2019-10-25

仙台牛タンは薄切りを食え

anond:20190813123238

何やら仙台グルメの話が盛り上がっているが、

個人的ひとつ言いたいのは、厚切り牛タン絶対にNOということだ。

仙台の名店と言われる店の多くが厚切りで牛タンを出してくるが、はっきり言ってありえない。

牛タン素人調理しているんじゃないかとすら思う。

厚い牛タンなんてゴムみたいな食感で、あごは疲れるし味はボヤけるしすぐに飽きるし、全然牛タンとしての旨みを活かせていない。

サクサクと噛みきれる厚切りは、それはそれで不気味だ。肉としての威厳が無い。

あんものを店で食うなら、土産用の薄切り味噌漬けを家で焼いて食ったほうが100倍美味いと、俺は思う。

こう思うにいたったきっかけは、20年ほど前、仙台出張した際に地元の人に連れられて入った牛タンである

夏の日だった。

地理には疎いが、仙台駅の西口から10分ほど離れたところだったと思う。ビルが並ぶ通りから少し裏道に入った場所だった。

さな食堂風の店構えで、知る人ぞ知るという雰囲気である

ここで出された牛タンが薄切りで、その完成された味に驚いたのだ。

メニュー定食

焼き魚を乗せるような長方形の皿に、飾り気無く盛られた牛タン。薄切りとは書いたが、普通の薄切りよりは厚めだ。だが厚切りではない。そして一口が小さい。

同じ皿には、意外なほど大量に添えられた漬物がある。

そしてサイコロ状の肉が一個と、白髪ネギが浮いたテールスープ

麦飯。トロロ。(案内してくれた人にこれは後半に食べろといわれた)

まあ、牛タンだし普通に美味いんだろ程度に思いながら肉を口に運び、そして打ちのめされた。

小さく薄切りにされた肉の一枚一枚に、牛タンの味が凝縮されていた。

見事なまでに旨みだけがコンパクトに封じ込められている。

肉は硬すぎず、適度な噛み応えがある。

噛むとジュワっと肉汁が噴き出す。

厚切りになどしたら下品間抜けな味になるところを、美味さが一口にまとまるように絶妙バランス計算された分量だった。

今までの人生で食べてきた牛タンのコクがすべてここに集結したかのような味である。よく出来たアニメ最終回と同じ感動だ。

試しに二、三口分をいっぺんに食べてみたらこれはもう方程式が狂ってしまい、途端に「違う」と感じた。

やはり意味があっての薄切りなのだ

この店は牛タンだけでなく定食としての完成度も恐るべきクオリティだった。

薄い一切れの味が濃厚で、一口食べるごとに「牛タンを食べた!」と満足できる旨みの強さなので、他の食材にも箸が進む。

まずは当然麦飯。

塩加減が強い牛タンと一緒に食べると、少しパサパサめの麦飯が、まるで砂漠で飲む水のように喉を通過していく。

気づけば食事開始3分で茶碗は空であり、当然おかわりを注文する。

そして名前がわからない手作り漬物と、よくダシの取れたテールスープ、ここまで温存しておいたトロロ。

以前の俺は漬物が嫌いだった。しかしこの定食を食べた時から漬物を愛するようになってしまった。食前に残したらどうしようなどと思っていた自分馬鹿らしい。

一口分の漬物牛タンで巻いて口に運び、麦飯とともに十分に咀嚼する。

牛タンの旨みと野菜の瑞々しさが絡み合い、絶妙に美味い。

笑いたくなるほど麦飯が進む。

夢中でほおばった勢いで軽くむせそうになりながら、それをあっさり味のテールスープをすすって流し込めば、ピリリと効いたコショウで食欲がさらに増進される。

これを何度も繰り返す。

牛タンの旨みを常に新鮮に味わい続けることができる、黄金食事だ。

まりクーラーの効いていない店内がかえって食欲を煽る。

汗をかき喉が渇くが水を飲んでいる暇などない。

至福である

さらにおかわりを注文する。店のオバサンがニヤリと笑う。

すでに麦飯を二杯平らげているので腹もそれなりに膨れかけているはずだが、ここでトロロを投入だ。

この手順をはじめて聞いた時は、牛タンの美味さと余韻をトロロが壊すのではないかと恐れた。しか杞憂だ。

刻み海苔が添えられ甘めのダシで味付けされた冷たいトロロは、牛タンの油と旨みでギトギトになった口と食道に、これまた清涼剤のように染み渡る。

例えるなら、大学時代サークル仲間と一緒に行った海水浴だ。小学校友達プールの帰り道に飲んだラムネだ。

晴れ渡った青空ギラギラと照る太陽イメージ脳裏に広がる。

夏だ!! 俺は今夏を味わい尽くしている!! そう心から確信した。

行儀など気にする余裕もなく、とにかく目の前の牛タン定食を味わい尽くすので精一杯だった。

冗談抜きに、俺と牛タン定食だけの空間だった。

まりの美味さに食事中はほとんど口も聞かず(案内してくれた人は食べる順番などを細かく指示してくれた。はじめは鬱陶しかったがあとから本気で感謝した)ガツガツ定食をむさぼり、店を出てからはひたすらに美味かった、本当に美味かっためちゃくちゃ美味かった、と連呼することしかできなかった。

