2012-08-27

書評】「もっと自由に働きたい」「こんな僕でも社長になれた」家入一真感想

 「こんな僕でも社長になれた」

 「もっと自由に働きたい」

  家入一真

 家入一真 @hbkrという男は、10年くらい前から奇妙な個人サイトを作ったり、その奥さんも湿度の高い個人サイトを作っていたりして…インターネット黎明期における「オモロホームページを作る人」のひとりではあったわけだけれど。いつしか福岡で激安ホスティング会社をはじめ、そのうち起業家のような顔をしてあちこちのビジネス誌でリアルにみかけるようになり、最近では著書やらなんやらで若者たちに無節操生き方扇動したりしている不思議な男だ。

 いつまでも社会になじめないひきこもりに毛が生えたような男が「もっと家族と一緒にいたい」からと自宅でホスティング事業を起業し、上場マジシャンGM熊谷氏に見初められ結果として20億弱の個人資産を数年で築きあげる。(時価総額40億×38%+GMOへの個人株式売却益5億で概算)家入一真はその過程GM熊谷氏の株マジシャンぶりをみてクリエイター的に実態と世の中が与える価格乖離について強烈なインパクトをうけたんじゃないだろうか。

 「広告を顔に貼ったら面白くね?」「俺のクーポンを販売してみたい」…思いつきレベル(実際、すでに先行事例が多々ある)一発ネタを、サービスビジネスと言い張って展開する。かっこいいロゴ、とってつけたような立派な理念独自ドメイン、そんなペラいちのハリボテのようなサイトを「サービスビジネス」と言い張る。乱暴に原価でいえば30万円ぐらいの手間暇だと思うけれど、それを「ウェブサービス」と言い張り、時に法人名義でも作れば…それだけで一般のネットユーザーは100倍ぐらいの価値があるもののように勘違いしてくれる。

 言っておくけれど思いつきレベルからどうとか俺は思ってない。むしろ思いつきにはたいして価値はなく、パクリであってもいいと思ってる。それを実現させる実行力や、それを継続させていくことにこそビジネスとしての価値がある。これが「コント」や「アート」や「ボランティア」というなら身内だけでやっていればいいが、ビジネスとしてやるならいろいろと気にくわない奴もいるし、何をするにもお金がかかる。そんな中でバランスをとって継続していかなければならない。継続できなければお客さんがまた使いたいと思ったときに応えることもできないし、仕事に誇りをもって人生を費やしてくれている従業員の生活も守れない。

 何のつもりで家入一真は半端なサービスを次々と立ち上げては炎上させているのか。いきなり最近になって若い子達を自由に生きろと扇動しはじめたのかよくわからない。無給で集めた若い子の中で、芽が出そうであればかつて自分がされたようにお金に換えようとしているのか。それともそこまで深いことは考えてなくビジネス前線から離脱した男の退屈しのぎなのか。それとも自分が触れたものはすべて黄金になるかのようにうぬぼれているのか…。

 もう半分、人生あがってる本人はともかく。彼に憧れて自由に生きようと思っている若い子はひとつ考えて欲しい。室内で帽子をかぶって、昼過ぎに起きてツイートして生きていられるのは「クリエイティブ」で「悪ふざけ」なビジネスによる利益のおかげじゃない。その自由はホスティング事業という地味で昔からある仕事。24時間気のやすまらないサーバーエンジニア達。大切なデータが飛べば支払った金額に見合わないクレームをつけてくる顧客対応。そういった毎朝9時に必ず出社して不自由仕事をきちんとこなしてくれる何百人もの社員スタッフが営々と日々積み重ねる利益から生まれているんだ。

 末端の不自由の積み重ねの上の自由があることを隠して。いますぐ自由に生きろ。会社はやめてしまえ。と若者を焚きつけるのは、ヤクザの大親分人格者というような話を思わせる。

 もし若い君が家入一真のような自由に憧れるのであれば彼のマネをし彼に近づくんじゃない。コワーキングスペースマックを抱えてうろうろするんじゃない。飽きっぽく移り気な彼を支え、上場までビジネスを回してくれたような優秀なスタッフを探すべきなのだ。手がける仕事も「地味だけれど収益のあがる継続ビジネス」をみつけてパクるべきなんだ。

 そしてどうでもいいけれど家入一真はこじらせて頑張れるタイプ人間だと思うので…ソーシャルメディアの発達により、すぐにフォロワーが優しくしてくれるこの環境はあまり彼によってよろしくないんじゃないだろうか。日々、自賛ツイートをチマチマRTしている姿をみると、このチヤホヤされる時期が過ぎ去るまではぱっとしたサービスを生み出せないんじゃないかという予感もする。

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