2014-06-27

徳丸本の内容を実践しながら学べた話

新卒入社したA社は、親会社B社のシステムの内製と、B社の顧客層向けのパッケージソフトウェア制作販売するソフトウェアハウスだった。

入社1年目の自分は、いくつかの細かい業務を平行して担当することになったが、その中にホームページ管理があった。主な業務は、ページの文章更新と確認、誤字脱字の修正、古く間違ったHTML修正など。

会社ホームページには自社のサービス製品だけを扱う小さなショッピングシステムがあり、ユーザ登録・ログイン・購入・履歴確認など一通りの機能を持っていた。このシステムを改修したり更新したりする予定はなかったが、せっかく担当となったわけだし、以前から興味のあったWebアプリケーションセキュリティ勉強しようと、徳丸本を購入した。(当時は紙の本しかなかった)

http://tatsu-zine.com/books/sbcr-taiketekinimanabu

この本は説明不要の名著で、平易な文章で細かく正確な記述がなされている。Webアプリケーション制作に携わる新人プログラマは必読だ。

から読み進める。1章に用語の整理があるおかげでだいぶ理解やすい。2章の実習環境の用意は、都合がつかず読み飛ばした。3章は流し読みし、いよいよ4章。様々な脆弱性を個別にとり挙げ、原因と対策について具体的な説明がされており、非常に興味深い。

なるほど、XSSクロスサイトスクリプティング)という言葉は知っていたが、具体的にこういうものなのだな。入力ボックス入力した内容が遷移後のページに表示されるというUIはよくあるから、気をつけなければ……そういえば、会社ホームページにも検索機能があって、「検索ワード:○○」と表示されるところがあったな。あれもXSS対策がされているはずだ。どれ、見てみよう。テストサーバで画面を表示して、<script>alert(1)</script>(本当は半角)と入力……

検索ワード:
   +----------------+
   |                |
   |   1            |
   |       [  OK  ] |
   +----------------+

なるほどこれがXSSか。実習環境の用意はしなかったが、実物を拝むことができたぞ。脆弱性修正の実習もできるな。

このようにして、徳丸本を読み進め、(テストサーバで)攻撃を実践しながら、脆弱性を直していった。覚えている限りでは、以下の実習ができた:

  1. 上述のXSS。直した。
  2. SQLインジェクション - XSSと同様の検索フォーム部分、ログイン部分。誰のアカウントにでもログインできた。急いで直した。
  3. CSRFクロスサイトリクエストフォージェリ) - ログイン済みのユーザを細工されたページに誘導すると、パスワード任意の値に変更できた。すぐ直した。
  4. クッキー不適切な利用 - httponlyでないCookieに、ユーザIDパスワードナンチャッテ暗号化(全ユーザ統一の値でxorしただけ)して保存していた。1のXSSとの合わせ技でその内容を外部に送信できたし、暗号の強度もダメだったし、そもそもログイン自体に使う情報Cookieに保存すべきではない。しかしこのCookie依存している箇所がたくさんあったため、XSS修正とhttponlyの対応だけになった。一応直った。

ショッピングシステムの中身が、フレームワークライブラリなし・SQL発行共通関数なし・オブジェクト指向なし・数万行の巨大ファイル1つであることを知ったのは、脆弱性修正にとりかかってからだった。その他のシステムもすべてこのショッピングシステムを参考に作られているらしく、プレースホルダエスケープもない文字列組み立てSQL発行があらゆる場所に散乱していた。とても直し甲斐があるシステムであった。

これらのシステムは、日付zip以上のバージョン管理が行われていなかったため、該当部分を誰が書いたのかはわからなかった。そんな状況であったので、大量に報告された脆弱性始末書は、すべて現在担当である自分が書くことになった。

自分入社するより前からあった、誰が作ったのかもわからない脆弱性を、探し修正始末書を書いた。「私が担当になる前からあった脆弱性なので、原因はわかりません。おそらく不勉強が原因です。対策は、勉強会コードレビューバージョン管理です。」などと書いた。今思えば、"よい始末書"の書き方を勉強する機会を逃していたのかもしれない。

自分の作業はすべてgitで記録していたので、自分担当になったときにはすでに脆弱性があったと主張したが、「自分だけバージョン管理などという便利なものを使っていてずるい」と怒られて終わった。(なお、それよりも前に社内でのバージョン管理ツールの使用は提言していたし、それが「よくわからないから」と却下されてからは、自分だけで使う許可は得ていた。)この経験からバージョン管理をしていない、もしくはクソみたいな管理しかしていない組織内で、自分だけでも上手く管理する方法についての知見を得た。

こうして、徳丸本の内容を実践しながら学習できたので、セキュリティ分野についての興味はより高まり、知識も増え、A社に対する信頼はほとんど失われたので、さら勉強し、3年目に入るころには情報セキュリティスペシャリスト試験合格し、転職した。

Webサービスセキュリティ勉強したいと思ったならば、徳丸本を読んで、実践しながら勉強することを強く推奨する。紙の本には実験環境CDもついているので、A社でホームページ担当していなくても、実践しながら勉強することが可能だ。(電子版の場合はどうなのだろうか。申し訳ないが各自確認していただきたい。)

すばらしい本を書いてくださった徳丸先生感謝します。

http://tatsu-zine.com/books/sbcr-taiketekinimanabu

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