■Treasure Dataが何の告知も無く突然価格を10倍に値上げした件について

日本人の有名な技術者たちが起業したとして話題のTreasure Data(トレジャーデータ)。最近日本市場に向けた販売強化をすると発表した。だが以前からずっと日本企業相手にビジネスやってきていたはずだ。過去にリクナビなどで広告記事も見た。なぜ今さら発表? と不思議に思っていたら、以前に比べて価格が大幅に値上がりしていることに気がついた。

現在の最低価格は2TB上限で月3000ドルだ(http://www.treasure-data.com/pricing/)。無料のメニューもあるが、1ヶ月に60クエリまでしか実行できないので、企業で使うなら事実上有料のメニューしか選択肢が無いと考えて良い。

だが実は、つい最近までTreasure Dataには月29ドル、月299ドルのメニューがあったのだ。Internet Archiveには4月11日時点の記録があった。これを見ると、500GB上限の月299ドルで、無制限のクエリが実行できる。だが今は無くなっている。

月3000ドルは決して安くない。使う容量が限られている企業なら、実質的に10倍もの値上げが行われたことになる。容量単価で見ても、2.5倍もの値上げだ。

有料サービスを検討している企業にとって、価格は最も重要なファクターの1つだ。数パーセント値上げしただけでも騒ぎになることが少なくない。それがこうも簡単に何倍も値上げされるようでは困惑する。しかも、サイトのどこを見ても、値上げの理由はおろか、値上げがあったことすらどこにも書かれていないのだ。プレスリリースの最新の日付は現時点で1月15日だ(http://www.treasure-data.com/press-release/)。これでは検討するにしても、また値上げされるんじゃないかと不安になる。

ここまで横暴とも言える値上げを何の告知も無く行ったのはなぜなのか。その理由が気になった。これまでの経緯をもとに真相を探ってみた。

Treasure Dataのサービス公開後の経緯

• 2012/9末にサービス発表
  • 関連記事 (クラウド上のデータ分析ウェアハウスを提供するTreasure DataがRuby言語の松本氏らから$1.5Mを調達 | TechCrunch Japan)
  • この時点で顧客は10社ほどいた
  • ちなみに日経によるmatzへのインタビューで、彼は5000ドルしか出資していないことが明かされている。それにも関わらずあたかも大株主のような印象を与える見出しだ。
• 2012/10中旬頃にサービス開始
  • このときの価格の情報は見つけられなかったが、確か月額600ドルのものと1500ドルのものがあったと思う。また価格発表前の顧客に対しては、アーリーアダプターなのでより安い価格での提供になっているかもしれない
• 2012/10下旬 サイオスとパートナー契約
• 2012/11 ジェリー・ヤン出資 (Crunchbaseの左のFundingの項に「Angel, 11/12」とある)
• 2012/11/28 Amazonが1TBあたり年間1000ドルで使えるクラウドDWHである「Redshift」を発表。実際に使えるようになるのは後述の2月から。
• 2013/1/16
  • 遅くともこの時までに、値下げを行なっている(web archiveで確認できる)。月額29ドル50GBでクエリ回数に制限のあるモデルと、月額299ドル500GBのメニューがある。これはタイミング的にもAmazon Redshiftに対抗するためだろう。
  • 2013/1/16の時点で50以上の顧客がいることが、カンファレンスのスポンサーの説明文から分かる("already in use by over 50 customers worldwide" と書いてある)
• 2013/2/中旬 Amazon RedshiftがUS Eastリージョンで使えるようになる。
  • Redshiftにはこれまで多数の詳細な検証記事が上がっている。総じてとてもポジティブ
  • 10倍以上高速で10倍以上安いというレポートがある
  • Nokia, AirBnB, Netflixなど本当の大規模企業がすでに採用している
• 2013/3月-4月 リクナビとかに広告出稿している。また極めて著名なエンジニアであるnaoya氏による宣伝記事があったのもこの頃である。こうした宣伝活動が、日本企業への普及につながったと考えられる
• 2013/5 いつの間にか値上げされていた。web archive上では月299ドル500GBのメニューが少なくとも4月末まではあったことが確認できる。だが本家HP上にはどこにも過去の価格は載ってない。今ある最安価格は月額3000ドル2TB。値上げの説明も全く無い
• 2013/5/20 日本市場強化の発表。
  • 約70社の顧客がいて、うち約30社が日本の顧客であることが明かされた (関連記事)

