思えば今の不安定な生活の根源は、高校に入った時点まで遡ることができそうだ。
自分は中学3年まで軟式野球をやってきていた。高校入試のために野球から離れてひたすら受験勉強に打ち込む時間ができた。まあそこまで勉強したわけでもなく、ときには友達とゲームをしたりしていたんだけれども。
いろいろやって、その地区で一番偏差値の高い公立高校に入学することができた。このあたりの時期は、もう野球はやらなくていいかなというふうに考えていた。
ここですね。親には高校でも野球をやりなさいと言われたので、しぶしぶ野球部に入部したけど、2日で行かなくなってしまった。
別に野球部の人たちを馬鹿にするわけでもないが、スポ根的なものとか、毎日身体を疲れさせなければならないということの方に嫌気がさしてきたのである。
部活に行かなくなったことは、すぐには親には伝えなかった。それまでの経験から、これはとてつもなく怒られることになるだろうということが分かっていた。すでに高校用の野球道具も買っていたので、なおさらだ。
それからとにかく生産的でない生活をしていた。放課後は部活に行っていることになっているので、授業が終わってからも帰宅することはできず、地元の本屋に入り浸ったり、親に見つからない場所でレンタル漫画を読んだりしていた。
そろそろ帰ってもいい時間かなと思ったら、小学校のグラウンドに行って、練習着を汚して、今日はどういうことがあったなどの嘘の報告を考えていた。
我が家では、帰宅したらだいたい親に何か出来事があったら報告するようになっていた。部活に関することはもちろんである。
そういう生活を一ヶ月ほど続けていて、そろそろ隠しきれなくなってきたので、こっそりと伝えたら、当然ながらひどく怒られた。何度も殴られたし突き飛ばされた。
このあたりで、自分は自由な時間が欲しかったんだなあということに気がついてきたが、そんなことを言ったら勘当されかねないと思っていたので、ずっと言わずにいる。
まあなんやかんやあって部活を辞めることに成功した。もうだいぶ親との関係の雲行きが怪しくなってきていて、帰宅してからずっとビクビクするようになった。
友達はいない訳ではないけど少なかったし、特に居場所があるわけでもなかったので、図書館に行ったり学校中をぶらついたりしていた。
二人組を作ると余るような人間だったので、気配りのできるような人にすがっていくばかりだった。
それでも、ちょっと勉強ができる方だったことと、高校の雰囲気として質がそこそこ高かったこととで、いじめられたりすることは最後までなかったし、これに関してはいろいろな方面に感謝するしかない。
体育祭の時期になったら、体格が悪いわけではないという理由でピラミッドの下段ばかりやる感じで、3年間ずっと係の仕事をさぼっていて、特に目立つことはなかった。
いやあったわ一度だけ。3年の文化祭のときだ。このときだけ、誰が教えたのやら、先生に知られ、クラスの作品の担当をすることになった。
そのとき担当の人はもう3人いたんだけど、2人は部活があってあまり作業できなくて、もう1人の人と作業をしていることが多かった。
作業をしながら、愚痴のようなものとか、家庭に対する吐露とか、そういう話ばかりしていて、実はそのときが一番生き生きしていたのではとさえ思ってしまう。その友達とは、高校を卒業した今でもときどき連絡を取り合っている。
高校は基本的に悪くなかったはずで、じゃあ何があったかって、やはり家族関係のことを考えると頭痛がするということだった。
もうちょっと高校の時間を有意義に使うべきだったなあというのはずっと思っていて、具体的には人間関係を広めるべきだったということで、気を配ってくれるような人とはけっこう仲良くなっていたけど、普通の人とはそこまで交流がなかった。もったいないことをしたなあ。
まあそんな感じで高校もやっていて、無事に大学に現役合格して、これでめでたしという感じでいくつもりだった。念願の一人暮らしで最高。最高だったらよかった。
本格的におかしくなったのは、大学1年の秋になってからだったと思う。
寝坊するということがあった。まあ寝坊ぐらいは以前からも少しはしていて、ぼくはそんなに異常を来していたとかそういうつもりはないんだけど、親のほうが敏感になっていて、何度も電話をかけてきた。
挙句の果てには、毎朝電話をかけてやるということを言うようになった。おいおいマジかというふうに思ったが本当にかかってきていて、すくなくとも大学のある日とか、食堂が開いている日はずっと朝電話がかかってきている。
それで起きる日も、その前に目が覚める日もあるんだけど、そこから生活がおかしくなって、常に監視されているという気分が止まなくなった。というか実際に監視されている。
大学生協で買ったものも、食堂で食べたものも見られてるし、いろいろなことを聞き出してきて、辻褄が合わなくなったら責めてくる。
せっかくの一人暮らしなのにまったく一人暮らしらしさが消えている。本末転倒だ。
家のお金があまりないのは分かっていることなんだけど、段々と大学とかいろいろなことに対するモチベーションが低下してきていて、留年を見据えてしまうようになった。もちろんそんなことは親には言ってない。
いろいろなことが強制されるようになっていて自立とはという状態になっている。
親に関して、どうやら自分の子が見えないところで何をしているのかがほんとうに気になるという性分なんだろうなあ、というふうことが最近わかってきていて、ため息をつくしかなくなっている。
電話に出て、適当に返事して、何か問い詰められたらつらい気持ちになって、講義に出たり出なかったりしている。
親へ、これを見てるんだったら今すぐ毎朝電話するのをやめてください。もう何回か伝えたと思うけど。せめて月に数回とかにしてください。ぼくはそんなに電話がうまくないし、朝からつらい話でモチベーションを下げられることほどつらいことはありません。
さすがに大学に行かせてもらっている身分だしやるべきことはやろうと思いますので、毎朝を進捗報告と詰問の時間にするのをやめてください。