「おもしろいミステリとは何か」を語るなら、まず「ミステリとは何か」を定義する必要がある。私は以下のように定義をしている。
「倒叙ミステリ」のように犯人側が殺人を犯す心理を描いていく作品もあるのだが、本エントリではとりあえず上記の定義を厳密に適用し、倒叙ものはミステリではないとする。また東野圭吾『容疑者Xの献身』のように、犯人側と探偵側の視点が入り混じり、その構造自体が読者へのサプライズになるような高等テクニックを用いた小説もあるのだが、こういうものも一旦ミステリではないとする(古いミステリファンならご存知だろうが、実際に『容疑者Xの献身』が本格ミステリなのか否かで、大議論が起きましたな)。
ミステリとは〈謎を追う構造を持つ物語〉である。その謎には、大きく分けて二種類がある。〈人間の謎〉と〈トリックの謎〉だ。
ブコメでも出ているが北村薫の「私」シリーズは典型的な前者で、日常の中で発生する何らかの謎を解いていくと、その謎に関わった人間のドラマに突き当たるという構造を持つ(ざっくりと説明しているので、多くの例外を切り落としている)。ストーリーにミステリの構造が使われていて、サプライズも用意されているものの、最終的には人間ドラマを描くことが主眼の小説と考えていい。
翻って「トリックの謎」というのはいわゆる〈本格ミステリ〉と呼ばれるジャンルで、絶対に不可能な方法で殺人などが行われ、犯行に使われたトリック自体の面白さで読ませるものと考えればよい。綾辻行人『十角館の殺人』はもろにこちらに当てはまり、実際にトリック自体が斬新で衝撃があったため、名作としていまに至るまで読みつがれている。
ミステリを巡ってしばしば問題になるのが〈人間が描けていない〉という件だ。平たく言うと、トリック小説は人間ドラマとの相性が悪いのだ。人を殺すならば夜道で後ろから刺せばいいだけで、わざわざ密室を作ってその中に閉じ込めたり、アリバイトリックを仕掛けて警察を欺いたり、クローズドサークルの中で大量殺人にチャレンジしたりなど、コスパの悪い行動を取る必要はない(実際に、現実世界に本格ミステリのような事件は存在しない)。トリック小説としての面白さを作り込めば作り込むほど「こんなことをする人間がいるわけないやん」という問題が浮かび上がり、リアルな人間ドラマからは遠ざかる。これは構造的に仕方のない問題であり、謎解きミステリが文学賞レースで弱い理由もここにある。
増田は〈トリックの謎〉に特化したミステリに対し〈キャラクター描写やストーリーを偏重〉する読みかたをしており、こう読まれるといかに名作といえどつらいものがある。アダルトビデオを見て「ストーリーがめちゃくちゃじゃないか」と言っているようなもので、〈トリックの謎〉系の小説を読む際はモードを変えなければならない(とはいえ『十角館の殺人』が小説として稚拙すぎるというのは私も同意するところで、いかにトリックが斬新であろうともこんなもん評価できるかという増田の主張は、理解できる面もある)。
まとめると、ミステリには二つのタイプがあり、それぞれ別の軸で評価しなければならないということだ。〈人間の謎〉を描くタイプのミステリでは、ミステリとしての驚き + 最終的に描かれる人間ドラマの深度が評価ポイントとなり、〈トリックの謎〉を描くタイプのミステリでは、ミステリとしての驚き + トリックの面白さが評価ポイントとなる。「面白いミステリ」とは、その作品が属するジャンルで高いポイントを得たものといえるだろう。両者をごちゃまぜにして測るべきでない物差しで測ってしまうと、価値を見誤る。
『殺戮に至る病』は読んだのが昔なので覚えていないのだが、構造的にはサイコ・サスペンス + ラストに驚きがあるという作品だったと思うので、ここではミステリとしては扱わない。
上述の通り。
〈キャラクター描写やストーリーを偏重〉するのであれば、〈人間の謎〉を主眼に置いた作品を読むのがよいかと思う。とはいえ『十角館の殺人』以降、綾辻行人はぐんぐん小説が上手くなった人なので、例えば代表作『時計館の殺人』なんかだと、あくまでトリック小説ではあるのだが、小説としてのエグみは『十角館』よりもだいぶマイルドになっており増田も楽しめるかもしれない。
米澤穂信はミステリの構造を使いつつ、それを深みのある人間ドラマと融合させていくことに長年取り組んでいる人で、『王とサーカス』は代表作のひとつでもある。2001年のカトマンズで起きたとある政変がテーマとなっているが、殺人事件の謎を主人公の女性記者が追っていくにつれ、〈報じるとはなにか〉という現代的なテーマが浮き彫りになる。磨き上げられた体温の低い文体も素晴らしく、読んでいる最中カトマンズの街を旅している気分になる。
〈人間の謎〉と〈トリックの謎〉は相反するというようなことを書いてきたが、それをムリクリ融合する試みも過去何度も行われており、島田荘司はそれを最高レベルで達成した作家のひとりである。『奇想、天を動かす』では作中で大トリックが使われているものの単なるトリック小説ではなく、読むにつれ戦後日本という巨大なテーマが立ち上がってくる。
連城三紀彦は〈人間の謎〉を描くことに主眼を置くタイプのミステリ作家で、吉行淳之介を思わせる優れた文体をもっているのだが、そういった文芸調の作品にやけにハイコンテクストで作り込んだミステリの様式を持ち込むあたりがユニークな作家である。『宵待草夜情』はいずれも重厚な人間ドラマが描かれつつ、そこに作り込まれたミステリの要素が投入されていて大変面白い。最高傑作と呼ばれる「花虐の賦」も収録されている。
「十角館の殺人は人間を描けていない」 を令和にもなって見るの面白いな。 そのうち言われなくなるかと思ったらむしろ年を経るほどにレビューにおいて言われる確率が高まってるよう...
