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知床観光船事故 なぜ沈没したのか?船に亀裂あっても簡単に沈まないはず…さらに重大なミスがあったか
知床沖で沈没した観光船「KAZU Ⅰ(カズワン」の引き揚げ作業が完了すると、今度は、沈没した原因の調査が本格的にスタートします。なぜ沈没してしまったのか、これまでの取材でいくつかの原因が見えてきています
20日に営業運航を再開した大型観光船「おーろら」。世界遺産の知床沖をめぐる観光船は、雄大な景色が一望でき、例年、大勢の観光客が訪れる人気のクルーズです。
先月23日午前10時、乗客乗員26人を乗せ、斜里町のウトロ漁港を出発した「知床遊覧船」の観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」。
出発してから3時間ほどたった午後1時13分、別の観光船業者の事務所に「KAZU Ⅰ」から助けを求める無線が飛び込んできました。
「エンジンが使えない」「沈みそうだ」「船首が30度くらい傾いている」
翌朝、カシュニの滝から北に14キロほど離れた知床岬周辺で、乗客が次々と発見されます。
これまでに乗客14人が発見され、全員の死亡が確認されました。残る12人は、依然、行方不明となっています。
観光シーズンを前に多数の犠牲者が発生した今回の海難事故。一体なぜ、「KAZU Ⅰ」は沈没してしまったのでしょうか?
「船首に何かが当たって穴が開いて浸水したのが、最も考えられる」
船の事故に詳しい水難学会の斎藤秀俊(さいとう・ひでとし)会長は、航行中、何らかの原因で船の底が破損した可能性を指摘しています。
「一般的には、隠れている岩とか、流れてきた木材であるとか、あるいは大型の動物とか、いろいろなものが考えられます」
関係者によりますと、事故直後、運航会社「知床遊覧船」の桂田精一(かつらだ・せいいち)社長は、原因についてこう推測していました。
桂田精一 社長
一方、「KAZU Ⅰ」の船底は、今年3月の時点で既に破損していたと指摘する声もあります。
「(3月下旬に)自分が見た感じだと、船の前側が割れていた。そこから大きく亀裂が入って水が入った可能性もある」「(傷は)前から2、3メートル後ろ側」「俺が見た感じではこのくらい」
「(船底の一部に)いつもそこ穴開いたり、水が垂れたりしていた場所だから。気になったから毎年見る」「今度も水が垂れてるな、プラスチックだからあちこち剥がれかかっている感じ」「(3月に)今年は直らないから来春揚げたときに直さないとだめだぞとは言っておいた。亀裂をね」
かつて「KAZU Ⅰ」の船長を務めた男性は、もし船底が破損していたならば高い波に打たれ続けて傷が広がった可能性があると指摘します。
「(以前も)シーズンが終わって船を揚げたら、船底にひびが入っていた。今回も船底が割れきたのではないかと」
「KAZU Ⅰ」から通報があった午後1時すぎの波の高さは、およそ2メートル。
この元船長の男性は「KAZU Ⅰ」が予定よりも1時間以上遅れて航行していたことから、現場海域はスピードが出せないほどの高波だった可能性があるとみています。
「うねりとか波とかで船が持ち上がって、反動で船がバンと下に落ちるんですよ。あの船は船底がほぼ平らなので、たたかれるとプラスチックなので、ひび割れしていく」
また、船の浸水を防ぐ設備が作動していなかったのでは、という疑問も。
「前側に亀裂があったくらいで、オートビルジがあればそんなに簡単には沈まないので」
去年、知床遊覧船の船長募集の求人に応募した男性は、面接の際、当時の従業員から「KAZU Ⅰ」は、船底に溜まった海水を外に排出する「ビルジポンプの電源を切っている」ことを聞いていました。
知床遊覧船などが加盟していた「知床小型観光船協議会」も、今回の事故を受けてビルジポンプなどの装備を義務化するなど、その必要性を重要視しています。
2つ目に考えられる原因は、高波が船を襲ったことによる沈没です。「KAZU Ⅰ」の修理をかつて行ったことのある業者は、高波が原因で船内に水が入ったのではないかと指摘します。
船を修理した業者
「船体に多少傷があって水が漏れていても、航行していてそこから裂けるなんていうのはまず考えられない。船首の低い船だから、前から沈んだということは船首がどんどん水をかぶって沈んでいったと思う」
原因について様々な指摘がある中、HBCは1つの可能性を示す文書を入手しました。
これは、HBCが入手した「KAZU Ⅰ」の、去年までの「船舶検査証書」です。この検査証書には、船を安定させる重しである「バラスト=砂袋1.5トンの移動を禁止する」という運航条件が記されています。
ところが…。
「豊田船長は操縦しづらいと言って、重しの砂袋を降ろして運航していた」
去年8月30日の「KAZU Ⅰ」の業務日誌です。この書類にも、「カズⅠ(ワン)砂袋撤去」と記載されていました。
豊田船長を知る男性は、重しを積まなかったことで船体のバランスが崩れ、操縦が困難になり、浸水に繋がった可能性があると指摘しました。
証言から浮かび上がる様々な可能性。海上保安庁は今後、船体を引き揚げ、未だ解明されていない沈没の原因について調べを進める方針です。