一昨年のクリスマスイブにPerfumeのライブに行った。場所は東京ドームだった。
近所の親しくしているオジサンに、仕事で行けなくなったから良かったら代わりに行かないか、とチケットを譲ってもらった。急遽友達との約束を断り、オジサンのお友達らしき人とライブに行くことになった。
ライブに行くのは初めてだった。よってマナーやノウハウが分からなかった。
仲のいい友人に、アイドル好きでいつもライブや握手会に参加している子がいたので助言を貰った。
物販に並びたいのなら始発で行け。動きやすい服装で行け。サイリウムやウチワがある方が良い。サイリウムには各メンバーのイメージカラーがあるはず。降ってきた銀テープは持ち帰れ。
とのことだった。
自分はかしゆかが好きだったので、早速彼女のイメージカラーをネットで調べた。
予想をした。あ〜ちゃんがピンク色、のっちが水色、かしゆかはすみれ色あたりかな。でものっちがオレンジで、あ〜ちゃんが赤でもいいかな。もしかするとあ〜ちゃんが白、のっちがグレー、かしゆかは黒かもしれない。そんなことを考えた。
すると、Perfumeのライブではレーザーなどの効果が薄れるためサイリウムは持ってきてはいけない、と書かれていた。
なんだ、いらないのか。確かに言われてみると、Perfumeのライブにサイリウムを振っている人々のイメージは無い。たぶんウチワを持ってきている人もいないだろうと判断した。
色々と知識が不足していることを知ったので、YouTubeに上がっているPerfumeのコンサートの動画を見て予習をした。クリスマスがとても待ち遠しかった。
ライブ当日、始発で行く元気は無かったので、朝9時頃に家を出て後楽園に向かった。
友人のアドバイスが嘘だった。のではなく、単にファンの熱量の違いだろう。
「全部ください」一度は言ってみたかった言葉を、齢23にして実現してしまった。
「TシャツはMで。あとバッグは2つ、グミは3つ下さい」 と言って受け取った。1つ目のグミはすぐに食べた。ふつうの、ぶどう味のピュレグミだった。美味しかった。
10時開始の物販に、10時に来てしまって、開場まですることが無く、どうにかこうにか時間を潰した。
開場が近づくにつれ、物販にも人が並び始め、気づいた頃にはすごい行列になっていた。早く行っておいて良かったのかもしれない。
ドームに並ぶ列ができはじめたとき、真っ先に並んだ。自分は前から5番目くらいだったと思う。自分の後ろにぞろぞろと並ぶ人たちを見て、少し優越感を覚えた。
ドームに入って驚いた。初ドーム。初野球場。想像していたよりも中に入るまでの道が長いし、なんか坂道だし、入場だけで疲れた。そして広い。あちこちにスーツを着た学生アルバイトらしき人たちがたくさんいる。本当に、たくさん。10メートルに1人くらいの間隔でいる。今から凄いことが始まるんだ、と思った。
席はアリーナの中程。とてもいい場所だった。オジサンと、オジサンの大事なクリスマスイブに仕事を与えた人に心から感謝した。
ライブ開始までに、3度ほど会場モニターでチョコラBBのCMが流れた。その都度、会場が湧いた。ライブは始まっていないのに、Perfumeのコスプレをした人たちが立ち上がり、周囲を煽っていた。みんな、それに乗って、手を振っていた。まだ始まってもいないのにこんなに盛り上がっているなんて、始まったらどうなるんだろうか。膝と顎が震えた。ちょっと寒かった。
会場が暗くなると、みんなが立ち上がった。自分と、隣に来たオジサンの友人らしき人も立ち上がった。
ライブは、なんかもうよくわからないくらい楽しかった。楽しすぎて、ほとんど覚えていない。ごめんなさい。
とにかく、3人ともメチャクチャ可愛かったし、あ〜ちゃんはメチャクチャ面白かったし、演出もメチャクチャカッコ良かった。途中、クレーンのようなものに乗って、客席の上を3人が飛んでいた。かしゆかゴメン、スカートの中凝視しちゃった。ゴメン。
ちなみに、降ってきた銀テープと3人のコメント入り風船はきちんと確保できた。
ライブが終わっても尚、高揚していた。アドレナリン出まくり、であった。でもお腹が空いたので水道橋まで歩いて、ラーメンを食べに行った。
道中、イブなのでカップルがたくさんいた。自分はオジサンの友人らしき人とも別れ、大荷物を抱え、ひとりぼっちで歩いて、ひとりぼっちでラーメンをすすった。なんだか急に寂しくなった。
20そこそこの女が、ひとり、大荷物抱えて、クリスマスイブの夜に、ラーメンを食べている。しかし私は楽しかったのだ。それで良いのだ。
次の日、私は筋肉痛で動けなかった。飛び跳ね続けた脚、振り続けていた腕がピクピクとしていて、布団から出られなかった。
でも、Perfumeのほうがもっとずっと激しく踊っていた。彼女たちは今日もまた同じように踊るのか。信じられない。彼女たちは人間ではないのではないかとさえ思った。人間じゃないのなら、天使かも。
布団の中でPerfumeを想い、物販で買ったものを眺めてニヤついていたとき、携帯が鳴った。先月私を捨てた男から会おうよとメールが届いていた。死ねと呟き私は寝た。
夜、家のチャイムが鳴った。ドアスコープを覗くと先の男が立っていた。どうやら私を捨てたときに付き合っていた女に捨てられたらしい。ざまあみろ。
居留守を使い、ツイッターでPerfumeと検索をかけて、楽しげなツイートをお気に入りに入れる作業を続けた。チャイムの音がうるさかったが、時折、チャイムのリズムがそのときのBGMにしていたMagic Of Loveと重なる瞬間があった。悪くない。
もしライブに行っていなかったら、ドアを開けてそいつを受け入れていたかもしれないと思うと、たくさんの感謝の気持ちが湧いてきた。ありがとうPerfume。ありがとうオジサン。
先日、オジサンとオジサンの友人らしき人が結婚したらしく、報告を貰った。おめでとうございます、と喜んで見せたのだが、正直戸惑った。
オジサンの友人らしき人、女の人、だったのか。
オジサンの友人らしき男の人だと思っていた女性(よく見ると普通に女の人だった)からその時のことを感謝された。オジサンが連れてくる代理が男でもなく、年の近い女でもなく、倍近く離れた女だったから、この人なら私の気持ちを分かってくれている、安心できると思ったらしい。
その論理は私には全く分からなかったが、とにかくそうだったらしい。
あの時私がライブに行きますと返事をしなかったら2人の未来は変わっていたのかもしれないとのこと。