彼女にフラれた。
先月21歳になった僕は、誕生日を迎える2日前に「別れよう」といった旨の長文メッセージを受け取った。そして今日、"正式な別離"が相互に了承された。以下は、別れを告げられてから今日までの鬱々とした日々に散々思考し散らかした自己分析を綴る、ただのマスターベーション日記である。
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友人の友人から繋がり、遠距離恋愛での付き合いを始めたのは去年の冬頃だった。社会人一年目の彼女は、ある程度の遊びは経てきたという大人の余裕を匂わせつつ、一方では学生感が抜けきらないのか、社会に翻弄されつつも理想を見つめる、等身大の素朴さを感じさせた。友人宅の飲み会で出会った彼女の、その妖艶な魅力と純真さのバランスが僕にとってドンピシャだったようで、出会って数日で告白をした。最初はネタだと思われてサラリと流されていたのだが、その熱意が本物だと伝わるには一ヶ月もかからなかった。
東京の大学に通う私と、大阪の企業に勤める彼女の間に広がる"距離の問題"を解決するには、ラインや電話を多用することとなった。毎日連絡するなど今までの付き合いでは考えられなかった僕だったが、現実に問題として立ちはだかる"距離"を目前にして、情報で距離を圧縮する手段に頼らざるを得なかった。しかし思ったよりそれは苦ではなく、バイトからの帰路の20分に電話をしたり、帰宅したらゴロゴロしながらラインを打ったりなど、段々と生活の中に溶け込んでいく感覚があった。最初は20分だった電話も、敢えて遠回りして1時間にしたり、朝までラインが続いて翌日死にかけながら学校に行ったり、コミュニケーションを取る時間だけが指標たるべきではないのだが、それは僕らに確実に愛を感じさせていた。
また、直接に会う機会も月に一度は必ず設けていた。どちらかがどちらかの場所へ。次の月は逆方向で。と、よくある遠距離恋愛のパターンである。金のない僕らは夜行バスを使ってお互いの家を行き来した。8時間、眠ることが出来なければ非常に辛い環境の中、互いのことを思ってバスに揺られるのであった。その時間さえ、貴重に思えたのだった。
とある夜、彼女が東京に来た日だった。自宅周辺の飲み屋を何件かハシゴし、ある程度知性が無くなりかけた頃合い、彼女は帰宅早々布団に潜り込んで寝始めた。片道8時間の移動に疲れていたのだろう。僕はなんとなくぼーっと起きていて、眠くなるのを待っていた。少し経つと、突然彼女の携帯が鳴り響いた。男性の名前での着信だった。酔いに任せて、というと自己弁護臭くなってしまうのだが、いいやーと思ってそのまま電話をとってしまったことが、全てを狂わす元凶となったのだと、今になって思う。
「もしもし?」
電話の向こうの男性が声を発した。彼以外にも何人か後ろにいるようで、様々な雑音が聞こえる。
それに対して僕は黙って耳を澄ませていた。
「今から○○と家いっていい?」
僕は黙る。向こうも酔っている。却って冷静になる。
「あれ、なんも聞こえねー。もしもし?」
「男といるんじゃねーの?」
「じゃあなんで出たんだよww」
「…」
彼女の家には頻繁に男が出入りしているのだろうか?
僕は彼女の私生活を全てを知っていると思っていた。何故なら、毎日連絡を取り合っているから。しかし今まで男が出入りしているなんてことは一度も聞かなかったし、疑ってすらいなかった。この時から、彼女に対する猜疑心が少しずつ芽生えるのを、それを認めたくない気持ちと拮抗しつつ、感じ始めていた。
その日のことは彼女には告げなかった。彼女は全て開示しているようで、そうではなかったからだ。心の最終的なパーソナルエリアまで僕が触れることは、ついになかった。そして電話に出たという事実は彼女のその領域を侵すことになると、僕はどこかで気づいていたようなのだ。
しかし猜疑心の侵食は止まらなかった。連絡を取るときはどこか監視的な意味合いを込めた言葉をつかったし、何をしているのか、何処にいるのか、誰といるのかが気になって仕方が無くなった。夜に突然連絡が途絶えると不安になった。そんな日の翌日には、連絡をしなかったことを咎めた。友人と遊んでいるなら遊ぶ前に連絡をしてくれ、と。彼女はごめんと言いつつも、最終的には同意をしなかった。それに対しても、謝るなら直せ。納得できないなら言うな。といった言葉を浴びせ続けた。そんな状況で彼女が怒ることは稀だったが、その時には信頼されていないのが辛いと訴えていた。自由を得るにはまず信頼を勝ち取らなければならないと、私は信じているのだが、その順序の認識が僕らの間では相違していた。しかしこの時点で既に僕が彼女を信頼することは、支配すること以外には不可能だっただろう。
私の未熟は、幾つもあるだろうが特記すべきは、支配することで人間関係をコントロールしようとしたことだ。今までの彼女との付き合いを考えると、支配的な関係を築いてきたように思える。
しかし彼女は違った。彼女にとって、人に支配、被支配は無いのだ。だからこそ無条件に信頼してほしいと訴えていた。そんな彼女の"素朴さ・純真さ"に惹かれたのは、僕自身が支配的でありながらも本当は"非支配"を望んでいるからなのかもしれない。僕の続けてきた俗な人間関係よりも、彼女のような純粋な付き合いを求めていたのかもしれない。
それに気づいた時、涙が止まらなくなってしまった。単純に惜しいという気持ちと、僕のわがままに長く耐えた彼女のことを思ってだ。
しかし僕がそれに気づけたのも、彼女が耐えかねた瞬間の感情の発露によってだった。すでに、手遅れであった。
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男は元カノの成分で出来ている、といった記事が少し前に話題になっていたが、僕にとって彼女は紛れもなく僕の一部になった。滅茶苦茶に傷つけておいて、学びになったというのもおこがましい限りであるが、僕は彼女にフラれて、一つ大人に近づいた。
支配とか被支配とか遠距離選んだ時点で言ってんじゃねーよ寝取られ趣味がよー