十角館はあの箱庭感が好きだった
未知のパズルが当初はあまり明らかにされずある程度のもっともらしさを持ちながら展開するのは面白いか あるあるに即していれば面白く感じる人も多いだろうな
なんとなく思ったがミステリとSFって似てるなって トリックとか謎重視って、うんちく重視でキャラストーリーガン無視のSFと同じ
イマサラカヨ
https://anond.hatelabo.jp/20230725215629 これ書いてる増田はミステリ全然読まないのね。で、知人から「まずは『十角館の殺人』とか『殺戮に至る病』読め」って言われて読んだのよ。 正直言う...
そのあたりは「新本格」っていう、キャラがペラッペラでもストーリーが退屈でもミステリーの部分(トリックやロジック)が面白ければエライ、みたいなジャンルだと思う
十角館の殺人ってまさしく元増田の「狭い人間関係がキレイにパズルのピースとしてハマることが全ての、本当の人間関係の複雑さに耐えられんコミュ障共に都合のいい世界を望みすぎ...
このミステリーがすごい! のような特集が入ったものを読めばよろしいのではないでしょうか。
そうなんだ。すごいすごい。さすがだね。
こいつに「すべてがFになる」シリーズとかよませたらどういう評価なんだろ
今アレを読んで「ふーん。昔の人ってあの程度のスペックで『すべてをFにできる』とか思ってたんすね。どんだけ解像度の低いデジタル感なんだろうって鼻で笑っちゃいますね」となら...
おもしろいなんて主観でしかねーんだから聞くだけ無駄。 喫煙所に入ってきてタバコって何がうまいの?って煽る嫌煙者みたいなこと今すぐやめろ
ヴァン・ダインです
謎解き 複雑なトリックを解いたときのパズル的な達成感、なぜその人がそんなことをするのか知りたいという知的好奇心、まさかそんなことまでやってくるとはという「驚き」そのもの...
https://anond.hatelabo.jp/20230725231257 その2つは有名かつ王道だから初心者に薦めやすいんだと思う。古臭いのもめちゃくちゃ同意する、ちょっと昔のミステリはノリがキツいとこある。そして...
ミステリはパズル。 物語や登場人物はパズルを成立させる舞台装置として機能してりゃいいんだという方向に振り切ったのが新本格というジャンルなの。 十角館のキャラクターの描写が...
ミステリをこよなく愛しつつもその本質がミステリ気質ではなかった 大乱歩に見いだされし枠外にして正統後継弟子 山田風太郎「妖異金瓶梅」 読もう 金瓶梅全然知らないけど問題ない ...
そもそも、特定の固定探偵キャラが出てくるミステリって 本質が「ラノベ」なわけよ (わい増田提唱 ※ここでのラノベの定義てのはキャラクターの魅力を描くのを最上位に重視してい...
元増田の要求に高尚さは含まれてなくね? むしろそういうラノベ的なものを求めてるっしょ。
「キャラクター描写やストーリーを偏重」なら京極堂シリーズはどうかね。 近代が舞台だから、古臭さも関係ないし。
じゃあ、魍魎の匣と、カササギ事件を読もうか
https://anond.hatelabo.jp/20230725231257 まず、日本語の「ミステリ」というのは挑戦状という意味なんですよね実質的に。 推理小説・ミステリー小説といった表現を使う場合は、「ミステリ」...
星新一のほうがよっぽどミステリーじゃんって思った。
その意見は正しいと思う。 普段ミステリを読まない人に十角館を勧める奴が悪い。 今はもっと面白いミステリがたくさんあるからそっちを勧めるべき。 『面白いミステリが出てくる流...
ワイは小説読まんけど虚構推理って漫画が面白かったやで By 増田♂41歳の春だから(´・ω・`)
まあ、どのくらいの数のよねぽオタがそういう彼女をゲットできるかは別にして、 「オタではまったくないんだが、しかし自分のオタ趣味を肯定的に黙認してくれて、その上で全く知ら...
バカ野郎にわかに進めるなら賞っていう権威があってそれなら・・・と手に取ってもらいやすい満願一択だろ
「インシテミルは一度も映像化されてない」はつまり「封神演義は一度もアニメ化されてない」と同義か
パズルが巧妙じゃなきゃミステリじゃない、とかいうつもりはないんだけど 個人的には「飛行機乗ってました」は受け入れがたい ジャンルを分けるのが一番いい気がする