■欠陥ばかりの会計年度任用職員制度

anond:20211015101356

追記したら、つらつらと書き足したことが表示しきれなくなってしまったので、記事を分けて残しておきます。

• 会計年度任用職員が始まる前は、アルバイトだの日々雇用だの嘱託だの臨時職員だの一般職非常勤だの特別職非常勤だの、色々な任用根拠による色々な呼ばれ方の色々な待遇の非常勤職員があまり秩序なく採用されていたため、臨時的任用職員と会計年度任用職員のみに整理された。どちらも分類としては一般職の非常勤職員。臨時的任用職員の勤務時間は常勤と同じ場合のみになった。だが総務省は財源も保証しないまま一律に期末手当を支給しろと言ったり、非常勤の医師のようにどう考えても公務員としては例外的な職をこの枠に押し込めたり、実態を知らないまま制度を作り変えた上に指導が硬直的過ぎる。総務省より厚労省のほうがよほど地方に密着しているように感じるがいかんせん厚労省は地方自治の法制度の知識は乏しい。
• 会計年度任用職員制度の目的が非常勤地方公務員の待遇改善だったことに疑いはないが、結局、1年間しか任用できないとか、1年ごとに選考し直さねばならないとか、期末手当の費用の確保のために月給を下げるとか、よくない感じになってしまった。総務省の制度担当がどんどん異動で入れ替わってるうちに制度改正自体が目的化してしまったのだろうか。待遇改善の核として必要だったのは、非常勤職員の勤務条件を条例制定して可視化することの徹底指導と、必要な人件費を自治体に確約するくらいだったのではないかという気がする。待遇というのは出せるお金次第なのだから、地方公務員法に、「国は地方公共団体が非常勤職員を任用するために必要な費用を負担しなければならない」とでも規定を追加して責任を持つべきではなかったか。
• 公立校の教員も地方公務員だから、「臨採」とか呼び方が違うだけで任用のされ方は同じ。教員は会計年度任用職員より臨時的任用職員がほとんどだと思う。臨時的任用に関しては、休暇や給与の勤務条件を正規職員と同じにしなければならないと総務省から指導されたため、改善されたはず。ただ、臨時的任用できるのは正規職員の欠員時のみ。もっとも教員は今や不人気で慢性的に欠員してるみたいだけど。　
• 教員や公営企業もだが、任用の根拠がどの法律なのかと給与にどの法律が適用されるかが別なのでややこしい。給与の根拠は、地方公務員（長、職員（正規も非正規も）、委員会の委員、議員）→地方自治法　公営企業部門→地方公営企業法　単純労務職員（技能労務職員）→これも地方公営企業法　教員→いわゆる「給特法」　
• 自治体の雇用契約を認めないというのは、公務の権力性に鑑みて公務員として任用せずに仕事させるのは不適当だから、とかそんな感じの理屈で昔できた解釈だったと思うが、ワクチン接種のような業務は民間と何も変わらないし、実際にアルバイト的に雇用して賃金を支払うのは法的にも実質的にも何も問題は起きていなかったと思う。しかし学説や判例では昔から頑なにそう言われてきたらしい。だから総務省が改めてそれを言っただけではあるのだが。（『非正規公務員と任用の法的性質 - 地方自治総合研究所』　匿名ダイアリーの仕様か？これ以上リンク貼れなくなってしまったので参考記事のタイトルだけ書いときます。）。　
• それにしても、役所の仕事でも権力的な性格の弱い業務は公務員ではなく派遣社員が行ってよいのであれば、その業務を公務員ではない雇用契約を結んだ人が行っても何も性質は変わらないわけで、役所の同じ業務なのに派遣はOKで雇用はNGというのはやはり珍妙ではないかと思う。
• 報償費が法的に何なのかはよくわからない。準委任契約の対価だろうか。
• 知事名の紙ペラというのは、数年前までならこういうアルバイト的な仕事に特別職非常勤として任用することもできたと思うので、その前例踏襲だろうか。この特別職非常勤職員（地方公務員法第3条第3項第3号「臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託員及びこれらの者に準ずる者の職」）への任用が、一応は公務員としての身分はありつつ勤務時間の管理等の縛りがないために、非常勤医師や交通安全指導員や公民館長などの柔軟が働き方が必要な場面で広く使われてたのだが、無軌道過ぎて一般の事務を行う職員の任用にまで使われてしまい、休暇制度等で条件が悪化したため、会計年度任用職員と同時に厳格化され、今は自治体の顧問や調査員のような本当にごく限られた職しか3号特別職非常勤職員にできない。同号の規定上「その他総務省令で定める事務」という余地があるのだから、実態を自治体から聞いて、もっと広く認めるべきだったと思う。　なお、「○○委員会」の委員は第2号の特別職非常勤となる。
