任天堂の岩田聡氏が亡くなったことを聞き、とある男性のことを思い出した。
初めて出会ったのは、とある武道のクラブで小学校低学年の頃だ。
明るく朗らかで、でも平凡な子供だった気がする。
顔を合わせるのは週に一度だけ。
私は、そのクラブをやめたり、もう一度再開したりを繰り返し、彼もまたそんな感じで、終わったらササッと帰っていたので、それほど多くの言葉は交わしてなかったと思う。
同じ中学になって知ったことだけど、彼は学校の勉強が出来るほうだった。
小学校が別であったため、小学校当時の彼の学校での様子はわからないけれど、親経由でオール5をとったという話は聞いたことがある。
私もまた、そういう小学生によくいる、プチ秀才だったので、ふーんという感想しかなかった。
中学での彼も、明るく裏表のなく、私は彼をとても好いていた。
成績は当初、私のほうがよかった。
月並みのように思えた。
普段も、すこし昔の出来事を綺麗さっぱり忘れるし、文系科目は苦手で、記憶力がいいとはとても思えなかった。
でも、時々、ものすごく難しい数学の問題(私にはそう思えた)を解いたりして、普通とは違うかのように思える一面はあった。
学年が進んでも、彼は明るく裏表のないナイスガイだった。
でも、私だけは彼の異常性を感じていた。
人間関係における策略性のなさというべき、人に自分をよく見せようとか、他人を嫉妬するとか、そういう感情の欠如のような感じ。
決して冷たい人間ではない。
むしろ、手品とか、芸のような、みんなを笑わせようという行動はよくしていたけれど、本当にみんなを楽しませようとしか考えてない感じがあった。
クラス会などで、話し合っても答えが出そうもないような時はフラリと帰ってしまう、そういうところがあった。
ある日の授業、どういうわけか、自習になり、コンピュータ室でワープロソフトをいじらされた。
内容は覚えていない。流行ってる歌の歌詞を入力しなさいと言われてたと思う。
当時ベーマガ愛読していた私は退屈していて、その当時覚えたてのアルゴリズムを自分なりに改造して、真っ黒い画面に英単語や記号を並べていた。
幾何学模様が順に描かれていき、消えていく、そんな単純なもの。
その時となりの席だった彼に、なにをしてるのかと聞かれて、ほとんどそのまま答えた。
「ここが変数の宣言で~」「ここからここまでを何回もループさせて~」
映像として動かしたわけではなくて、当時の中学生からみたら、英語のような文字の羅列があるだけに思う、真っ黒な画面で、私はそんな解説をした。
「へー、イコールの記号は数学で使うイコール(右と左が同じ)と意味が違うんだねぇ。」
というようなことを彼が言っていたのを憶えてる。
今でも私だけが知ってる彼の秘密。彼自身も忘れてる彼の秘密だ。
同じ高校に進学して、数学や物理のテストで、彼の才は目立つようになった。
平均点30点代の試験で、1人だけ90点をとってしまったことが彼の名を校内に知らしめた。
でも、私がみる限り、彼は数学にも物理にも興味はなかったようにみえた。
彼の回答は、数学的ではないところがあった。
前提の元に解かれていて、その解が一般解である確認や他に解が存在しないかの確認がされてなかったりする。
目の前の問題を解決することに、答えに辿りくことに興味があるだけで、普遍法則には興味がないのだと思う。
そのことに気がついた時、彼の人の良さの答えがわかった。
目の前の障害をクリアすることにしか興味が無いから、他人を蹴落とそうとか、他人に嫉妬するという感情がないのだ。
問題を解決するためのアイディアを提案しあう話し合いでは強くても、参加者が気持よく賛成できる落とし所を考えるような話し合いでは帰ってしまうのだ。
彼が私に、彼の彼女に「「わかっちゃいるけどやめられない」と言われ、「それわかってないんじゃん」と笑ったら、怒られた」
と愚痴をこぼしたことがある。
私は彼のことが大好きだけど、私が女だったら絶対にこの男とゲットしたいと思うけど、世の中の女の受けは最悪だろうな、と思った。
彼が結婚披露宴に呼ばれたとき、思わず私は彼の結婚相手の女性に
「彼の良さがわかる女性がいて、本当に嬉しい。」
後に彼に、「嫁が私にかけられた言葉をとても喜んでいた」と教えてくれた。
彼自身は、その言葉がなぜ彼女を感動させたかわからず不思議そうに報告してくれた。
私の友人の話はここまで。
リーダーシップとはなんなのかを考える。
リーダーがバラバラの方向を向いた各メンバーの進行方向を、みんなの意思を、前に向ける仕事であるならば、私の大好きな彼は絶対に向かないと思う。
各セクションのメンツや気持ちを考慮して、気持よく「イエス」といえるような空気作り、そんなことは彼に出来ない。
もう中年に足を踏み入れつつある今でも、そんなことが世の中で行われていることすら気付いてない。
みんなの気持ちを調整して、みんなが気持よくイエスといえるような会議の進行は、会社の運営は出来ない。
理詰めで、冷徹に人を切るようなこともしない。
問題の本質を見抜き、凡人が、「これしかない、これが最良」と思える答えのその向こうにある、本当の答えに最速でたどり着く。
各セクションの内情など、わからなくても仕事を割り振りできる。
インプットに対するアウトプットさえわかっていれば、自分が知らない分野のスペシャリストだろうと、外部の組織だろうと、使いこなすことができたのだと思う。