以上の時系列情報から分かること

• サービス開始後3ヶ月半では、値段が高い時期が長かったにも関わらず約40の顧客を開拓した。だがその後4ヶ月強は、価格が安かったにも関わらず20弱しか伸びていない。この間に起こった重要な出来事は、Amazon Redshiftの北米での正式開始である。値段を下げたもののRedshiftに対抗できなかったと考えられる
• 現在の70社は、月3000ドルで使っていることはあり得ない。なぜなら月3000ドルになったのは直近の話だからだ。それまでずっと月300ドルのメニューがあったので、これを使っていたと見るのが妥当である。海外の顧客数は差し引き40社の計算になるが、1社あたり平均500ドルとしても500ドル×40社で月200万円の売上にしかならない。これは「ワールドクラスのエンジニア」1人の人件費すらまかなえないレベルである
• naoya氏が宣伝した3月-4月頃の時点では、月29ドル、月299ドルのプランがあった。naoya氏の会社の規模的には、これらのいずれかのプランと見るのが妥当。月3000ドルだったら記事の内容は変わっていたどころか、使っていない可能性すらある

なぜ値上げしたのか?

• Amazon Redshift登場後の伸び悩みぶりから見て、海外でRedshiftに対抗するのは困難な状況
• 逆に知名度のある日本では一定数売れている
• そこで日本で収益を稼ぐという考えにシフトした
• 日本にフォーカスするなら、有名なので値上げしても大丈夫と踏んだ。もちろん海外ではさらに売れなくなるが、日本で情弱相手に稼いでメディアに提灯記事を書いてもらえば、たとえ収益の大半が日本企業からのものであっても、あたかも世界中で成功しているように見せることができる

まとめ

• Treasure Dataは月299ドルから月3000ドルに大幅値上げしたにも関わらず、それをプレスリリースしなかった
  • そもそもこうした大幅値上げの告知もせず、最初から月3000ドルだったかのようにメディアに発表するって、会社としてどうなんだ?という感じだ。状況次第で今後もっと値上げする可能性があるということだろう。
  • AWS本家のサービスはこれまで1回も値下げしたことが無い。どっちが信用できる?

• 月3000ドルでTreasure Dataを使う会社は間違いなく情報弱者
  • 海外ではAmazon Redshiftに対抗できないので、日本で情弱企業相手に稼ぐ狙いにシフトしたと考えられる。情弱相手なのでどうせRedshiftも知らないから、高くても大丈夫だろうということで大幅値上げした
  • 情報強者は年2000ドルのRedshiftを使う。それかTreasure Dataを以前の価格である月299ドルで使う
  • 世の中でTreasure Data持ち上げてきた人たちや、既存の70社の顧客は月3000ドルも出していない。何しろ当時の価格は10分の1だったのだから。世の中、値段が10倍になれば買い物の仕方も変わる。状況がまったく違うのだから鵜呑みにしてはいけない

• メディアが使っているTreasure Dataの凱旋、逆輸入、再上陸といった言葉は適切ではない。日本に逃げ帰ってきたと言う方が適切。ほかの海外で失敗してるWebサービス会社とたいして変わらない。でも今後日本市場で利益を上げたとしても、法人税はアメリカに納税されるわけで、日本のためにはならない。日本企業の方が日本のためになる

• 有名人が揃っているだけあって、あたかもうまくいっているようにメディアや他の有名人を使って持ち上げるのが上手い。だが利用者にとって最も重要な値段の大幅値上げについてはスルー。これはいくらなんでも人を馬鹿にしすぎだろう

フェアに売上も雇用も伸ばしているスタートアップの日本企業はいくらでもある。そういう会社にももっと目を向けてあげてほしいと思う。有名人がたくさんいることだけが全てではないはずだ。

Permalink | 記事への反応(1) | 13:46

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