2023-02-26

いまLOVEBITESが面白い

イントロダクション

LOVEBITESという日本女性メタルバンドの周辺がいまちょっと面白いことになっているので解説します。ヘヴィメタルに興味がない人も人間ドラマとして味わい深いのでよかったら読んでみてください。

LOVEBITESの動画には「私は今年70歳になるロックファンだが30年振りに夢中になれるニューバンドを見つけた」というような英語コメントが頻繁に書き込まれる。「LOVEBITES reaction」でYouTube検索すると膨大な量の海外アクター動画と、そこに書き込まれた膨大なオタク早口英語コメントを見つけることができる。Wikipedia日本語版より英語版の方がはるかに充実している。そういう存在バンドだ。

LOVEBITES前夜

世界中音楽チャートヒップホップR&Bといったダンスミュージック中心になってもう長いこと経つ。そんな中で日本チャートは異様なほど独自多様性がある。別の言い方をすると世界的な音楽トレンドから取り残されて、時代遅れダサい音楽も生き延びる余地があるユニークなシーンだ。

2010年代前半BABYMETALアイドルメタル企画物としてデビューした。しかしながらボーカル歌声メタルアレンジが本物すぎたので妙に受けた。特にメタル音楽がほぼ失速していた海外においてメタルファンが衝撃を受けた。それ以降、流行りの音楽とは別の嗜好を持った世界中音楽ファンたちが日本インディーバンドを熱心に発掘するようになった。

なぜ、日本ではロックバンドが生き延びているのか。アニメぼっち・ざ・ろっく!」の設定にもあったが、80~90年代バンドブーム世代の人たちがお父さんお母さんになり、親の聴くロックバンドの影響を受けた子供たち世代が出てきたのが今の日本だ。

BABYMETALと同時期に国内ではDESTROSEという女性ジャパメタバンド活動していた。DESTROSEはメンバーも安定せず成功したとは言い難いが、現在のシーンを牽引するNEMOPHILA、FATE GEARなどのメンバーを輩出した重要バンドである。そしてまたLOVEBITESも元DESTROSEのメンバーが結成したバンドだ。

LOVEBITES始動

NEMOPHILAやLOVEBITESの世代の特徴は圧倒的に本格派という点にある。例外はあるが、それ以前の女性バンド男性バンドにくらべると演奏技術がそれほど高くなかったり、どこか女性的なポップさがあったりした。だが今のバンド演奏技術や音の志向において、もはや男女の区別意味を持たない。

LOVEBITESの音楽は、アイアン・メイデンジューダス・プリーストのようなパワーメタルと、ハロウィンドラゴンフォースのようなメロディックスピードメタル系譜にある。サビがメジャーコードメロスピ演奏してさまになるのは国内では稀有存在である

https://youtu.be/bgAxpEpEcno

日本女性発声ハイトーンになると細くキンキンしがちでメタルでは不利なことが多い。BABYMETALは、アイドル的な透明感がありつつ激しい演奏の中でもよく通るSU-METALの声が重要成功要因であった。LOVEBITESのボーカリストasamiは低い音から高い音まで発声気持ち良さが特徴で、他のボーカリストボイストレーナーから発声に関する評価が非常に高い。やさぐれた感じがせず声を張り上げたりドスをきかせたりしてもどこか品がある点も過去にあまりいなかったタイプだ。さらクラシックバレエ素養もあり、長いギターソロ中でも手持無沙汰になることなパフォーマンスできる。

バラードほとんどやらない。全員が鍵盤楽器を弾けて本格的なクラシックピアノが弾けるメンバーもいるが、これまで50曲近くリリースした中で激しい展開にならないスローバラードわずか1曲のみである基本的にはテクニカルでパワーとスピード命で、海外メタルトレンドも踏まえた音楽性になっている。そのためデビュー後すぐに海外からも注目された。

