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2023-08-08

チョレギサラダ」の謎

はじめに

日本ではすっかり定番となった「チョレギサラダ」。

ざっくり言えば「レタスごま油と塩ダレで和えたサラダである

ワカメ海苔を入れたり、ドレッシング醤油ダレだったりすることも多い。

韓国料理だと思っている人もいるだろうが、実はこのサラダ韓国には存在しない。

そもそも韓国人に「チョレギ」と言っても通用しないらしいのである

では「チョレギ」とは何なのか?

インターネット上ではいくつかの語源説が流布されている。

ちぎる説

かつて多かったのは「チョレギ」=「ちぎるという意味韓国語」という説明である

https://www.seoulnavi.com/special/5000619

チョレギサラダのチョレギとは、手でちぎるという意味。その名のとおり、レタスなどをちぎって作るサラダなのです。

しかし実際に調べてみると、韓国語で「ちぎる」は「뜯다(トゥッタ)」や「찢다(チッタ)」と言う。

この説は明確に誤りと言えそうである

浅漬け

もう一つは「チョレギ」=「韓国語で浅漬けキムチ意味するコッチョリの方言チェレギ」という説である

おそらく以下のようなブログで書かれた内容が広まったのだろう。

https://www.kansyoku-life.com/2006/04/86.html

結論から言うと「コッチョリ」の慶尚道方言で、現地の発音では「チェレギ」と呼ばれます

「コッチョリ」とは浅漬けにしたキムチのことで、発酵期間をおかず、漬けてすぐに食べるのが特徴です。

野菜に味付けをして和えるだけなので、見方によってはサラダとも言えるでしょう。

サンチュのコッチョリなどは、見た目もサラダのものです。

現在Wikipediaなどでも概ねこの説が踏襲されている。

しかし疑問は残る。

サンチュコッチョリは「サンチュ唐辛子ダレで和えたサラダ」とでも言うべきものであって「レタスごま油と塩ダレで和えたサラダ」ではない。

ワカメなどはサンチュコッチョリでも使われることがあるらしいのでいいにしても、少なくとも唐辛子が使われていないとコッチョリとは言えないのではないか…?

犯人エバラ

さて、「チョレギ=ちぎる」説について、前掲の記事ではこう説明されている。

チョレギの意味が混乱しているのは、日本にやってきた当初の説明不足が原因だと思われます

僕の記憶によれば、チョレギを有名にしたのはエバラCM

チョレギドレッシングなるものを発売し、大々的にチョレギの名前日本に広めました。

このときホームページでの説明が、「チョレギとは『ちぎった生野菜サラダ』を意味します」というものでした。

この説明で「チョレギ=ちぎる」という認識が広まりネット上でも、そのように説明されているケースが多いです。


2001年当時のエバラウェブサイト確認してみると、たしかにそう書いてある。

https://web.archive.org/web/20011214042210/http://www.ebarafoods.com/news/recipe/choregi_recipe.htm

チョレギとは?

『ちぎった生野菜サラダ』を意味します。

しかも、当時のエバラの「焼肉屋さんのチョレギサラダシリーズには「あっさり塩味」「ピリ辛コチュジャン味」「焙煎ごま醤油味」があったらしい。

まり当時のエバラは「チョレギサラダ」を「ちぎった生野菜サラダ」というだけの意味で使っていて、味付けはさまざまなものを想定していたのだろう。

ただ、「焼肉屋さんのチョレギサラダ」は2005年頃に販売終了、その後はチョレギドレッシングを発売しても塩味だけにラインナップを絞っているようだ。

まり売れなかった(あるいは塩味しか売れなかった)のかもしれないが、当時は印象的なCMを盛んに流していたので「チョレギサラダ」の知名度は向上したものと思われる。

エバラ以前の「チョレギ」

では、エバラドレッシングを発売する以前、日本で「チョレギ」はどのくらい広まっていたのだろうか?

例によって国会図書館デジタルコレクション調査してみよう。

国立国会図書館デジタルコレクション

これをみるかぎり1976年週刊ポスト記事が最も古い。

国立国会図書館限定」なのでネット上では内容を確認できないが、以下のような記述らしい。

女性に人気があるのは、いうところの野菜サラダであるチョレギなる代物。特製の味つけは店の極秘というだけあって、その味はちょっとしたもの

OCRの精度がかなり怪しいが、どうも「神宮前の『神宮』」という焼肉店を取り上げているのではないかと思われる。

次に古いのが1981年週刊文春記事

それからサラダの「チョレギ」はサラダ菜と長葱に十種類の調味料を合わせたドレッシングが使ってあって、味も格別です。

こちらも、おそらく「青山の家の近くに開店した焼肉屋さんの『第一神宮』」という店について書かれている。

この神宮前の「神宮」と青山の「第一神宮」はおそらく同じ店を指していると思うのだが、

第一神宮 青山店」はつい最近まで営業していたので食べログにも載っている。メニューを見ると、

https://tabelog.com/tokyo/A1306/A130603/13001197/dtlmenu/

チョレギ 700円

手作りドレッシングサラダ

ワカメチョレギ 800円

と、しっかり「チョレギ」が確認できる。「ワカメチョレギ」もある。

また写真を見るかぎりでは唐辛子確認できず、それほど辛くはなさそうだ。

そうしてみると、韓国サンチュコッチョリをもとに現在のようなチョレギサラダを作り出したのは「第一神宮」なのではないか、と推測したくなる。

(もちろん記録に残っていないだけで他店でさらに古くから存在した可能性はある)

ついでに「コッチョリ」も検索してみよう

週刊現代1985年

あっさり味のサラダ「コッチョリ」

主婦生活1987年

夏野菜韓国サラダ・コッチョリ ごま風味の辛みダレでいただく

月刊食堂1992年

コッチョリ(韓国サラダ)

週刊現代2000年)

コッチョリ600円。しょうゆベースの甘辛いドレッシングがかかる韓国サラダ

1980年代の時点ですでに「コッチョリ」も「韓国サラダ」という意味になっていたようだ。

また「あっさり味」「ごま風味の辛みダレ」「しょうゆベースの甘辛いドレッシング」などはそれぞれ異なる味付けに思える。

こうしたバリエーションを眺めて、エバラが「塩味」「コチュジャン味」「醤油味」を発売したというのなら筋が通る。

まとめ

「チョレギ」はもともと韓国浅漬けキムチのことである

韓国ではどちらかというと「コッチョリ」と呼ばれることが多いらしい。

特にサンチュのコッチョリは「唐辛子ダレの野菜サラダ」とも言える料理である

日本では1970年代から第一神宮」という焼肉店が「野菜サラダ」として「チョレギ」を提供していた。

それはコッチョリというよりも、おそらく現在チョレギサラダに近いかたちにローカライズされたものだった。

1980年代以降、チョレギやコッチョリは焼肉店などを通じて広まり、さまざまな味の「韓国サラダ」の総称となっていった。

2001年に、エバラ韓国サラダドレッシング商品化した。

塩味」「コチュジャン味」「醤油味」があり、それがおそらく当時の焼肉店でよく見られた韓国サラダラインナップだったのだろう。

また、そのときチョレギサラダ」という呼称採用されたことにより、「コッチョリ」よりも「チョレギ」という呼称が広まることになった。

といった感じでどうだろうか。

ここからさら調査を進めるとしたら「第一神宮」の店主に話を聞いてみたり、

1970年代以前に「チョレギサラダ」や「コッチョリサラダ」を出していた店がなかったかを調べる感じか…。

 
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