学生時代、女友達に抱きつかれたり、冗談で胸を揉まれたりスカートをめくられたりしたことのある女性も多いことだろう。学校で友達同士のこういう光景は珍しくないし、アニメや漫画でもこういったシーンは平和で微笑ましいものとして描写され、特に男性向けの美少女アニメにはほぼ100%登場する。
しかし私はそんな女性からの過剰なスキンシップがどうも苦手だ。
もちろん他人が友達同士でやっている分には一向に構わないし、アニメや漫画に文句をつける気も更々ない。
ただ、自分がされるのはあまり良い気持ちはしないし、自分は友達にそういったことは出来ないしやりたくもない。
私がこの「女→女セクハラ問題」について考えるきっかけとなった人物がいる。大学のとある女性先輩である。
ある日私が大学内を一人でブラブラと歩いていると、突然背後から誰かにガッと胸を掴まれた。私がびっくりして振り返ると「おっ、E(カップ)くらい?」とにこやかな表情で笑いかける部活の女性先輩(以下M先輩とする)。突然の出来事に多少戸惑いつつも「凄~い!よく分かりますね~!」などと適当な返しをする私。
自分で書いていて思うが、わざわざ事細かに描写するのも馬鹿馬鹿しい、実に「よくある」光景である。
この出来事において私がまず引っ掛かったのは「M先輩と私は大して仲良くもない」ということである。このとき私とM先輩とは知り合ってから日も浅く、当たり障りのない会話くらいしかしたこともなかった。その程度の仲でこういった行為ができることにまず驚いたのだ。
M先輩は私と仲が良いつもりだった、あるいは仲良くなりたかったのかもしれないし、いずれにせよ彼女なりのスキンシップだったのだろう。
だが、仲良くなるためのスキンシップ、あるいは仲良し同士のスキンシップとしてもこれは少々危険ではなかろうか。
この一件でM先輩がまず私にしてきたことは「後ろから胸を掴む」である。
まず 後ろから、つまり誰か認識できない状態で突然こんなことをされたら相手が誰であれ怖い。正直「チカン!」と悲鳴を上げられ突き飛ばされても文句は言えない。実際ひどいビビりの私は心臓が止まるかと思った。
また身体的特徴は本人にとってコンプレックスである可能性だって高い。胸なんて最も分かりやすい例で、小さくて悩んでいる人もいれば 反対に大きくて変に目立つ・太って見えると悩んでいる人もいる。幸い私は胸に関してのみ言えば 自分のものに特に不満はない。M先輩は、私にはコンプレックスがないと思ってやったのかもしれないし、実際ないのは確かだが、そんなことは結果論にすぎない。しかし恐らくはそんなことまるで何も考えずにやったのだろう。そもそもコンプレックスがあろうとなかろうと、いきなり触られてサイズを外で言われれば愉快ではない。
ここでM先輩の人物像について言及したい。彼女は簡単に言うと「体育会系」の人間で、上下関係にうるさく、男勝りで、かなりハッキリと感情表現をする人だった。
またM先輩は女性にしてはかなりの長身かつショートカットでボーイッシュな雰囲気も相まって、特に部内の女性陣から「イケメン」扱い、例えるなら宝塚の男役スターのような扱いをされていた。
M先輩自身もその扱いに満更でもなかったからなのか、「可愛い女の子が好き」などとよく言っており、私を含む女性陣にハグをする・頬にキスをするなどといったボディタッチをしていた。一応補足しておくが、M先輩には彼氏がおり、同性愛者というわけではない。
そんな彼女からのスキンシップは、少なくとも女性陣の間では「王子様からのサービス♥️嬉しい♥️」という空気があった。
私はM先輩からこのスキンシップを受けるたび「も~やめてくださいよ~(笑)」というような態度を取るしかなく、結局最後までこういった行為は止まらなかった。
客観的に見れば「嫌ならはっきり本人にそう言えばいいじゃん」と思うだろう。しかし実際この立場に立ってみると、それがなかなか難しい。
私はスキンシップが苦手なだけであってM先輩のこと自体は別に嫌いなわけではなかった。M先輩も私のことを恐らく後輩として気に入って、そういう風に接していたのだろう。
そんな彼女に「実はあのスキンシップ嫌なんですよね」と言うのは結構勇気がいる。M先輩は話せば分かってくれたかもしれないが、彼女を傷付けてしまうかもしれないし、以前のような接し方をお互いにできなくなってしまう不安があった。
また、私以外の人が彼女のスキンシップをどう思っていたのかは分からない。
しかし私が感じた限りでは、当時の部内では、M先輩からのスキンシップは喜ぶべきで、下手に「やめてください」などと言えば、こっちが「好意的なノリを拒否してM先輩を傷つけた」悪者になりかねない雰囲気だった。
男性に同じことをされたら、(少なくとも大学内では)どんなイケメンの人気者だろうと躊躇なくやめろと言えるし、周りもこちらの味方になってくれるだろうに、相手が女だからということでそれが難しくなる。
結局この一件以降も私はM先輩と特別仲良くなることはなく、彼女が卒業し私も部活を辞めた今、私と彼女の接点はほぼないのだが、未だに部内では「イケメン王子様のM先輩」という風潮が残っており、私はこのことを愚痴ることもできず モヤモヤしたものを感じている。