https://anond.hatelabo.jp/20211113201646
横田だけど、ちょっとググったらそれっぽいストーリーが立てられたので共有しておく。
三行でストーリーをまとめると
・「屍山血河」という言葉を考案したのは大日本帝国陸軍の文官で、陸軍教授の地位にいた樋口石城なる人物である。
・「屍山血河」は、旅順戦を記録したロシア軍人М. И. Костенкоの日誌 "Осада и сдача крепости П.-Артур : мои впечатления"を邦訳する際、邦題として発案された。
・この邦訳を読んだ人々が邦題を熟語として認識。そのうち、司馬遼太郎が小説内で多用したことで日本中に広がった。
「屍山血河」の由来はなにか。まず、中国語で言うところの「成語」にそれらしい言葉はない。
かといって「屍山」とか日常言語で使う単語という感じではないし、自然発生した四字熟語でもないだろう。
普通に考えたら、中国語以外の言語にある熟語を、明治以降の文化人とかが邦訳するときに成語っぽく整えた、とかが一番ありそうなパターンだ。
しかし、「屍山血河」という単語は辞書に載っているが、用例として記されているのは司馬遼太郎の小説ばかりだ。後は三島由紀夫だが、司馬遼太郎の用例が古い。
辞書を作ったときにそれより古い用例が見つからなかった可能性が高い。
普通、辞書の用例はその用法で一番古いものを採用する。だれか他の文学者が創作したならそっちが採用されないのは奇妙である。
もちろん、司馬遼太郎が独自に考案したと考えるのは早計だろう。
司馬遼太郎が勝手に創作したとされていた史観や、事実関係が怪しい記述も、近年ちゃんと調べてみると「元ネタ」があるものばかりだったらしい。
もちろん、だからといって、それらが歴史的事実だというわけではなく、「元ネタ」を書いた人が勝手に創作したり、誤認識していたということらしいのだが。
ともかく、司馬遼太郎は無から発想したり、自分で説明なしに訳語を創作するような人間ではないと思う。
用例として採用しづらい対象で、司馬遼太郎が興味を持つ題材の日本語の資料で「屍山血河」を使ったものがあるはず。
この条件に合致しそうなのが "屍山血河" コステンコ 著,樋口石城 譯 [1]である。
ちょっと調べてみると、これは旅順戦を記録したロシア軍人М. И. Костенкоの日誌 "Осада и сдача крепости П.-Артур : мои впечатления"[2]の邦訳だ。
М. И. Костенкоは旅順攻防戦に少将として参加した後、戦後は軍事法廷の議長とかをやった、とwikipediaに書いてあった。
旅順戦の日誌は貴重な資料であり、ロシアで広く読まれた。これが邦訳され、1912年に出版された。
しかしそれにしては邦題がおかしい。おかげでググっても原著がすぐ出てこなくてちょっとイライラした。
"Осада и сдача крепости П.-Артур : мои впечатления"を機械翻訳すると、"旅順要塞の包囲と降伏:私の印象"となる。
実際、この本は1973年に田崎与喜衛に再訳されており、そのときの邦題は"旅順攻防回想録 "となっている[3]。
泥沼の旅順戦で主に大量の兵士、とくに日本兵が死んだ様子を描写して「屍山血河」と言っているのだろうが、戦闘記録の題名にするには文学的にすぎるだろう。
М. И. Костенкоが序文とかサブタイトル的な位置にこの単語を使っているのではなく、樋口石城が勝手につけた邦題である可能性が高い。
ロシア語でも Горы трупов (死の山)とか реки крови(血の川)という表現は戦争を表現する際、よく使うようだ。
熟語とまでは行かないが、並列して使われる例もググればそれなりに出てくる。
原著に直接この組み合わせが出てくるかはちゃんと調べていないので不明だが、本文検索してみたら、Горы труповは単体で積み重なった日本人の死体の表現として使われていた。
もしこの記録が文学作品だったらこの題をつけるのは適当かもしれない。
これ以降は完全に当て推量である。
陸軍教授、樋口石城がどういう人物なのかはググっても出てこないが、樋口季一郎の親戚とかだろう。しらんけど。
まあ、軍教授なのだし名家出身の学者で、ロシア語を含む文系の教養があって、仕事はロシア関連の軍事資料の邦訳を大量にやらされていたのだろう。
