はてなキーワード: ベリグとは
前回までのあらすじ
ん……ああ、終わった?
どれくらい時間がかかったか分からないが、決着がついたらしい。
弟の解説によると、デッキの完成度とその戦術の理解度が明暗を分けたという。
ジョウ先輩は新パックのカードを既存のデッキに混ぜていた結果バランスが悪くなっていた。
それに対して弟のデッキは普段のロマン重視のデッキではなく、勝ちを重視するべく「環境トップのテーマ」だとかいうのに切り替えていたという。
ジョウ先輩いわく、勝負は一方的でほとんど何もできず、何かしても弟に逆に利用される始末だったらしい。
「ワタクシ、カード集めるのが主な目的ですから、バトルはそこまでガチじゃないんですのよ……」
こうして弟は新パックを勝ち取った。
「さて、と。この開けるときのワクワク感がたまらないんだ……」
そうして弟が開封しようとすると、隣で食い入るようにジョウ先輩が眺めていた。
「おい、しつこいぞ!」
「見るだけ! 見るだけですから!」
もし希少なカードを弟が手に入れたらショックだと言っていたのだから、いっそ知らないまま立ち去ったほうが精神衛生上よいと思うのだが、どうしても気になってしまうようだ。
「お、グリグレだ」
「しかもラメ加工しているバージョンですか。そこそこ運がよろしいですわね」
何が良くて何が悪いかはよく分からないが、やたらと派手な柄だったりキラキラしているものがレアだという。
随分と……いや、その、分かりやすいんだな。
「げ、またこれか」
「ワタクシも5箱のうち1割はそれでしたわ」
その後もいくつか開封していったが、反応を見る限り大したものはなかったらしい。
「さて、これが最後のパックか……」
パックを開ける音が店内に妙に響き渡る。
その後は、やけに静かである。
「……まあ、こんなもんか」
「……まあ、こんなもんですわね」
「あんたが言うんじゃねえよ」
どうやら、がっかり感の静寂だったらしい。
「まあ、ひとまずワタクシの観測範囲内でベリグレやクアスペが出なくてよかったですわ……」
必死に探し回った割にこんな盛り上がり方だと、付き添ってきた甲斐が俺にもないのだが……。
そうしてノリきれずに持て余していた俺は、暇つぶしにパックに羅列された文字を何気なく読んでいた。
すると、あることに気づく。
「なあ、その……ベリーマッチグレート、クアドラプルスペシャルだっけ」
「ええ、それが、なにか?」
「初期出荷分には入っていない……って書かれているんだけど」
弟とジョウ先輩が固まる。
後に分かったことだが、CMにも右下あたりに注意文がちゃんと表記されていたり、その後も店舗ごとに注意喚起をしていたらしい。
巡った店にいる人間の特徴に偏りがあると思ったが、他の人はそれを知って思いとどまっていたということなのか。
「まあ、仮に入っていても10パック程度じゃ出ないだろうし」
弟はというと多少は気持ちが沈んでいたようだが、意外にも冷静だった。
元からそこまで期待していなかったらしい。
だが、休みを犠牲にして、カードも大量に購入していたジョウ先輩はそう簡単に割り切れないようだ。
「キ…キ…キイイイイイイイ ! 許せませんわ! あの会社め、法の裁きを受けさせてやりますわ!」
そういってジョウ先輩は店を出て行った。
だが、その後も何事もなかったかのように、ジョウ先輩はカードゲームに興じているのを何度か見かけた。
いつの間にか件のベリーマッチグレートだとか、クアドラプルスペシャルとかいうのも手に入れていて、周りに自慢していた。
更に新パックを買いまくって手に入れたのか、或いは別の方法で手に入れたのか。
いずれにしろ、怖かったので聞かないことにした。
今回の件で、俺は認識を改めた。
でも違うんだ、子供の遊びに大人が深く介入すれば、それはもう“大人の遊び”なんだ。
“子供の遊び”と“大人の遊び”が噛み合わないのは当然だよな。
前回までのあらすじ
俺、マスダ!
『ヴァリアブルオリジナル』の新パックを求めて町に繰り出したんだ。
けど、子供みたいな大人たちのせいで、どこもかしこも売り切れだ。
途中、ジョウとかいう明らかに嫌な奴におちょくられるしで散々だぜ。
でも、俺はまだ諦めない。
きっとどこかに新パックがまだあるはず。
疲れた兄貴が「もう帰ろうぜ」と言い出す前に、何としてでも見つけなきゃ!
あの後も何件と回るが、やはりどこも売り切れだった。
俺は付き添いだけで酷く疲れているので、弟に至ってはボロボロだろう。
こんなにも苦労するなら供給が潤沢になるまで待つほうが懸命だと思うのだが、弟は頑なであった。
手に入らないものほど、余計に欲しくなるのだろう。
ここまでくると手ブラで帰りたくないという意地もあったのかもしれない。
うらぶれていた弟だったが、ふと顔を向けるとその目に見る見るうちに光が差す。
「あ……あった! あれだ!」
そう言うと弟は走り出す。
俺もゆっくりと向かうと、確かにCMで観たのと同じパックがそこにあった。
ようやく見つけた新パックに弟の表情が緩む。
息を調えると同時に、感動を噛み締めているようでもあった。
しばらくすると、弟は手はゆっくりと伸ばした。
が、そこに見知った手が同時に伸びていく。
ジョウ先輩だ。
「な、なんだよ、あんたは5箱も買ったじゃないか。もう買う必要ないだろ」
「5箱も買ったけど、ベリグレも、クアスペもなかったのよ! 5箱も買ったのに!」
「知るか! 俺は小遣い分だけ、10パックほどしか買わないのに。全部買おうとするなんて、それが大人のすることかよ!」
「あなたの買った中に、もしもベリグレがあったりしたら悔しいじゃありませんか。ましてやクアスペがあったりしたら、悔しくて寝れなくて……明日は寝不足状態で労働ですわ!」
ジョウ先輩が妙に必死なのはあの人の性格もあるが、そーいう事情もあったようだ。
子供の遊びの前では、大人ですら子供になってしまうという話はよく聞くが、それを考慮してなおこの争いに俺は見苦しさを感じた。
見るに堪えないものであったが、俺は事態を収めるつもりはない。
聖戦とはかけ離れた醜い戦いでも、弟は自身の力で戦い、勝ち取るべきなのだ。
あと、面倒な上にロクなことにならないし、付き添いだけで酷く疲れていたので俺は絡みたくない。
そうして二人は押し問答を繰り広げていたが、とうとう見かねた店主は二人の間に割って入り、一つの提案をした。
「どうしても譲れない。それでも決めるなら、方法は一つではないですかな?」
その言葉で少し冷静になった二人は、腰に携えていたカードの山に手を添える。
「バトル!」
「アンド!」
「ファイト!」
すると突然、店主含めた三人はまるで打ち合わせしたかのように、掛け声を店内に響き渡らせる。
「あー……それ時間かかりそう?」
「場合による!」