*[アイドルオタク]
私には好きで好きでたまらないアイドルがいる。彼を見ている時が、人生で1番幸せで楽しい。何物にも代え難いものを、アイドルの彼から貰っている。彼がいるからこそ私はつまらない毎日を頑張ることができる。
けれど、自分のオタクとしてのスタイルが不健全なものだということに気付いてしまった。今まで気付かないように必死に目を背けていたけれど、もう戻れないところまで来てしまった。
そもそも、アイドルの彼を好きになったきっかけは失恋だ。人生で2人目の彼氏(仮名:次郎)にフラれた。彼が別れを切り出す言葉は、「他の彼女ができた」だった。
ごめん、知ってた。
次郎と私が付き合っていることを知らない後輩が、「次郎さん彼女できたらしいっすよ!」と、"他の彼女"と次郎がデートしている写真を見せてくれた。"他の彼女"は私も知っている人だった。それはそれは可愛くて、こりゃあ仕方ないなと思った。次郎は背の高いイケメンであり、私のようなデブでブスな女と付き合っているのがそもそもおかしかった。周りにあまり言ってなかったことから、彼もおかしい・恥ずかしいと思っていたんだろう。可愛い女の子を手に入れた喜びは今まで我慢してきた分大きかったと思う。誰もが見られる公共のインターネットにアップするくらいだから。
仕方ないとは言え、私はすっかり元気を無くした。そんな時、ある動画に出会う。アイドルの彼が歌っている動画だ。アイドルの彼はどことなく、姿形が次郎に似ていた。私は彼に夢中になった。
正当な対価を払って見なければと思った私はすぐにそのDVDを買った。人生で初めてアイドルのDVDを買った。
アイドルの彼はどんなことをしていてもカッコよかった。彼は非常にできたアイドルであり、それから一瞬たりとも私をガッカリさせることはなかった。アイドルは仕事なのだから、素の顔や裏の顔があって当たり前のものだと思う。彼らも人間だから。しかし、彼はそれを微塵も感じさせず、徹頭徹尾アイドルだった。
もっと彼を応援したい、彼に会いたい、彼に時間もお金も使いたい。そう思うのに時間はかからなかった。私は掛け持ちのバイトを増やした。
DVDも買ったしCDも沢山買った。私はそれに満足していた。コンサートのチケットが当たらなければ、定価の何倍でも出した。とにかく、とにかく彼を見ていたかった。
バイトのしすぎで、初めて単位を落とした。寝る間も惜しんで働いていたので、テスト期間、勉強するより寝たかった。
この時点でもう全く健全ではないが、私はそこから目を背けていた。
ところで、私がアイドルに対して仮想恋愛をするにあたって非常に安心していたことが1つある。それは、体を差し出さなくていいことだ。
次郎の前に付き合っていた男性との交際を振り返ると、私はただ単に家事機能付きのダッチワイフだった。交際を申し込まれた時、初めて彼氏ができるという現象に舞い上がってしまった私は、特に好きというわけではなかったその男性との交際を始めた。これを逃したら彼氏ができることはないかもしれないと思ったからだ。それからは、彼に頼まれたことは一切断らず、彼を自分の部屋で寝泊まりさせ、身の回りの世話をやき、彼がしたいと言えばセックスした。初彼氏に浮かれる期間が終わってからは苦痛でしかなかった。でも、こんな自分を愛してくれてる人間なんだと思うと、逆らうことができなくて、別れるまでに随分時間がかかってしまった。
アイドルを好きでいることに、体の提供は必要がなかった。ただ単に好きでいられた。これが、私にとっては本当に嬉しかった。彼は私だけに向けて「好き」と言ってくれることはないけれど、彼の「好き」という言葉に性的な代償は必要なかった。
アイドルに熱を上げるまでは、他に時間とお金のかかる趣味を持っていた。けれど、もうそちらとはほぼ縁が切れてしまった。屋外でやることも多いその趣味は、少しでも綺麗になりたい私にとって敵になった。日焼けをしたくないからだ。
サークルにも顔を出さなくなった。サークルの恋愛市場で売れ残っている自分が惨めだった。一年生が入ってくるごとに誰が可愛いだとか、誰がイケメンだとか、誰と誰が付き合い始めたとか、そういうことにうんざりしてしまった。メインの活動の裏で結局はそういった出会いの場になってしまうしかないサークルという団体が嫌になった。サークルの活動や飲み会に時間やお金を使うなら、アイドルに使いたかった。
「彼のファンとして綺麗でありたい」というファンは世の中に沢山いる。いわゆる美容垢をTwitterで持っている人も沢山いる。私は自分に自信がないことと、頭が悪いことが原因でそれらにあてられてしまった。
私も彼のファンとして綺麗にならなきゃと思った。メイクにも服にも髪型にも人一倍お金をかけなくちゃいけない。だって、ブスでデブだから。ダイエットしたり、おしゃれの研究をしたりしたけれど、満足できなくて私は整形した。より一層、元々いたコミュニティに居づらくなった。
ここまで書いてきたけれど、アイドルがアイドルでいることは何も悪いことではない。私は彼にずっとアイドルでいて欲しい。彼のファンのことも好きだ。みんな、女の子としてとても頑張り屋さんで尊敬している。
ただ単に、私に自信がないことと、私の頭が悪いのがいけないのだ。アイドルに依存するしかない、弱い私が悪い。
整形も、一度すればどんどん気になるところが出てきた。彼への出費も止まらない。いよいよ普通のバイトじゃやっていけなくなった。来週から、私はあまり胸を張って言うことのできないバイトを始める。結局、アイドルの彼に対しても間接的にではあるが、体を差し出す形になってしまうのだと思う。その前に、こんな下らない、誰にも言えない話を誰かに聞いて欲しかった。
ファンでいること、オタクでいることは楽しい。でも、依存して自分の生活を壊してしまえば元も子もない。好きな相手から貰った元気や幸せで、頑張るベクトルを間違えちゃいけない。私は間違った。ここまできて、漸く自分がいかに愚かな人間か分かった。ここまできてやっと自分の不健全さをまっすぐ見ることができた。でも、止まることができない。やめようと思えない。