デビューの翌年には英国メタル雑誌でBEST NEW BANDを受賞して、その次の年にはドラゴンフォース英国ツアーに参加している。

バンド好調で、2020年Zepp Tokyoライブはもはや伝説的なクオリティだ。

https://youtu.be/WBhtqgiXEA4

転機

そこまで注目されていたLOVEBITESだが、2021年ベースmihoが脱退する。コロナの影響による環境変化でライブなどの活動ができなくなり、いろいろと思うところがあったようだ。mihoバンド創始者であり、LOVEBITESのコンセプトもmihoによるものが大きかったはずだ。バンドはそのまま終わってもおかしくない状態と思われた。

2022年コロナ禍が徐々におさまる兆しが見えてきた中、残されたメンバーベーシストオーディションプロジェクトを発表した。東京都内近郊を拠点として日本世界各地で活動できること、というのが唯一の条件で、年齢・性別国籍プロアマわず応募可能としていた。

このオーディションには、すでにソロ活動一定の評価を得ている彪(AYA)、一ノ瀬といった実力派ベーシストも参加した。

ベースヒーロー登場

ここで登場するのがfamiだ。

YouTubeにやたらうまいベース動画を上げているJKがいると以前から話題になっていた配信者、登録者数は67万人もいるチャンネルなので一度は見たことがあるかもしれない。顔出しをせず、自室のドアの前で踊りながらスラップやタッピングを多用したトリッキーアレンジボカロ曲カバー演奏する。リアルぼっちちゃんレベル100みたいなベーシストだ。

https://youtu.be/Q_UqztwYAOU

高校卒業し、クラウド・ファンディングソロアルバムを出し、すぐに川口千里のような実力派ミュージシャンとして活動していくものと期待されていたが、その後あまりうまくいっていなかったようでYouTubeチャンネルも数カ月更新が止まっていた。

それが2022年10月に「皆様に大切なお知らせがあります」という動画を突然公開した。

YouTuberの言う大切なお知らせはたいてい大切でもなんでもないしょうもないもの相場が決まっているがこれは違った。

LOVEBITESのオーディション最終選考合格して、バンド側の発表動画も公開されたという内容をオタク早口でたたみかける内容だった。また、この動画から顔出しをしてカメラに向かってしゃべっており、アーティストとしてあらたな道を踏み出した決意を感じる。

https://youtu.be/6_VbxDaOPj0

どんなベーシストでも前任者のmihoと比べられてしまうのは避けられない。mihoは安定したリズムと時折見せるセンスの光るオブリガート評価が高い王道メタルベーシストだった。手足の長い恵まれスタイルに低く構えたベースのたたずまいはステージ映えしてLOVEBITESの悪そうでかっこいい側面を担っていた。

famiのキャラクターはそれとはまったく異なる。明るく楽しそうにぴょんぴょん飛び跳ねながら5弦ベースをスラッピングするベーシストだ。オーディション時点では19歳でおそらく他のメンバーとは10歳近い差があり新世代という印象だ。この新たな風こそがバンド必要としていたものだった。

アイアン・メイデンのスティーヴ・ハリスベーシストが抜けてミスタービッグビリー・シーンベーシストが加入しLOVEBITESは新体制となった。以前からfamiとLOVEBITESの両方を知っていたリスナーにとっては、別々の線がひとつに交差して、止まっていた二つの物語トップスピードで再開するという衝撃的な嬉しいニュースとなった。

アルバムリリースライブ再開

ただ、famiはトリッキーテクニカルではあるものメタルベースが弾けるのか、と心配する声もあった。公開している曲はボカロカバーばかりだし、ソロアルバムメタル色はなかったからだ。

そんな中、2023年2月22日に満を持してLOVEBITESの新アルバムリリースされた。吉と出るか凶と出るかfamiにとってもバンドにとっても審判の日である

そこにはBPM200の16分音符で凶悪かつスリリングルートを刻むfamiがいた。ドラムとの相性もよくメタルベーシストとしても超一流であることをfamiは実力で証明した。これを聴けばもう心配する人はいないだろう。実はLOVEBITES加入まで語られてこなかったがfamiもまたメタラー親父に英才教育を受けたメタラー二世だったのだ。

