2020-01-17

札幌市はなぜストーブの買い替え費用を払わなかったのか

昨日、今日あたりで話題になっていた生活保護の男性が訴える「ストーブ禁止」は違憲 札幌市は争う姿勢 (HBCニュース) - Yahoo!ニュースですが、記事についたブコメを見ていると、生活保護の仕組みや基準に対する誤解が見られたので、制度について簡単解説してみようと思います

札幌市側の主張もおそらく以下のような内容かと思われるため、今回の例を用いて説明する箇所がありますが、詳細な状況やお互いの主張がわかっているわけではないので、今回のケースに限らず、生活保護に対する一般論としてお読みください。

生活保護の中身

生活保護生活扶助住宅扶助医療扶助といった8種類の項目にわかれていますが、メインになるのが生活扶助です。

生活扶助はその名の通り日常生活必要な最低生活費を扶助するお金となり、モデル世帯を設定したうえで最低生活費を算出して金額を決定しています

まり知られていませんが、この生活扶助は第1類費と第2類費にわかれています

生活扶助 第1類費

食費や衣服など個人に紐づく費用扶助します。

携帯電話、散髪代なども個人に紐づくため第1類ですね。

生活扶助 第2類費

水道光熱費家具什器費など、世帯全体で使用する費用扶助します。

新聞固定電話については第2類に含まれます

さて、「家具什器費」というものが出てきました。これについて詳しく見ていきましょう。

生活扶助額の決定

生活扶助費に関しては全国消費実態調査を元にモデル世帯の最低生活費を算出し、金額妥当性が検証されていますが、検証時に用いられた第1類、第2類の区分については現行の検証手法の課題について(参考資料)の10ページ記載があります。 ※

さて、10ページの中央右側「家具家事用品」を見ると第2類に含まれ費用として、電子レンジ冷蔵庫などの家具什器類が含まれており、その中に今回問題になっている「ストーブ・温風ヒーター」が含まれています

前述のとおり、生活扶助費はモデル世帯の最低生活費を元に決定されていますが、ストーブを含む家具についても耐用年数考慮した形で支給がふくまれており、少なくも仕組み上は故障したストーブの買い替え費用生活扶助第2類として既に支給されています。そのため、札幌市としては新たな支給はできない、としたものかと思われます

記事では「ストーブの買い替え費用生活保護費で認められないのは、憲法違反だ」との主張がありますが、上記の通り「ストーブの買い替え費用生活保護費に含まれておりすでに支給済み」のため、正直この記事通りの主張であれば敗訴は免れないと思います。この間違った主張を通すわけにはいかないため、札幌市としても争う姿勢なのではないでしょうか。

平成26年の全国消費実態調査を用いて平成29年に行われた検証ですが、全国消費実態調査は5年ごとなのでこれが最新かと思われます

一時扶助で出せないのか

予想外のことによって急に多額の出費が発生した場合に補助する仕組みとして一時扶助による家具什器費というものがあります

しかし、これは生活保護を開始した時点で家具が無かったり、災害によって家具什器が焼失した場合など、通常の買い替えとは異なるケースにおいて例外的支出されるものであり、ストーブ永遠に壊れないと思っている人はいないでしょう。(実際壊れるまで真剣に考えないというのはありがちではありますが)

暖房器具に関しては北海道など寒冷地向けにFF式や煙突式の場合の一時扶助の増額も認められており、いろいろと考慮はされているのですが、前述のとおり、ストーブを含む家具の買い替え費用については既に支給されており、以前から生活保護受給している人は生活扶助で賄うべきものとなっています

(ただし、モデルケースは全国消費実態調査を元にしているため、FF式・煙突式が買い換えられる分の生活扶助支給されているのか、は議論余地があるかと思います

実際、実施要領においても以下のように「生活扶助計画的に賄うこと」が求められており、(あくまで外から見える範囲でですが)今回のケースを一時扶助で補うのは難しいように思います

生活保護 実施要領】

被服や家具什器更新その他通常予測される生活需要については、経常的最低生活費(基準生活費、加算等)の範囲内で賄われることが原則である

なお、被服費等の日常の諸経費は、本来経常的最低生活費の範囲内で、被保護者が、計画的順次更新していくべきものであるから、一時扶助認定にあたっては、十分留意すること。

役所で融通を利かせられないのか

お役所仕事」というと聞こえが悪いですが、行政においては杓子定規法令通達に従って仕事をすることが求められます

個人に対して法令通達を逸脱した対応を行うことは最初は完全な善意から行われたものであっても、友達への利益供与など、癒着汚職の元となりうるため、避けるべきかと思われます

この辺りに関しては生活保護を題材にした漫画健康で文化的な最低限度の生活」4巻の183ページあたりを読むと、どの制度を使えば法令通達から逸脱せずにサポートができるか、といった現場の動きが見えるかと思います

漫画なので割と読みやすく、いろいろなケースを見ることができるので、興味のある方は読んでみると良いかと思います

そうはいってもストーブが無いのは死活問題では

はい、そう思います

実は生活必需品等購入のための貸付金の取扱いについてという通達が出ており、まさに今回のケースはこれに相当するように思います

ただ、この通達をよく読むとわかるのですがこれは「貸付金制度を用意したよ」ではなく「他に準備された貸付金制度を利用しても収入とみなさないよ」になります

そのため、札幌市において生活保護者が使用できる貸付金制度が準備されていたのか、案内されていたのか、国として貸付金制度を整備するべきでは、あたりが本来議論すべきところかと思われます

また、家具什器費を生活扶助から分離する(月額支給額は減るが、家具故障時の扶助を新設する)など、制度自体改定する議論も考えられますが「生活保護の使い道を本人の意思で決定できる」というのは「健康で文化的な最低限度の生活」において大きな比重を占めており、個人的には現状の生活扶助に含まれる形の方が良いと考えています

どちらにしても現行の仕組みを理解したうえでなければ意味のある議論にならないため、これを機会に仕組みを調べてみると良いのではないでしょうか。

  • anond:20200117213830

  • 石油ストーブの耐用年数が18年以上あることのほうが驚き

    • ストーブ買い替える金残せないくらいのパチンコ狂なのか、「デロンギじゃなきゃ絶対イヤだ!でも金がねぇ!」みたな謎の高級志向なのか、どちらにせよおっさん働けばいいのに

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん