれていない。そして、パートタイム労働者の勤務も含まれている。だから、日本の労働時間が短く見えるのは当たり前だし、むしろこれでフランスと同水準なのは、かなりヤバイぞ。
あと、カナダは「実労働時間」ではなく「支払労働時間」で計算されている(備考のb)。これは、実際に働いていない有給休暇なども労働時間に含む計算になっており、実労働時間は37.1時間よりもっと短いはず。
この記事を書いた記者は、まともに脚注も読めず、うっかりこうやって書いちゃったのかと思いきや、本文で「調査対象に各国でバラツキがあるため、一概には言えない」と言い訳をしている。ってことは、わかっててわざと印象操作してますよね、これ? 「一概には言えない」んじゃなくて、明らかに日本の労働時間のほうが長いですよ。
『データブック』の日本の労働時間の元データは「平成26年毎月勤労統計調査」とある。ここ(http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/26/26r/26r.html)の第2表「月間実労働時間及び出勤日数」がそれ。
「製造業」の「所定内労働時間」(つまり定時内の労働時間)は147.3時間、出勤日数は19.5日となっている。147.3を19.5で割った7.55…時間が一日の所定内労働時間で、これに一週間の5日をかけた約37.7時間が、さっきの『データブック』にあった日本の「’14年の週労働時間(製造業)」である。
この「所定内労働時間」を「総実労働時間」(残業を含めた労働時間)である163.2時間に置き換えてやると、一週間の労働時間はおよそ41.8時間になる。イギリスの41.4時間、ドイツの40時間より長くなったよ!
さらに言えば、日本のこの数字にはパートタイマーの労働時間も含まれている。フルタイム労働者の労働時間は、第5表「就業形態別月間労働時間及び出勤日数」を見ればわかる。製造業に従事する一般労働者(フルタイム労働者)の月19.8日の総労働時間が170.6時間なので、一週間に換算すると約43時間(ちなみに、最新の2016年の確報値でも42.9時間で、あんまり変わってない)。アメリカの42時間より1時間も長い。もっとも、アメリカの調査対象も「民間部門の生産労働者及び非管理職従事者」(脚注3)と日本と違っており、日本の数字と直接の比較はできない。
いずれにせよ、「日本は他の先進国より労働時間が短い」というのは大嘘もいいところ。むしろ長い。こういう印象操作をして何がしたいんでしょう。マスコミ様は長時間労働が当たり前だそうなので、オシゴトが大好きで、残業時間の上限規制なんてくそくらえとお考えなのかもしれません。ご立派なことです。
なお、「毎月勤労統計調査」の調査対象と用語についてはここ(http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1d.html#link04)とここ(http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/yougo-01.html)に説明がある。
“日本人がどんどん働かなくなっている。バブル直後には2000時間を超えていた年間の総労働時間は少なくなり続け、’14年には1729時間にまで減少している(OECD調べ)。”
と書き、「それでも日本政府は、日本人は今でも働きすぎだと主張」して残業規制なんかを導入するなんてけしからんと述べている。
これも、数字は合っているのだが、筋が通らない。日本人の労働時間が短くなっているのは、パートタイム労働者が増えたせいだからである。
ちょっと古いが、厚労省高知労働局のまとめたこの資料(http://kochi-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/library/kochi-roudoukyoku/topics/topics222.pdf)(pdf注意)がわかりやすい。1ページ目に堂々と「平成8年度頃から平成16年度頃にかけて、パートタイム労働者比率が高まったことが要因となって総実労働時間は減少傾向で推移してきた」とあり、実際に一般労働者(フルタイム労働者)の総労働時間は2000時間程度で推移しているのに対し、パートタイム労働者の比率が高くなるにつれて全体の総実労働時間が減っているのがわかる。
それでも「日本人の労働時間が短くなっている」と言えるんかいな。日本人の総実労働時間が短くなっているのは、日本人がサボりだしたからじゃなく、非正規雇用がどんどん増えている厳しい状況だからという話なんですよね。まさか週刊現代の編集者はパートタイマーをサボっている人だと思っているわけじゃないでしょうし。(そうだったらどうしよう)
いまどき週刊現代で社会問題を学ぼうなんて人もいないでしょうが、論の大本である数字の部分で嘘をついちゃうのは、いくらなんでも酷くありませんかね。本当に働き方改革が日本を滅ぼすと思うなら、それっぽいデータでごまかしたりせず、正面から正々堂々と論じてくれたほうがマトモです。ま、結局結論ありきの空論だったのでしょう。こういうデタラメには騙されないようにしたいものです。
でも上級国民であるはてなーは勉強ができなかったみんなのことはインフラを支えてもらうために死ぬまで使い倒す気満々なんでしょ