だから文学作品とかを書く暇もないので、やらされた邦訳の仕事で、多少のオリジナリティを発揮してみたくなったのではないだろうか。
そこで少し文学風に気取って成語っぽい「屍山血河」という語を創り、戦闘記録の邦題としてつけたのだ。
それを司馬遼太郎が資料として閲覧。そういう成語が既にあると認識、戦争小説で多用。
小説を読んだ人間もそういう語があると理解し、大量の死者が出る戦争を語る際に一般的な単語へと一気に昇格してしまった。
そしていざ辞書に載せようとすると、用例として明記できる古い例が司馬遼太郎以前にないことに気づく。
樋口石城の訳書も発見はされたのだろうが、題なので用例としては不適であり、スルーされた。
結局、遡れるのは司馬遼太郎の小説しかなかったのではないだろうか。
無論、上記は全てネット上で手に入る資料の断片からの推測であり、だいぶお粗末なものだが、もし当たっていればなかなか面白いストーリーではないだろうか。
以上、「屍山血河」の由来について横田が調べてみました。
[1]https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I024298307-00
物理的に本当に死体を積み上げてる風景の描写じゃなくて、たくさんの人間を殺害してきた・死なせてきたことの比喩的な表現・イメージ画像としての死体の山 ベルセルクのグリフィス...
そんなん「屍山血河」て言葉があるじゃん…… と思って調べたら、この言葉自体が意外と漢文とかに典拠が無くて最近できた言葉なのかもしれない。一番古い用例というのがちょっと見...
https://anond.hatelabo.jp/20211113201646 横田だけど、ちょっとググったらそれっぽいストーリーが立てられたので共有しておく。 三行でまとめると ・「屍山血河」という言葉を考案したのは...
ちゃんと調べる人おるんやな、尊敬するわ
それよりふるい中国人が書いたものにも用例があるよね https://ctext.org/library.pl?if=gb&file=104693&page=425
言うて日本語ではもっと古い用例があるからセーフ "屍山血河" - Google 検索
もっと古い用例があるんなら、 > 「屍山血河」という語を創り、戦闘記録の邦題としてつけた はアウトじゃん。
まあ中国語で検索すると普通に「尸山血海」が出てくるんだけどな。 出典は元代に刊行された『三国志平話』。 尸山血海_百度百科 「血海尸山」というパターンもあって、これは明代の...
はー 勉強になりました。 ありがとうございます。
ヒラコー好きだけど、たぶん始祖じゃないと思う。KOEIのゲームとか彼は好きだし、そこなんじゃないのかい?
「出典未詳の四字熟語「屍山血河」 岡島昭浩」 https://www.izumipb.co.jp/book/b571286.html という論文があるらしいよ。
死体ならいいんだけどボコボコにしたやつの山積みは下の方ガチで死んでそうで怖い
灰の記憶
普通に戦争で積み上げるからそこからの着想じゃねえの
人は立たんやろ
昔はやったベトナム戦争映画の影響じゃねえすか
Night of the living deadのリメイク版のラストでは積み上がってた気がする
アウシュビッツってウインナーの名前っぽくもある…
ドイツっぽい地名なら何でもいいんじゃないのか
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%91%E8%A1%86%E3%82%92%E5%B0%8E%E3%81%8F%E8%87%AA%E7%94%B1%E3%81%AE%E5%A5%B3%E7%A5%9E こんなのの発展形じゃね?
古事記にもそう書いてある
ピカドン
ブクマカとかトラバって本当に人の話聞いてないのな 比喩的表現だって!!言ってるだろうが!! 例に挙げたベルセルクのグリフィスが死体の山の上に立ってるのだって心象風景で、実...
どっかで見た覚えはあるけど題名は思いつかないやつ
は?物理的表現が既に定着していればそれが比喩的表現としても使われることに何ら疑問はなくなるだろ
ブリューゲルとかボッスの作品にありそうだが、見た限りでは見つからないなw
anond:20211113131158
地獄の門とか。あれは地獄で人が苦しむ比喩だよね