正確に言うと、目の前と、頭の中が黒い靄の中にあって、私は私の体をコントロールしたり、外の世界に触れることができない。
今キーボードを打っているのも、気づいたら文字が打たれている。
どうやって打ったのか、誰の考えなのか思い出せない。
黒い靄がそこにあるだけである。
なんならむしろ行動的な方で、
2週間に1度は習い事に行くし、
就活の時は毎日ぎっしりセミナーの予定を入れて、夜遅くまで活動していた。
みんなの前に立って、言うべき時は強く言ったし、飲み会では人一倍はしゃいだ。
でも、思い返せない。
それは私じゃない。誰かの記憶。
何かを思い出そうとすると、頭の中にある黒い靄の塊と、思考の文字の塊が邪魔でよく見えない。
黒い靄の外で、近くにある手と足が動いて、声が聞こえて、映像が流れる。
鏡を見ても、それは「私」だけど、私じゃない。
感覚が無い。
今自分の手を自分で触れても、ただ目の前で手と手が触れる映像として流れるだけ。
つねると痛いけど、それが目の前の映像と結びつかない。
気付いたら全て終わっている。
黒い靄がかかった日のことは覚えている。
受験を考え出してすぐ、
その大学になんだかすごく行きたくなって、
早起きすごい苦手だけど、5:30から23:30までびっちり勉強した。
親はすごく心配した。
私にはレベルが高すぎるってずっと思ってたみたい。
ところで私は絵を描くことが寝食を忘れるくらい大好きだった。
小中学生のとき少しいじめられてて、毎日死にたいと思っていたけど、
絵を描きたくて、生きていた。
思ったように描けなくて泣くほど悔しくても止めようなんて1ミリも思わなかったし、テスト前でも睡眠時間削って描いてた。
描けなくなるなら死んだ方がいいと思った。
最後の最後、我慢できなくなって勉強ノート一枚隅々まで使って絵を描いたときはほんとに気持ちよかったな。
技術的には全然だけど、やっと自分が描きたいと思う絵が描けつつあって嬉しく思ったのを覚えてる。
大学生になったら、親の目も無いし好きなだけ絵が描けると思ってた。
同人誌出したいなとか、
誰かに絵を使ってもらいたいなとか、
今思えば絵が生きがいだった。
なぜかはっきり思い出せないんだけど、
母親に、あなたが受かるわけないでしょ的なことを会話の中で言われた。
えっ、私受からないんだ、って素直にびっくりした。
そのまま試験を受けに行った。
そこだけはっきり覚えてるんだけど、
英語の長文解こうとして、読み始めて、どうしても読めなかった。
過去問で長文何回も読んだけど、まるで初めて英語を見たぐらい意味が頭に入ってこなくて。
見えてるのに見えてなくて、読んでるのに読んでなくて、何も分からない。
黒い靄がかかっているのに気付いた。
もうパニックになって、見えろ!見えろ!って心で叫んだ。
泣いてた。
黒い靄は晴れないまま、試験は終わった。
会場外で母と待ち合わせして一緒に帰った。
どうだった?って聞かれたから、全然解けなかったんだって言ったら、
「ええ~?あんなに頑張ってたのにどうして?」
って。
すごく裏切られた気がした。
受からないと思ってたんじゃないの?って
私、受かるかもしれなかったの?って、混乱した。
慌てて受けた大学に行った。
親としては十分満足な大学らしいけど、私は受かっても何も思わなかった。
気付いたら、絵が、描けなくなっていた。
とにかく手を動かしてみても全然違う。
私ではない誰かが、「絵を描くために描いた絵」って感じで、
心が全然こもってなくて、あさましくて気持ち悪くてすぐ捨てた。
今も描けない。
あれから6年、まともに絵を描いてない。
黒い靄の中で私はずっと眠っている。
どんなに強く刺激してみても、黒い靄は破れない。
今でも親は、言葉にできない怖さがある。
目の前にすると何も言えなくなるし、
さすがに黒い靄との付き合いも長くなってきて色々考えるんだけど、
もしかすると、黒い靄は私が現実を見て傷つかないように守ってくれてるのかなって思う。
大学に落ちたとか、親とか怖いことを見せないように包んでくれてるのかなって。
時々、黒い靄と私のことを深く考えると少し視界がまぶしくなって、
なんだか立っていられないほどに自分が心もとなくて怖くなる。
素直に、今まで守ってくれてありがとうって思う。
きっとその時の私じゃ耐えられなさそうなことが黒い靄の外では起きてたんだろう。
本当に死にかねなかったのかもしれない。
これからの人生は、黒い靄ごしじゃなく、私の目で世界を見たいなとか思ってる。
黒い靄からの出方はコツが掴めそうで掴めてなくて、
今この瞬間も黒い靄の中。
今日も女はクソ長文