顔も本当の名前も知らない。でも、話していることや文字から伝わる人柄に無意識に惹かれることがある。
本の作家や記事の記者のような存在に対して感じる気持ちを、私はあるTwitterユーザーに抱いている。
まず、私自身のことを述べておく。
主に二次元の作品を好んでいるオタクだ。現場もちょくちょくあり、日々好きなコンテンツのことについて見たり聞いたりして人生を充実させてる、よくいるタイプの奴だ。
ただ、周りに同じ趣味を持つ人がいない。周りの友人の好きなコンテンツが(次元的に)真逆であることが多く、普段好きなコンテンツについて話すことがあまりないので、Twitterは「自分と好きなものが同じ人の呟きが眺めるもの」として利用していた。
そんな時に上記のような方、いわゆる「推しユーザー」に出会ってしまった。
自分の好きなキャラを描かれている絵を見かけて「素敵な絵だな」と思い、推しキャラが同じならまた見れるかも、という位の気持ちでフォローボタンを押した気がする。
めちゃくちゃ面白かったのだ。
自分にはない言語センス、自然な文体だけど伝えたいことがバリバリ伝わってくるツイート。絵がお上手な方はツイートも達者なのか!?と思ってしまうくらい面白かったのだ。今までフォローしていた方のツイートも好きだったのだが、その方のは何と言えば良いのか…なんかすごくツボにきたのだ。
それから、その方のツイートが流れてくる度にちょっと嬉しい気持ちになった。
さらにその方は、親しみやすい雰囲気からか、よくTwitter上で他ユーザーさんと会話をしていた。その様子がタイムラインに流れてきたときも、楽しそうな雰囲気を感じて無関係な自分も暖かい気持ちになっていた。
漫画みたいな例えをすると、憧れの人の様子を物陰から覗いて見ている気分だった。
だが、Twitterであるものが流行し始めたことがきっかけで、私の気持ちが揺らいでしまった。
なんと、それにメッセージを送ると設置者に匿名でメッセージが届くのだ。
友好的なその方は、是非にと、その箱を設置してくださった。普段話したりしない人からのコメントも歓迎している旨もツイートしてくださった。
その方がメッセージに回答しているのを見たり、自分からも質問やその方のイラストが好きだといったメッセージを送ったりするのが楽しかったし、その方との距離が少し近づいたような気持ちになった。
今振り返ってみると、ここで少し「あれ?」と思った。
匿名サービスはあくまでもこちら側は匿名で送っている。だから、受け取り側からは、誰が送ってきたのかは基本的に分からない。
でも、送り主からしたら「自分→相手」が成り立っているような気分になってしまうのだ。実際の自分は、実態を持たない霧のようなものなのに。
そりゃそうだ、だって自分が送った内容がどんなのかは知ってるから。だから自分のメッセージとして認識している。
何回かメッセージを送っていた当時の私は、いつからか眺めているだけで満足出来なくなってしまっていた。
そして、思ってしまった。
「見ているだけじゃなくて、話をしてみたい」
と。
単に一人のユーザーとして関わってみたいだけならまだ良かったのかもしれないが、匿名サービスという段階を経てしまったせいで、勝手にこちらは相手に対して親密な立場になっているのではないかという幻想を抱いてしまったのだ。相手からしたら、全然知らない人なのに。
そのことに気づけていなかった私は、後悔をする出来事を起こしてしまった。
先述の通り、私が好きなコンテンツは現場(イベント)が定期的に行われているジャンルだ。
色んな媒体で盛り上がる系のコンテンツにハマったことがないので分からないのだが、ファン内でしばしば(どちらかというと主観的な)暗い話題がされていることもある。
私は閉鎖的なオタクなので元のツイートが届くことは(運良く今までに)ないのだが、その方には届いてしまっているらしく、その話題について悲しんでいることがよくあった(そういう話に対して肯定的な姿勢でないところも良い人だな…と思う)。
それがたまたま続いてしまった際に、このようなツイートを見た。
「近頃悲しい話ばかりで寂しい。もっと楽しいことを言って欲しい」
その時に、私は行動を起こしてしまった。本当なら、物陰から覗き見しているような私でなく、その方と親しい方がアプローチしてくださるのを待つべきだったのに。
匿名サービスを使って、励ましとその方への感謝の気持ちを文字数制限ぴったりになるくらいの分量で送ってしまったのだ。
あなたのイラストや呟きが私のエネルギーになることも沢山あった。
こんな感じのことを送った。今思うと重すぎる。あまりに重すぎるラブレターだこれ。しかも我ながら、匿名なのめっちゃたちが悪い。
これでスルーしてくれたらまだ良かったのだが、その方から返答が返ってきた。
そこには、そのメッセージが嬉しかったということが書かれていており、まさかの返事に私は舞い上がってしまった。
「いつか現場でお会い出来たら、感謝の気持ちを直接言わせてください」
送った後に気がついた。
これは、送ってはいけなかった。
匿名であることで敷居が下がったから気軽に書いてしまったけれど、これはこのサービスを通して書くことではなかった。
そんな私の気持ちとは逆に、その方は「こちらこそ是非」といった優しい言葉を返してくれた。誰かも分からない私に対して。
ここでの後悔は、匿名であるにも関わらずその方へ近づこうとしてしまったことだ。
せめて、リプライをする勇気を持てていたら、こんな気持ちにならなかったと思う。
でも、知らない人から急にリプライなんて来たら驚かせてしまうだろうし、やっぱり出来ないというのが心情だ。
もし今後、本当に現場でお会いする機会があったら、私は「あの時のメッセージの者です」と言えるのだろうか。
今の私は言えそうにない。
きっと、話せても「Twitter見てます」くらいしか言えないのだろうな。
せめて、「あなたのイラストとツイートが好きです」くらいは言えたら良いな。
それか、あのメッセージのことだけは、忘れて欲しいと思ってしまっている。
そんな私は、やっぱり見ているだけの方が良いのかもしれない。
世の中オフパコに持ち込む同人作家も居るってのに、日本人は奥ゆかしいねえ