案内してくれた彼は、特に言葉を返さずに、しかし心から笑顔で静かに頷いていた。

夢のような牛タン体験であった。

それ以来、牛タンは薄切り派になった。

何年か経ち、また仙台に行く機会があったので当然のごとく牛タン屋に向かった。

一人だったので、とりあえず有名店なら外さないだろうと思って適当店舗に入った。

しかし、出てきたのは厚切りのブサイク牛タンで、タン特有の味や匂いぼんやりと口中を漂うだけで美味くもなんとも無く、噛みきれない肉にイライラするだけであった。

テールスープもギトギトしているだけでアブラ水を飲んでいるようだった。

漬物だけの方がよっぽど食が進んだ。

しかし、これが有名店であり、地元民や観光客などから歓迎されているという事実に、さら絶望した。

あれから何件か牛タン屋をめぐっているが、どこも厚切りのものばかりで、あの奇跡のような薄切り牛タンにはめぐり合えていない。

どうやら牛タン界隈では、薄切り派に居場所は無いらしい。

俺は少し牛タンを嫌いになった。

できることなら、あの店、あの奇跡牛タン定食を出す店に、もう一度行きたい。

もう一度あの薄切りの牛タンを堪能したい。

そしてみんなにも行ってほしい。

ご存知の方がいたら、どうか店名を教えてほしい。

しか20年も前だ。

店はもう残っていないのかもしれない。

ぶっちゃけただの個人的な思い出話であり、厚切りか薄切りかは別にどうでもいい。

どちらにしろあの牛タンは恐らくもう食べられないのだ。

記事への反応 -
  • いや分かってるんだけど 都内でも普通に食えるって でもこういうの、抗いようがない何かあるよな   多分普段から牛タン食いたいとは思ってるんだ でもモチベーションが足りない そ...

    • 牛タン以外だと喜久福が旨い。仙台で食えるもののなかで一番旨い。 もしずんだに嫌悪感が無いのなら喜久福をやっている喜久水庵ことお茶の井ヶ田が一番町店だけでやってるタピオカ...

      • anond:20190813123238 何やら仙台グルメの話が盛り上がっているが、 個人的にひとつ言いたいのは、厚切り牛タンは絶対にNOということだ。 仙台の名店と言われる店の多くが厚切りで牛タンを...

        • 薄切りで旨い店に当たったんだな。 それはそれで良かったな。 俺は、厚い牛タンを勧める。 anond:20191024144908

        • 東京で ねぎし の牛タン食ってるだけで十分だわ

      • 笹かまぼこは白謙が好き。まあまあいい値段するけど。石巻で工場がなくなったけど復活して頑張ってる。 仙台駅エスパルの寿司ならすし哲。まあどこの寿司屋もうまいと思うよ。

      • タピオカずんだシェイク黒パールならエスパルで飲めるよ。 ずんだ茶寮のタピオカずんだは喜久水庵じゃなくて味が好きじゃないから飲んでない

      • 順位 全体順位 ブクマ数 タイトル 日付 備考 1 1 2566 料理家のアメ横(御徒町)買い出し指南 12/28 2 7 1681 何がしたいの...

    • たまに仙台に行って、地元の人がご飯を一緒に是非利休で、ってもてなしてくれるのは、歓迎してくれている気持ちが嬉しい反面、ほかに仙台らしい誇れるところは無いのかな…と心苦...

      • 笹かまぼこ

        • ごめん、笹かまぼこはお祝いに出てくるレベルの食材なのかな…

          • なんか勘違いしてる人が多いけど、魚の加工品であるかまぼこは基本的に高価なものなんやで。おせち料理にも入ってるしお祝いに使われるもんなんやで。

    • 仙台に住んでいる者だけどマジで仙台には牛タンとか笹かまとか食いもんしかない 松島は仙台じゃねぇからな

    • はらこ飯メーーッチャおいしかった!

    • ご飯じゃないけど喜久福一択 あれをいつでも食える環境は正直羨ましい

    • 国分町の写楽って寿司屋美味しいよ あとは油そばが最近アツいからオススメ

    • うしたんしかうってないんだからしょうがないじゃん

    • ずんだを珍重するあたり仙台人の味覚は信用ならない

記事への反応(ブックマークコメント)

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