• 自治体の正規職員の任用は今や公平な競争試験をクリアすることでしかありえず、学芸員として長年勤めたから正規職員にしてほしいと頼むのは無理筋だと思うのだが…教委にそんな力はないとも思う。浦幌町の博物館の方のほかにそれができた方はいるのだろうか。
• 国家公務員については、人事院の代わりに河野大臣が睨みを効かせたおかげで不当な労働が是正されつつあるようだが、地方公務員はトップがバラバラなのでそうもいかない。人事院で無理なことが自治体の人事部門にできるわけがない…というか今できてないので、地方公務員法第58条第5項は削ってしまい、一般職の地方公務員全体について労働基準監督署が自治体を監督できるようにすべきと思う。今でも労基署の権限が及ぶ部門には自治体相手でもしばしば労基署が入っている。　（『都水道局、残業代未払い　労基署が是正勧告』、『伊賀市上下水道部に是正勧告　労基署、時間外労働などで３度』、　『保健所「過労死寸前」「昼夜なく緊張状態」　職員自ら労基署に通報』 （2021年9月19日 朝日新聞）→『保健所職員の時間外労働、ひと月274時間の例も　労基署が是正勧告』（2021年11月26日 朝日新聞）
• だが総務省にとっては、地方公務員のために厚生労働省と調整して法改正するのは億劫なことだろうし、自治体に要請してる定員では業務に比して全然足りないことが客観的に知られるのは都合が悪いことだろうと思う。
• 労働基準法における労働者にあたるかどうかは、裁判所が契約の名目ではなく労働の実態から客観的に判断する、ということになってると思うが、その裁判所が自治体は雇用契約はできないとも言ってるわけで、この線でもまた、どう辻褄を合わせるのかがわからない。いろいろすっとばした任用行為ってことにでもするのだろうか。だがその場合は手続きの違法が多すぎて任用が無効になりそうな…
  • まさに、雇用契約を締結することはできないけど偽装請負を介することで結果的に雇用契約だと認定される、バグ技みたいな裁判例が出てきているとのこと→自治体は雇用契約を結べないけれど、偽装請負だと雇用になってしまう件について: hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)　とはいえ最初からそのつもりで違法な偽装請負とわかって契約するわけにもいかない。
  • 今回の件で、こうした地裁判決だけを根拠に自治体が事後的に何かしらの方針転換をするかどうか。ワクチン接種の報償費での対応だけなら限局的だから、可能だろうか。ただ報償費の有償ボンティアはたぶん他にも結構いる。どう対応するにせよ、内部統制評価報告書に記載せざるをえないのではないか。
    • 追記したように、既に役所の有償ボランティアの労働者性が認められた事例があった。
  • これが転機になって全国一斉に見直しが行われて立法的にも解決されたら劇的なのだが。とりあえず今回の件を踏まえてまた総務省の調査や「技術的助言」が行われそうな気はする。
• 会計年度任用職員だとして、労働基準法が適用されるといっても同法第26条の休業補償がそのまま適用されるかはまた別の問題で、労基法による休業補償の支払いと、自治体は地方自治法第203条の2第5項等の制約により条例で規定したものしか支給できないことと、どっちが優先するのかはっきりしない。金額に裁量の余地がないからそのまま適用して支払っていいんじゃないかと思うけど。
• 平時の窓口を派遣会社に委託するのはワープアの温床だからやめるべきだが、今回みたいな突発、大規模、専門的な業務は派遣会社の本領だと思う。埼玉県がそうしなかったのは、派遣会社が手一杯で応じてくれなかったのか、急いでたから馴染みのあるやり方で始めたら引き返せなくなってしまったのか、手配に関わった担当者が、制度面で内部の応援を得られないまま不慣れなことを奮闘した結果なのだろうとは思う。
• こういう実務の隙間みたいな分野は、研究者はあまりおらず、案件が無いから弁護士も関心が薄く、国は地方の業務や生活のために非常勤職員してる人に関心が乏しく、地方は知識不足＆都合が悪くなることを言いたがらず、当の非常勤職員は知識もないし立場が弱くて訴え続ける力が乏しいため、空白になっているのだと思う。今回は「新型コロナ予防接種の集団接種に参加した看護師」という社会的にも体力的にも超強い人達がたまたま巡り合わせたため、こうして注目されるに至った。
• 『内水氾濫防ぐ、排水ポンプ操作員の死　背景に使命感頼みと高齢化』（2021/9/2 西日本新聞）　こうしたポンプ場操作員も従来は特別職非常勤職員であり、公務災害補償の対象だったが、会計年度任用職員制度以後は不定期勤務の場合に任用することが禁じられ、記事にあるように委託業務になった。

Permalink | 記事への反応(2) | 21:01

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