他方、バンドの方にも変化が見られた。アルバム発売日に公開された新曲MVはいままでのLOVEBITESとかなり異なるものだった。曲のパワーとスピードはこれまで以上であるが、以前のようなメタル美学的な映像ではなくカジュアル服装で楽しそうにわちゃわちゃ演奏している明るいMVになっている。こういった演出もfami加入以前には考えられなかっただろう。

https://youtu.be/4ImGA7cPyrs

アルバムとしての評価も高く、すでに世界中メタルチャートで一位となっている。

そして3月の復活ライブチケットが瞬殺した。YouTubeコメントを見ると海外ファン飛行機に乗ってこのライブを見るためにチケットを買ったらしい。その後も9月には国内ツアーが予定されている。完全復活である近いうちに海外イベントにもまた出演するだろう。

世界中メタルファンから今後のシーンを背負うことを期待され注目されているバンド日本からまれたことが素直にうれしい。

  • そんな中で日本のチャートは異様なほど独自の多様性がある。 ここホント?

    • こんな記事はどうですか?この記事の筆者は日本の音楽シーンの独自性を批判的に見てますが ヒットの固着──Spotifyチャートから見えてきた停滞する日本の音楽 https://news.yahoo.co.jp/byline...

  • Apple Musicで聴いてる こういうの好き! いいバンド教えてくれてありがとう!

  • ラブアールキスか 任天堂スイッチでちょっと気になったタイトル

  • このバンド名、、def leppard好きな人いるのかな? これから楽しみー😍

    • 私もそうだと思っていました。 アメリカのバンドHalestormのLove Bites (So Do I)から取ったそうです

  • ガールズメタルバンド好きなら、HAGANEもお薦めしたい ギタリストYoutuberの吉田さくらを中心にしたバンドで、ここ最近急速に伸びているのを感じる まだインディーズの若いバンドだけど...

    • 吉田さくら、この間の動画でお父さんからもらったというマーシャルのヘッドアンプ紹介してて、桁違いのメタラー二世っぷりに笑った

    • このコメントを読んだ3日後にHAGANEの大半のメンバーが脱退して崩壊寸前になるとは。悲しい。

  • 君、lonsome_blueも聴きなさい

  • 「本格派」を推してきたり、海外海外言う割に固有名詞が出てこない(“アルバムとしての評価も高く、すでに世界中のメタルチャートで一位となっている。”)のは眉唾物 第三者の評価...

    • すみません、世界中は言い過ぎでした。 LOVEBITES公式によると日本と英国と米国とカナダとドイツとスペインとオランダとスウェーデンのメタルチャートで1位です。フランスでは2位です...

      • 同じチャートで一位を取った作品をどれだけ言えるのかな?それもなく、ただただ「海外で一位だー」言ってるのが情けなく見える要因ね。 Billboard 200に入ったら起こしてね。

  • 5年位前にメンバーの機材カートが山手線で扉に挟まれそうになっているところを手伝ってからちょくちょく聞いてる

  • (・∀・)イイネ!! こういうの好きならtears of tragedyもおすすめ❤ https://youtu.be/vU-hdUTilXg

  • 寺田恵子の声の方が全然好き

  • ブコメで言及されていた記事。 このツアーを最後に自分が作ったバンドから脱退する、というタイミングで小学生時代のチャット友達に会いに行ったのかと思うと、前に読んだときに感...

  • これ、いまの死に体のメタル界を憂う「良識のある大人なメタルファン」ほどそりゃー必死で褒めるんだろうけどさあ(曲名にHoly Warなんてつけちゃってるし)、 ネクラで選民意識とプ...

  • 増田って時々こういう広告代理店っぽいの湧くよな https://anond.hatelabo.jp/20230226213841

    • 広告代理店じゃなくて、40,50代ぐらいの家族も友人もなくて時間を持て余した80年代ぐらいにメタルにハマったただのおじさんだと思うけど

      • BABYMETALの時もそうだけどメタラーはこういうメタルもどき滅茶苦茶嫌ってる

  • 思ったよりバズったので前に書いた文章も載せておきますね。 動画でたどる生ハムと焼うどん anond:20210814104642

  • https://www.instagram.com/p/CsdZ1XVRWS0/?igshid=MzRlODBiNWFlZA== この3枚目とか。 結局ただのアイドルでしかない。 この中にこれ買いてる人がいると思うと…

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