2021-01-10

大木隆生氏の「大木提言(ver3)」に誰も反論してない問題

私は新型コロナについての情報を見るにあたっては、

のどれかでなければ話半分未満で聞くようにしている。

数日前に見つけた大木隆生氏の「大木提言(ver3)」は、その基準からすれば傾聴に値しそうだ。

https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=3859177164173859&id=100002448400114

https://jikeisurgery.jp/wp-content/uploads/2021/01/COVID-19ver.3.pdf

(どちらのリンクも同内容)

大木隆生氏は、慈恵医大外科統括責任者・対コロナ院長特別補佐。ベストドクター in NYhttps://nymag.com/bestdoctors/ これ?)に4年連続で選出されているらしい。専門は感染症ではないけど、十分な実績と信任を持つ現場の人と言っていいだろう。

大木提言Facebookでは現時点で2000件以上シェアされており、Twitterでも検索すると多くの人が反応している。反応は「私の実感と一致します!勇気が出ました!」「コロナ脳に読ませたい」と異口同音に絶賛だ。医療関係者も「理路整然とした重要意見。さすが大木先生」といった口調で褒めそやしている。

でも僭越ながら、私はこの提言には論拠の弱さ・論理の飛躍を多く感じた。なのにそういう反対意見SNS上には見当たらなかったので不安になっている。誰もやらないなら私がツッコみます。というわけで慣れない増田を書いてますよろしく

大木提言かいつまめば「1. 感染者数が増えても実害はない」「2. 医療崩壊は起こらない」よって緊急事態宣言意味がないので基本的感染対策のみを行いながら経済を回せ、と言っている。この1,2について私の違和感を述べます

1. 感染者数が増えても実害はない

何故そういえるのかというと、要は欧米と違って日本人にとってはコロナは死亡に繋がらず怖くないからだそうだ。ファクターXってやつですね。それがあるので、欧米経験政策WHO見解日本の参考にはならないとのこと。

新型コロナ欧米においては恐ろしい感染症であるが、様々な理由から日本人にとっては季節性インフルエンザ程度の病気位置づけられる。

それは日本での人口当たりの感染者数も死者数も欧米の約50~100分の一である事やオーバーシュートが一度も起こらなかった事など、過去1年間の経験データをみれば明白。

明白…? そのファクターXが何なのか、そもそもそんなもの存在するのかすら、結論って得られてたんでしたっけ?

大木氏が曖昧に言っている「様々な理由」つまりファクターXの内訳とは具体的には何なのか。調べてみると、2020/5版の提言記述が見つかった。

http://www.japanendovascular.com/covid-19_proposal_Ohki.pdf (P10-11)

この時点では大木氏は、日本人コロナに強い理由の仮説として

BCG接種

②2020/1-2にステルスオーバーシュートが起こり集団免疫が獲得された

を挙げている。

しかし①はこれまでの研究から棄却されているし(と思ってるけど違ったらごめん)、②は第2波・第3波の到来の事実を踏まえると非常に疑わしい。8ヶ月経って情報は大きく増えたが、他に「明白」といえるような根拠が見つかったのだろうか? 私はそういう根拠を知らないし、少なくとも「明白」の一言で済まされるような簡単ものじゃないと思う。そして、日本人特別だという根拠が薄弱なのであれば、世界各国の現状・対策からの学びをあえて捨て去るのはリスキーすぎだと思うんだけど、ベストドクター的には違うんだろうか?

ちなみに大木氏、

上記裏付け事実として日本における2020年の死因別ランキング示唆である2019年の死因ランキング2020年の新型コロナによる死亡者数を挿入すると、新型コロナは第36位(11月末時点)。一方、季節性インフルエンザ2019年31位(図2)。さらに、同様の手法世界米国の死亡原因ランキング作成するといずれも新型コロナは死因第3位にランクインしており、日本人いかに新型コロナ抵抗性を有しているか如実に物語っている(文献4,5)

と言ってるんだけど、

の死者数比較根拠にするのはガバすぎでは…!? さすがにこれは読んだ人の半分くらいはツッコめる部分だと思うんだけど、この感覚おかし!?

