去年2017年、個人的に一番衝撃を受けたのは"VR Chat”という、VR空間内で3Dモデルアバターになり、他の人と交流ができるソーシャルVRアプリケーションです。これは本当に素晴らしく、じぶんの身体というものに対する考え方が変わるくらいの体験ができます。間違いなく2018年の台風の目になるような気がしています。
VRChatで体験することができる興味深い身体現象の一つとして、「身体同一性キャリブレーション」とでも言うべき行動/感覚があります(ちなみにこの言葉自体は今テキトーに作ったのでググって頂いても1件もヒットしません)。VRChatにログインすると、ユーザは突然何の説明もなく天空の城っぽいところに放り出されます。スポーン地点の近くには大きな鏡があって、自然と鏡の前にユーザが惹かれていくようなUX設計になっているのですが、ここでユーザは鏡に映った3Dモデルが自分であると認識します。この時の感覚が非常に面白いです。「明らかに自分と違うものが鏡に映っているんだけれども、自分の身体の動きとあまりにも連動しているので、なるほどこれが自分なんだななるほどなるほど」という、違和感を解消する一連のプロセスがあるのです。腕を色々振ってみたり頭をまわしてみたりしながら、自分の神経感覚を3Dのアバターと同期させるような感覚です。ケータイを落とした時に「痛!」と感じる & 言ってしまうような感じに近いです。自分ではないものなんだけれどもなんか自分の身体のような気がしてくる感じです。
そしてこの作業、VRChatの感覚に慣れてレベルアップしてくると、ただの自己位置推定的な物理的キャリブレーションという機能だけではなく、社会的な見え方に関する自分の認識の調整機能もあるということがわかってきます。VRChatでは宇宙人から初音ミクまで、古今東西老若男女問わずあらゆるキャラクターになれるのですが、おもしろいことに、自分のアバターの設定を変えた後に(=自分のすがたかたちを変えた後に)、鏡の前に猛烈に行きたくなるという生理現象が発生します。これはなぜ発生するのか考えていたのですが、「今、自分は相手からどういう風に見えているのだろう」というイメージがないと人間は不安になってしまうからなのだと思います。社会的な動物ということですね。なので、VRChat内は鏡だらけです、色んなところに鏡が置いてあります。
また、「3dモデルを人として尊重する」ということも学べます。VRchatにきて初めて「向こう側に実際の人がいる3dモデル」と対峙するという経験をするわけです。ただのオンラインゲームのように、人がリモコンで操っている3Dモデルではありません。VRChat内で出会うアバターたちはみんな先ほど言ったようなキャリブレーションを終えて、神経がある種入り込んでいるアバターたちなわけです。3Dモデルの右手は実際の人間の右手なわけです。生まれて初めて3Dモデルに対して礼儀正しく振る舞いました。また、人として尊重する精神があるからこそ、VRチャット内で目を合わせる、手をふる、握手をする、頭を撫でる等に意味が生まれるわけです。
また、使っているうちに3Dモデルアバター社会にも慣れて、イケているアバターとイケていないアバターという感覚がついてきます。面白いのは3dモデル単体がイケているアバターが必ずしもVR Chat内でイケているわけではないところです。Unityちゃんなんかは見た目もよいですし、ダイナミックボーンの設定等も手が込んでいるように見えますが、あまりに数が多いのであんまりイケている感じがしないです。身体はある種のユニークネスがないとやはりダメなんだと思います。
自身の見栄えが制約なく自由に制御できる世の中になったら、現実世界でのファッションもおそらくこんな感じになるんじゃねえかなという感じがあります。一つ面白いなと思ったのは、身体が発光するキャラクターが割と目につくということです。UnityのモデルではEmissionの設定一つで簡単に光らせることができるということなのかもしれないですが、ある種の欲求が現れているように見えます。将来的に現実世界でも、医学や服飾技術が発達したら人は身体や服を光らせ始めるのではないでしょうか。まあ現に最近のバイオハッカーたちの流行りは手にLEDを埋め込んで光らせることらしいので、もう始まっているとも言えるかもしれませんが・・・
ご参考: The Latest Trend Among Biohackers Is Implanting LED Lights Beneath Your Skin
https://gizmodo.com/the-latest-trend-among-biohackers-is-implanting-led-lig-1741697381
(余談ですが、既製の3Dモデルだと現実世界の自分のボーンの位置と3Dモデルのボーンの位置は完全に一体化しないので、そこまで含めたオーダーメイドの3Dモデル製作をするというのも面白そうだなと思いました。そういう意味でもゾゾスーツはVR社会においても重宝されるかもしれません。)
VRChatの衝撃についてうだうだと色々書いてしまいましたが、やっぱり何より熱気が凄いです。これこそがインターネットだという感じがあります。ぜひ体験してみてください。