佐賀県武雄市が市のホームページを廃止し、Facebookページに移行したのは去年の8月のことだ。
ソーシャルメディアを活用した先進的な取り組みとして賞賛される一方で、本当に市民サービスにつながるのかという懐疑の声も多かった。
今回、Facebookへの移行に関する分析レポートが発表された。
武雄市が市のホームページをFacebookページに移設した目的は、以下の4つだそうだ。
1.市職員と市民がコミュニケーションを取る機会を設け、両者をつなげていく。(インタラクション性)
2.市の活動や施策などの情報を、素早く発信し、市民に限らず広く拡散する(拡散性)
3.SNSを使って広く誰でも見せることで「常につながっている」ということを意識させ、職務に対する意識も向上させる。(職員の意識の向上)
「武雄市民に対する市民サービスの向上を目的としてFacebookを活用する」と理解してよさそうだ。
「ホームページからFacebookへ移行した事で市民サービスが向上しているかどうか」は何を基準に判断するのだろうか。
レポートでは、コメントと「いいね!」とシェアの数を合計した「インタラクション数」を測定していて、「インタラクション数が多い」=「市職員と市民のコミュニケーションが活性化している」と定義している。
月平均1万件以上のインタラクション(反応・声)が発生しており、応援メッセージやいいね!の数で、どのような施策が評価されているのかの一つの指標を持てたという評価がされている。
つまり、Facebookに移行したことで、いままでは聞くことができなかった市民の声や反応を月平均1万件以上聞くことが出来るようになった上に、市の施策がどう評価されているかまでも把握することができるようになったというのだ。
では、本当に市民とのコミュニケーションがとれているかを検証してみよう。
レポートでは、市民向け情報提供の成功例として、2012年2月の水道管凍結に関する注意情報が挙げられている。
実際のウォールのイメージとともに、『こうした情報は、ホームページでは市民が見に行かないと行き届かず、「いつも情報ありがとう」「シェアします」といった感謝のコメントが続いて発生していた。』とキャプションが付けられている。
では、6件のコメントを一つ一つ見てみよう。
「鹿児島の今朝大変な事態になりました」
と、武雄市民ではなさそうな方々のコメントが4件続いていて、市民の方とおもわれるコメントは
「いつも情報ありがとうございます。はい気をつけます!」
の1件だった。
ちなみに、残りの1件は武雄市役所からの内容訂正(ウォールに書き込んだ水道課の電話番号が間違っていた!)のコメントである。
市役所からのウォール投稿数は月100件以上にのぼるとのことなので、市民向けの暮らしに役立つ情報も数多く提供されていると思うのだが、その中から成功例として選んだものがこの調子で、本当に成功していると言えるのだろうか。
ひょっとしたら鹿児島や名古屋に出張中の武雄市民の方がコメントしたのかも!と思い、ウォールで当該の投稿を探したが、確認することができなかった。
残念ながら本当に情報提供がされていたのかどうかも確認できない状況である。
その他の成功例も見てみよう。
武雄市ではFacebookを通じて積極的に意見募集も行っているようだ。
レポートには2012年3月に投稿された食育の計画案に対する意見募集の投稿が紹介されていて、『ファンからはコメント付きで友達に広める目的とみられる「シェア」3件が実行されていた。』と書かれている。
実際に投稿を確認してみると、3件のうち2件は武雄市民以外によるシェアで、残る1件は市職員自らシェアしているものだった。
ただ、コメントやシェアは心理的なハードルがあるのは事実であり、気軽に同意を示すことができるものとして、いいね!がある。
武雄市が指標としているインタラクション数にも、いいね!が含まれているため、いいね!の数が重要になりそうだ。
食育の計画案にも、100件以上のいいね!がついており、一見武雄市民に評価されていると判断できそうだ。
実際にこの投稿にいいね!を押している人の属性を分析してみた。
武雄市職員 | 13% |
武雄市民 | 7% |
上記以外 | 80% |
なんと、いいね!を押している人の8割は武雄市の食育に関係なさそうな人だった。
その次に多いのは、なんと武雄市職員で、武雄市民は7%しかいないのだ。
ただ、食育への取り組みは武雄市民以外にも興味を持つ人が多いテーマであるため、武雄市の先進的な取り組みが全国的に評価されている可能性がある。
より正確に分析するには、武雄市民及び近隣の方に特化したテーマについても調べる必要があるだろう。
ほぼ同じ100件以上のいいね!がついている「楼門朝市5周年感謝祭」についても、属性を分析してみた。
武雄市職員 | 30% |
武雄市民 | 13% |
上記以外 | 57% |
このレポート(というか広告)の通りに、武雄市がインタラクション=市民の声として受け止めているのであれば、かなり危険な状況である。
かといって、いまさら何の参考にもしていないという訳にもいかないだろう。
4月からは武雄市の全職員400名がFacebookのアカウントを持つのだという。
民間企業では上司の投稿に、部下たちが我先にといいね!をつける行為が今も行われている。
別に民間企業がやるのは害は無いが、自治体が「いいね!」で仕事をやってどうするのだ。
僕の住む自治体が間違ってこんなことに税金を使ってしまうと困るので、武雄市民の方には悪いけど「民意を聞いてるごっこ」は武雄市だけでやってほしい。
だいぶ前に書いた自分のエントリが忘れた頃にRTされてくるとは思わなかった。
いくつか指摘されている事項についてのコメントは以下のとおり。
ご丁寧に「移行を行った会社」の社長から、「武雄市の求める効果の最大化が目的で動いてるのだから筋違いな指摘だ」 とのコメントを頂いたのには心底驚いた。
そんなのは当たり前の話すぎて議論の対象ではないし、もしかして「武雄市(not 市民)が満足しているんだからいいじゃないか」という開き直りなのだろうか。
武雄市の求める効果が最大化できていて、武雄市が満足してるんだったらそれで問題ないんじゃないの? わざわざコメントする必要もないと思うのだが。
でも、武雄市でなにが起きていようと、今のところ僕には関係ないのだ。
僕の払った税金は使われていないだろう(地方交付税を考慮しても僕の分は1円以下だろう)し、武雄市民でもないし。
改めて僕の考えを示すと、「武雄だけでやってくれ」である。
自治体は事例に弱い。あのレポートを鵜呑みにして、似たようなことを始める自治体がこれから出てくるだろう。
しかし、あのレポートを検証してみると、売り文句と実態とは大きく乖離していることがわかる。
他の自治体の方々は、自分たちの求めるものなのかどうかをしっかり自分で見極め、ハズレをハズレと見抜いてほしい。
そして、僕が願うのは、
僕の住む自治体が間違ってこんなことに税金を使ってしまうと困るので、武雄市民の方には悪いけど「民意を聞いてるごっこ」は武雄市だけでやってほしい。
ただこれだけである。