僕は音ゲーマー、26歳。
あれは2年前のことだった。
キッカケはわからない。突然何もかもがわからなくなってしまったんだ。それまでは、自分の人生を疑ったことなんてなかった。もちろん、24歳で「彼女いない歴=年齢」ということで、色んな人に色んなことを言われたものだ。でも気にしていなかった。僕には音ゲーがすべてだった。
音ゲー。みなさんは音ゲーを知っていますか?僕は知りません。。。
音ゲーって一口に言っても一杯ある。みんなの知ってる太鼓の達人、jubeat、DDR、一杯あるけど、僕は不器用なのでBeatmania IIDXしかプレイしたことがない。しかもSPといって、両手をダイナミックに動かすカッコイイやつじゃなくて、7key+スクラッチという狭い空間を両手でやるプレイスタイルしかやっていない。正直、音ゲーマーを名乗っていいのかわからない。
でも僕は音ゲーが大好きだった。どんなに嫌なことがあっても、音ゲーをしている間は没頭していた。DOLCEさんみたいになりたい。それなのに。。。
突然、「普通」にすごく憧れるようになった。いや、僕はいたって普通だ。特筆する特技もないし、秀でたものもない。成績も普通だった。IT系の専門学校を出たけれどIT系に就職したわけでもない。でも普通じゃない部分があった。人並みの人生経験が足りないということだ。
恋愛はもちろんのこと、旅行もしたことがない、海にも行ったことがない、海外にも行ったことがない。そのことを今までなんとも思っていなかったのに、突然ひどく気になってしまった。こういうの、クォーターライフ・クライシスとか言うらしい。今までの人生のすべてを疑ってしまった。なんだか取り返しのつかないことになってしまった気がした。焦るままに、マッチングアプリに登録した。
。。。そこで何があったのかは書かないでおこうと思う。とにかく、ひどい失敗をした。全部僕のせいだ。
それからしばらくは、何にも手がつかなかった。今までの人生、これでちょうどキリがいいかなとも思った。でも決めた!恋愛はダメでも、ちゃんと自分なりに楽しく生きようと。何もかも「どうせやってもダメだ」と最初からあきらめるのではなく、やれるだけやってみよう!人生、恋愛だけがすべてじゃない!恋愛なしでどれだけリア充できるか挑戦だ!!!
それからは、本当に色んなことに手を出してみた。
まずボルダリングジムに行ってみた。スポーツはからきしダメだったけど、ボルダリングはマイペースにできそうなのが良いなと思ったのだ。小さい頃、木登りに憧れていたけど、身体が弱いので、友達が登っているのを黙って見ていた。でも本当は登りたかった。
ボルダリングはそれはそれは楽しかった。あれは、ただ突起を登るだけじゃない。ちゃんと「コース」が決められているんだ。一つ一つの課題には「使って良い突起」が決まっている。それを上手に使ってゴールする瞬間!!!!!その達成感!!!!!クリアの快感。そこには、もう一つの音ゲーの世界があった。
山登りも始めた。なにより、ボルダリングで女友達ができて、一緒に山に行くようになった。恋仲というわけではなくても、たわいもない話をしたり、一緒にホットサンドを作ったりするのが楽しかった。
そして、IT系にコンプレックスがあったので流行りのAtCoderを始めてみた。頑張るとGoogleに入れたりもするらしいと噂のやつだ。最初はとんでもない天才ばかりかと思ったけど、いや天才ばっかりなんだけど、意外と僕にも解ける問題も用意されていた。AtCoderは登録は簡単だし、初心者用のBeginner Selectionというのがあるし、沢山の人が解説記事を書いていて、とても始めやすかった。最初は何をやっても「WA」とかいうのしか出なくて、ナニコレ!?と思った。WAはWrong Answerの略、つまり間違ってるというこだ。けど、あれこれ試すと突然、緑色の「AC」という文字列が目に飛び込んだ!正解だ!
これはもう、なんというか、凄まじい快感だった。そしてその瞬間気がついた!!お前も音ゲーと一緒か!!!
これはいい!専門学校時代、一応プログラミングを少しは学んでいたけど、特に作りたいものがなくて、プログラマはやっていけないと思った。でもAtCoderなら音ゲー感覚で楽しめそうだ。そう思ってから、いつの間にか沼にはまっていた。「恋愛なしでどこまでリア充できるか」ということで色々やっていたはずなのに、気がついたらAtCoderばっかりやるようになっていた。
最初の壁は厚かった。なかなか茶色になれなかった。でも、あるときふと気がついた。
for (int i = 0; i < n; i++) for (int j = 0; j < n; j++)
こういうfor文がネストするやつ、みんなは抵抗ないだろうか?僕はあった。こんなのが当たり前に出て来るのだ。意味がわからない。でも、ふと気がついた。これって、ゲームのステージ5-3みたいなやつと一緒じゃないかと。外側のループは「レベル」で、内側のループは「ステージ」だ。各レベルのステージを全部クリアしてはじめて、レベルがインクリメントされるのだ。つよつよな人から見たら当たり前のことかもしれないけど、僕にとってこの気づきは決定的だった。なんか急にC問題が解けるようになってきた。だってAtCoderの問題って、「なんか二つ決めるべきことがあって、両方バラバラに考えてると訳がわからないけど、一つを固定するとなんか解ける」みたいのがすごく多いの。
そして300点、400点が解けるようになってきた頃、AtCoderで有名な方が「東大の数学の問題は300〜400点くらい」なんて言うもんだから、「え?なになに!?僕ってもしかしたすごいの!?」と思えてきた。で、調子に乗って東大の問題を見てみた。
。。。。。。。うん...なんもわかんないね。まあそんなもんか。。。
でも、そこには驚きの光景があった。解き方はわかんないけど、問題の意味はわかるようになっていたのだ。僕は学生時代、数学なんて宇宙語でしかなかった。でも今は、問題が何を聞いているのかはわかる!これってすごいことじゃない!?
(ちなみにその有名な方にはいつも本当にお世話になっていて感謝しています。)
びっくりしたので、それまで以上にAtCoderにのめり込んだ。そうしてとうとう緑色になった。Twitterでふと呟いたら、沢山の人が祝ってくれた。嬉しかった。最高の達成感だった。なんだか、ようやく自分の居場所を見つけたような気がした。人の生き方は人それぞれだ。人それぞれ、みんな自分のやりたいことがあって、それぞれの居場所があって、それぞれ一生懸命生きている。そんな当たり前のことにようやく気がついたのだ。
そのときLINEの通知が届いた。いつも一緒に山登りしている友達だ。よくわからないうちに「私と付き合って」と言われた。
びっくりした。でもなんとなく予感はあったのかもしれない。その場で「もちろん!僕も嬉しい!」と返事していた。それからは、僕ららしい生活。特に派手な服を着ることもなく、派手なことをすることもなく、今まで通り山に登ったり、一緒にAtCoderを解いている。こういう等身大なあり方が心地良い。
こんな僕のこと好きと言ってくれてありがとう。