2. 医療崩壊は起こらない

要は「欧米英国米国)でも医療崩壊は起きていない。それより数十分の一の規模の日本医療崩壊なんてありえない」という話をしている。

でも「欧米医療崩壊が起こっていない」というのは事実として正しいのか?

医療崩壊の定義は当該診療科医師疲弊しているか否か、すべての患者タイムリー病院受診できるか否かではなく、救える命が救えなくなったか否か

大木氏は書いているので、その定義では少なくとも欧米については医療崩壊は「起きている」という結論になりそうなものだけど。

たとえば各国の状況を検証しているTwitterのツリーこちら。

https://twitter.com/mph_for_doctors/status/1347047822034685952

まあ欧米の状況は置いといて、日本医療崩壊が起きているか?を問われたら、これは正直なところ私にはわからない。毎日医療崩壊のニュースが飛び込んできてるので感覚的にはヤバいと思ってるけど、実際は声の大きい現場の声ばかり聞いてて認識が狂ってるのかもしれないね数字で語れるのは先の話なので保留したい。

大木氏によると、医療リソースを余計に食い潰している原因は第二類感染症指定であり、それを五類に変えると改善するそうだ。これについてもそうかもしれないし、そうでないかもしれない。対立意見としては、高山義浩氏の「自治体によって柔軟に対応カスタマイズできるので2類相当でも問題ない」という話がある。

https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=3509866199066862&id=100001305489071

どちらにせよ門外漢なので、慈恵医大の対コロナ院長特別補佐に「医療崩壊は起こってない」と言われたら「ああそうなんですね」と黙るしかないんだけど…でもそもそも論点が違うと思うんだよな。コロナ対策における医療崩壊の危険性について論じるべき点は「現状リソースが足りているか」じゃなく「いずれ感染が広がったときリソースを維持できるか」ではないんでしょうか?

新型コロナ感染者数は指数関数的に増大する。しか医療リソースはそうではない。だから実効再生産数を1未満に抑えないかぎりいずれリソース破綻する。そして重症者・死亡者は3週間の遅行指標であり、その数字が出た時点ではもう手遅れになっている。

新型コロナとの戦いはそういう戦いだというのがすべての前提だと思ってるので、その観点に触れずに大丈夫と言われても全然納得できない。3週間後に何がきっかけで爆発してるかわからない以上、予兆が見えた時点で厳しい対策必要だと思ってるし、大木提言はそこには何も答えられてないと私は思う。

(なお緊急事態宣言が「厳しい対策」として機能するかは別の問題です)

最後

私が一番問題だと思ってるのは、こういう非賛同者の反論ネットじゅう探しても全然見当たらないということ。

「ヤバすぎ派」「騒ぎすぎ派」の対立みたいな記事が先日話題になったけど、もしかしてこの大木提言も「騒ぎすぎ派」が支持して内々で話題にしてるだけで、「ヤバすぎ派」にはガン無視されており視野にも入っていないんじゃないか。実際ブクマ全然ついてないし。

「ヤバすぎ派」「騒ぎすぎ派」の分断の問題は、それぞれの議論の前提自体が異なっていることだ。お互いの前提を共有して「この点は共有できるよね」「ここが意見の分かれ目だね」と止揚できればいいんだけど、お互いに殻にこもってしまうから議論が深まらない。結果、「コロナ脳」「正常性バイアス」とお互いを揶揄することしかできない。それは健全じゃないと思う。私はみんなが共通認識を持てる議論の土台をなるべく増やしたいし、そのためにはオピニオンリーダーには闊達議論してほしい。

宮沢孝幸とか中野貴志みたいな明らかに専門外の連中ならただ単純に無視すればいいんだけど、大木提言はそれとは質が違う。何も情報がない状態で「この増田大木先生をどっちを信用するか」と言われたら、私だったら実績ある大木先生を信用しちゃうよ。だからもっとちゃんとした専門家大木提言への反応をしてほしいと強く思う。

  • >信頼できるソースでなければ話半分未満で聞くようにしている。 これは非常に重要だと思うけど出来る人はとても少ない。というか出来る人はネットで意見を言わない。 一面的な情...

    • 元増田ですけど、そういうのはまだ、「信じるならちゃんとした専門家にしようね」と権威で押さえ込めるからまだいいんだよ でも、「こっちの専門家はこう言ってる」と言われたとき...

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