2018-01-16

[] #47-4「嫌煙の仲」

この失敗を踏まえ、タバコについてより広く定義された。

これでタバコはなくなる……とはいかなかった。

定義されても、その度に企業わずかな隙間を抜けて新たなタバコを作り出したのだ(厳密にはタバコという名称ではなく色んな名前がつけられていたが、みんな普通にタバコと呼んでいた)。

そうすると自治体は新たにタバコ定義を加えたり変えたりする。

企業企業でその度に新たにタバコを作り直すというイタチごっこがしばらく続いた。

最終的に自治体企業のもの圧力をかけることで、この流れは沈静化する。

だが、この頃になると世論の流れが大きく変わりつつあった。

こういったタバコの中には、他人に害を与えないものも多くあった。

それらまで禁止にすることに疑問を抱く人たちが、非喫煙者からも多く出てきたのだ。

そもそもタバコを吸わない人たちが禁煙法に賛成していたのは、副流煙による健康被害や紙巻きタバコ特有のキツい匂い理由としていたのが大半である

吸わない大衆にとっての分かりやす理由がない以上、全面禁止を訴える声も必然小さくなるのだ。


そして取り締まり問題もあった。

ちょっとそこのあなた、それタバコじゃないの?」

「いや、タバコじゃない」

「けど、その筒はパイプのように見えるけど」

「これはパイプじゃなくてポエプ。煙はフィルターによって有害でもないし、無臭から匂いもつかない」

「え?……だったらいいのかな……あ! そっちのあなたは違うでしょ」

「いや、これ単に寒いから白い息が出てるだけ」

度々起きたタバコの再定義に組員が対応しきれず、ロクに取り締まれなかったのだ。

そして、この頃になると喫煙行為は、歩行者信号無視くらいに有名無実化していた。

自作で“タバコっぽいもの”を密かに楽しむ人が増え、時にはそれを売り叩こうとする者までいたのだ。

当然、そんなことが裏で起きているのを苦々しく思っている人も多い。

その中でも特に眉をひそめていた層は自治体……ではなく元タバコ組合だ。

そもそもタバコ販売は、地域で競合が起きないよう組合で決まり存在していた。

それが禁煙法で丸ごとなくなったのをいいことに私腹を肥やす人間に対し、元組合の者たちは不満を募らせていた。

そうして元タバコ組合は一念発起し、秘密裏再結成される。

「サクリム組合」の誕生だ。

市場に出回る粗悪品は排除し、よく出来たタバコを作っていた者は組織に引き込んだ。

当然、「サクリム組合」の統制を快く思わないタバコ販売人も多かった。

そういった者達で立ち上げたのが「シューリンガン互助会」だ。

こちらは烏合の衆過激派であり、黒い噂が絶えない。

このため「サクリム同盟」とはしばしば小競り合いが発生し、そこに自警団が介入した日には収拾がつかないことも珍しくなかった。

結果として、禁煙法をきっかけに治安まで悪くなってしまったのだ。


そしてその二つの組織の争いは、いよいよ大規模なものへと発展しつつあった。

俺たちはマスターの店から遠巻きに、その様子を眺めていた。

社会を回すためにルールがあるのに、そのルールのせいで乱れるなんて皮肉なこともあるよな。有害もの禁止にするという点では、決して悪法というわけでもないのに」

マスターたちは談笑していたものの、俺は心のうちに焦燥感を抱えていた。

こうして今の状態を静観しているのは危険だと思ったのだ。

ハトタカの争いも、鳥に関心のない人間からすれば同じ動物同士の戦いでしかない。

あの二つの組織の争いが激化し、表面化すれば事態は更に悪化することだろう。

マフィアの抗争じみたことが起きて、一般社会にまで波紋が広がる可能性がある。

「何とかして止められないものでしょうか」

「それは構わないが、あの二つの組織をどうこうしても根本的な解決にはならないだろう。その場しのぎにしかならない」

もっと別のアプローチ必要ですな」

「それって、つまり……」

禁煙撤廃とか、だね」

かに禁煙法がなくなれば、以前のようにタバコ組合が公に活動できるから統制しやすくなる。

だが、禁煙法を撤廃するなんて可能なのだろうか。

禁煙法に相応の理由がある以上、撤廃することにも相応の理由がなければ政府は動かないと思うのだが。

事態を収拾するという名目だけでは弱い気がする。

「ま、ちょうどいいタイミングだろうな」

タケモトさんたちはゆっくりと立ち上がった。

その動きには焦りも迷いもない。

何らかの打算があるのだろうか。

(#47-5へ続く)
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