2014-04-01

『いい人』なんていない

実家に帰るたび、母は温かいシチューを作ってくれる。

はいないので、父と母と私、三人で食卓を囲み、シチューを食べる。

そんな団らんのひとときが、休み明け、明日から頑張ろう!の源になる。

この和やかな雰囲気を、私は大切に思っている。

私はこどものから、いわゆる日陰の人だった。

年代の連中が惚れた腫れたでキャーキャー言っているのを横目に、私はひとり、料理お菓子作りに精を出していた。

友だちが全くいなかったわけじゃないけど、自分から交流を広げようとはしてなかった。

数少ない親友彼氏ができたとき自分を置き去りにして彼女がどんどん可愛くなっていくのを見ていた。

変わったね・幸せそうだね・ガンバれ!とか言って、顔では笑っていた。

でも心は、ドラマ登場人物を演じている自分と、それをテレビでぼーっと眺めている自分に別れたみたいだった。

大学生になって、同性の友人に、彼氏いないの?って聞かれたとき、いません、って答えたら、

「あー、最近『いい出会い』が無いんだねー。わかるー」ってリアクションを返された。そういうことがよくあった。

物分かりが良いのは結構ことなんだけど、そうじゃない。

こっちは『いい出会い』どころかそもそも出会いがないんだ。

出会う気もないし。

人ごとなんだよね。

自覚があったし、それが許されてると思っていた。趣味お菓子作りから、お裁縫、服作りに広がっていて、日々発見があった。視界が開けて、新しい世界がどんどん広がっていった。

自由に生きて、私は幸せなんだ。

何がいけない?

でも状況が変わったのは、2年前くらいから

「アンタ、『いい人』いないの?」と、母が聞いてくるようになった。

大学出たての頃は、そういう空気はまったく出してなかったのに。

2年前に妹がいなくなった。

未来につながる可能性は、私一人に絞られたことになる。

以来、母は、帰るたびに聞くようになった。「アンタ、『いい人』いないの?」

いないよw

って答えると、「そう。『いい人』が見つかるといいね」と優しく返してくれる。母には私にプレッシャーをかけようという意識はない。

質問自然に出てくる。

レモンティー淹れたけど、角砂糖はいくつ入れる? お風呂沸いたけど、アンタ先はいる?

みたいに。

「アンタ、『いい人』いないの?」

もちろん、会社男性はいる。

社内の飲み会から、送ってもらったついでに二人で飲み直す、という機会もよくある。

でも、最近は何かと言い訳をつけて、早めにその場を離れることにしてる。

ある同僚と酔って意気投合した事があった。彼は取り立てて魅力があるわけじゃないけど(失礼な言い方ですけど)、仕事ができて物腰が柔らかい、いわゆる”いい人”で、

恋愛対象としてみてたわけじゃないけど、その夜は二人で酔っ払って、一緒に笑い合った。

から楽しめていたと思う。

でもその後、無理矢理ホテルに連れ込まれそうになった。

「いやです!」って振りほどいたら、「ごめんね、本当にごめん」といって開放してくれた。

けれど、次の日職場に行ったら、もうこれまでの関係は消えてた。

仕事で教えてほしいことがあっても「ちゃんと教えてあげられなくて、ごめんね」、改めてこちらから食事に誘っても「その日は忙しいから、ごめんね」、

何かあるごとに謝るようになってしまった(以来私は、彼のことを心のなかで「ごめんねさん」と呼んでいる)。

そういうことは一度や二度じゃない。

上司に誘われた事もあった。人気のないところであまりにしつこくて、怖くなった私が泣いて振り払ったら、逆に説教された。

頭をてっぺんまで真っ赤にしてまくし立てる内容は、大体において支離滅裂だったが、いくつか覚えてる。

「酔った女を口説くのが男の仕事なんだよ」「俺のせいにするな。男はこういう風に生まれついているんだよ」「そんなことだからいつまでたっても独り身なんだぞ!」

友だちに相談したら、その友だちの環境ではそういうことは無いらしい。

彼女のほうが見た目は美人で、ずっと女性らしいから、私の職場おかしいだけなんだろう。

「でもその職場を選んだのは君だよね?」と言ってくれた友だちに対して、私は押し黙ることしかできなかった。

私は顔が日陰のくせに、胸が割りと大きいから、変な虫がよく寄ってくるのかもしれない。こっちはわたしのせいじゃないよね。

私には、結婚願望も恋愛願望も無いけど、

会う度に髪の毛が白くなっていく母をみて、このままでいいのかな、と思うことがある。

もういっその事、ハッキリ、「私には男と付き合う気も、結婚する気もないんだ。ごめんなさい!」って言い切ってしまえば、あとは丸く収まるかもしれない。

母は、別に孫が欲しいわけじゃないと思う。

私に幸せになって欲しいだけだ。

でも、中学生だった頃から父と付き合っていて、そのまま一緒になった母には、一人で生きる自由も、幸せも上手く理解できないのではないか。

そう思って、悩む。

悩むだけの価値が、あるつもり。

ロバストに生きるコツ。

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