呪術廻戦という漫画が好きだった。キャラクターが魅力的で話の展開が読めず先が気になり、毎週月曜日は0時になると同時にまず電子版ジャンプをひらいた。
同時に呪術廻戦が嫌いだった。話の勢いは好きだけど戦闘の理屈がよくわからなかったり、作者と好みが合わなかったり、作者の常識が自分の非常識だったり、違いを面白く感じることのできないタイプの感覚のズレが気味悪かった。
好きに理由はいらないが、嫌いになると嫌な部分を並べ立てたくなるのは何故だろうか。その時期は寝付きが酷く虫の居所が悪かったのもあった。以前からモヤモヤを抱えていた私は自分の嫌いな部分を足りない頭で可能な限り言語化してワードに書き並べた。
でも学校の課題にも使う自分のドキュメントフォルダーに「呪術廻戦の嫌いなところ」というタイトルのファイルが入っているのがなんとなく嫌で、それなりに長く書いたので消すのももったいなくて、迷った末に匿名ダイアリーに投稿した。投稿したのは2回目でよくわかっておらず、5chみたいに便所の落書きとして使えば良いのかなと思っていた。
投稿してから数分様子を見ていたら「文句言いながら読んでんじゃねーよw」と一つだけコメントが付いて、少し嬉しくなってそのまま寝付いた。
それからしばらく経って、ふとさきほど匿名ダイアリーをのぞくと自分の日記にしては多すぎる反応があって驚いた。皆が様々に日記の内容を批評している。体感だと同意の意見と反対の意見が5:1くらいの割合で、それでも少ない方の批判意見に恐縮してしまった。いくつか身に覚えのある指摘を受けた。
まず、自分はハンターハンターと比較しながら呪術廻戦のことをけなしていたが、「手の内を晒すという縛り」を批判したいがために文中で「ハンターハンタ-の誓約と制約には納得できるけど呪術廻戦の縛りには納得できない」という事を述べた。正直、自分でもここはあまり良い説明では無いなと思っていて、呪術廻戦の縛りを批判したいがあまりに過剰にハンターハンターを持ち上げてしまっていた。誓約と制約も正直よくわからないところはあるとわかっていながら直さなかったのはひとえに自分の意見を協調したかったからだ。無駄に取り繕おうとして浅はかさを晒してしまった。ただ、ハンターハンタ-の方が設定面で優れているのは間違いないと思う。自分の書き方、切り取り方が悪かっただけ。
また、自分は最初に「以下自分が置いてきぼりにされたと感じたよくわからない部分を書いていくけど、自分は頭が悪くてそのせいで楽しめてない可能性もあるので、むしろ納得いく説明できる人がいたら誰か説明して欲しい。」と書いたけれど、これは全くの嘘では無く頭が良くないのも本当だが、心情としては9割方ただの予防線で作者の説明や設定が悪いと思っていた。それでも「自分は客観的な視点を一応持っていますよ」と冷静さをアピールしたくてこの文章を書いたのだ。本旨は「作者の感覚や設定はなんかおかしい気がする」という事なのに本当に余計な文を添えてしまった。タイトルに「呪術廻戦の嫌いなところ」なんてかいている時点で作品の内容を批判する気満々なのはわかって貰えていたと思うが、だからこそこの予防線は本当にいらなかった。
今改めてみたら、批判とかではないが、呪術廻戦と似た系譜のジョジョについてどう思うかというコメントがあって、途中までしか読んでいないが少し考えてみた。というか別にジョジョに限らずこういう唐突な理屈っぽさを持ち出すバトル漫画はたくさんあって、自分の中ではトリコとか幽遊白書なんかも特にそういう感じの強い作品というイメージがある。盛り上がるときも納得できないときもあるけれど、基本的にはノリで楽しめる。ジョジョは画風も台詞回しもネームセンスも独創性にあふれている(と少なくとも自分は思う)ので納得できるときはもちろん良いし、多少よくわからない部分があっても、これもジョジョの味かもなとなんとなくスルーできていた。
じゃあなぜ呪術廻戦だけはここまで引っかかるのかというと、ハンターハンタ-のベストバウトと重ねて納得感を求めてしまっていたからだと思う。ハンターハンタ-に唐突感のある要素が全くないとは言わない。考えてみるとヒソカ対クロロで人間の頭部とボウリング玉の重さを紹介していたのは違和感を感じたし、理屈とか論理だけで評価するなら初期のハンター試験編とかも後出しのとんちで乗り切っているように感じる部分はある(そのとんち自体が面白かったりもするが)。しかし、そもそもハンターハンタ-自体、色んなオマージュはあれどそれまでの作品には類を見ない個性のある漫画だと思うのでノリでも楽しめるというのがまずある。そしてゲンスルー戦とかドッジボールとかみたいに作品内で説明された要素、伏線を上手く組み合わせて納得の行く形で格上を打倒する展開もみごとでクロロ共闘説みたいな考察が出る所も個人的にはめちゃくちゃ熱いし納得感がある。こういうバトルの印象から自分としてはハンターハンターは論理的な頭脳戦という認識が強くある。
呪術には呪術の個性があるとは思うが同時にハンターハンタ-と酷似する部分も多々あり、それが自分にとってはオマージュで済ませられる範囲を超えていて、呪術廻戦を読むとハンターハンターがちらついてノリで楽しむことを忘れてついつい頭脳戦としての理屈の正しさ、納得感を求めすぎてしまうんだと思う。それに加えて作者との感覚のズレもあり、つい穿った目で見ようとしていた所もある。自分が評価している呪術廻戦の面白さは理屈以外の部分なのにふと理屈を求めてしまうのは悪癖だと思う。
ただ、私は大筋として間違ったことは言ってなかったと思う。というかそもそも普段の考えをなんとなく言葉にして吐き出しただけだから間違いとか正しいとかで判断するようなものでも無い。自分がそう思ったと言うだけの話だ。呪術廻戦は無駄に複雑でわかりにくい所があると思うし、そういう設定面や感覚のズレが苦手でそれ以外の部分に関しては本当に好きだということも変わらない。
でも所々に見られる自分の気持ち悪さはコメントが無ければ気づかなかったし、インターネットに自分の意見を晒して良かったと思った。自分の気持ちに固執して意見を取り繕うのはやめた方が良いと気づいた。それに自分の考えを言語化するのは結構楽しかった。匿名ダイアリーに書くのはこれで三回目であり、珍しく同じ媒体で日記が3日分続いた。という感じで前向きに捉え、反省だけ残して黒歴史の部分は忘れ去ろうと思う。