昨日はやけに混む日だった。小雨が降っていたので、あまり混まないんじゃないかなと思ったら、そうでもなかった。
何故かカフェマシンの部品が一部新品になっていた。それで、マシン掃除の時にテンションが上がった。新しい部品はツヤツヤで、洗うと水をぷるぷる弾く。歯車の回転がめっちゃスムーズ。感動のあまりに、Aさんに見て見てー! する。
マシン掃除中に限って、カフェラテを飲みたいお客様が複数来店。しかもどうしても飲みたいので掃除が終わるまで待つという。部品洗いは終わったので、あとは組み立てるだけだから五分とかからない。というタイミングでぞろぞろと来客多数なんて事がよくあるので、「あと何分で掃除終わります?」と聞かれても、「申し訳ございません。まだ当分かかります」と答えざるを得ない。
Aさんが、
「さっきのお客さん。俺はあの人に毎回カフェラテを売るのを断ってる気がします」
と言った。そのお客様も是が非でも今カフェラテが飲みたい! というお客様で、「掃除いつ終わりますか?」と聞いて来た。カフェマシンの掃除は大体いつも同じ時間にしているので、そのお客様はいつも掃除の時間帯に来店しているという事になる。もう諦めて他の店舗に行かれては?
親と子供を連れてメルカリの発送に来たお客様がいた。そのお客様はメルカリのシステムをよく知らないで使っているらしい。二つ持って来た荷物のうち、ひとつは苦労の末、受付用のバーコードを出して発送手続きを完了したが、もう1つの荷物のバーコードの出し方がわからないという。
「何してんの、早く(荷物を)出して来なよ」
とお客様の親が言い、お客様が「うるさいっ!!」と獣がうなるような声で言った。人前で始まる親子喧嘩に、私びっくり。その間にお客様の子供がふらふらと店内を徘徊し始めたことで、お客様がまた怒り出した。そんなお客様にお客様の親がねちねちと文句を言い続ける。
「うるさいっ!! 後ろに沢山(他の客が)並んじゃったの見えないの!? 後で出すから、並び直してっ!!」
お客様は怒鳴り散らすと、奥の昔イートインだったテーブルを借りるといってレジから離れていった。他のお客様達の会計に追われている最中、メルカリのバーコードを出せなかったお客様が親と口論する合間に子供に当たり散らしている声がこっちまで聞こえてきた。
正直、対応すんの面倒臭い……と思っていたところ、メルカリのバーコードを出せないお客様は、今度はAさんのレジに行った。Aさんが時間をかけてお客様になにやら説明していた。そのお客様が帰った後、Aさんにさっきは何の説明をしていたの? と聞いたら、「メルカリで着払いにすると面倒臭いという話しです」
という。Aさんによれば、メルカリで商品を発送する際に送料を自分持ちにすると、送料は自分の売上から自動的に引かれるシステムになっているとのこと。それで、スマホで荷物のバーコードを出してレジでそれをスキャンしてもらえば、それだけで発送手続きが済むという楽ができる。だが、着払いではバーコードでの発送の受付ができなくて、自分で伝票に送り先を書いて出さなきゃいけないらしい。へぇー、勉強になるー。私はメルカリを全くやらないので知らなかった。
メルカリの事はお客様は事前にやり方を自分で確認し、荷物を受け付けるコンビニ側は受付だけしかしないというお約束になっているのだが、コンビニ店員任せにしてもいいと思っている人は、けっこう多い。
2歳になるかならないかの幼児を連れた男性客が来店。そのお客様は、買い物の最中に子供の事はほとんど放置していた。店員としては、いつ坊やが店外に走り出して行ってしまうのではないかと、気が気ではない。レジの所に立っていて、いざって時に外へ飛び出す幼児を捕まえに出るのは不可能に近いが、本当にそんな事が起きたらなりふり構わずレジの台を乗り越えて走るしかない……。あ、でも、二人で仕事してるんだから、Aさんにレジを任せて私はフロアでフェイスアップしてるフリをして坊やの監視をしてればいいのか。そっかそっか。
坊やが商品棚の陰に行っちゃって姿が見えなくなっても、お客様は全然気にも止めない。たまにふと気づいて、大声で坊やの名前を呼ぶが、坊やは走り回っていて戻って来ない。それでお客様は苛立った様子で坊やを探しに行く。坊やは追いかけっこが始まったとばかりにキャッキャと声を上げていっそう走る。お客様はもっと怒る。坊やが一人で冷蔵庫を開けて飲み物を持って来る。お客様は怒りつつも、「元の所にないないして!」と言っても坊やが言うことを聞かないので折れて、それも買う事にする。すると坊やはまた走って行ってお菓子を持って戻ってくる。
お会計の最中に、坊やが突然駆け出して自動ドアを出て行こうとした。あっ、ヤバい! と思ったが、坊やはドアの所で立ち止まり、
「パッパ、きゅっきゅーちゃ! きゅっきゅーちゃよ!」
と言って、店の前の道路を走っていく救急車のサイレンに耳を傾けていた。よかった、救急車の後を追っていかなくて。
その親子が帰った後、Aさんが呆れた様子で、
「ずいぶん粘ってましたね、○○くん」
と言った。○○くんとはさっきの坊やの名前だ。父親が何度も「○○!」と名を呼ぶので、覚えてしまったのだ。
子供のいないAさんには、幼児の行動が一々珍しく驚くべきものであるらしく、あんなに活発に動き回るのを発達障害かなんかではないか? という。Aさんが子供について疑問に思う事に、私が答える。
Q.冷蔵庫のドアを一人で開けていたけど、そんな怪力な子供は普通ではないのでは?
A.基本的に子供は非力だが、加減をするという事を知らず常に全力なので、思わぬ馬鹿力を発揮することがある。大人は「どうせ子供には開けられない」と油断してはいけない。
A.発達障害かどうかはわからないが、さっきの場合は子供が言う事を聞かないのも無理はない。遠くで言われるだけでは、子供は自分に言われていると思っていないか、言われているのは分かっていても、親がマジで怒っているとは思っていない。言う事を聞かせたいなら子供の視界に入って言う必要がある。
Q.親を折れさせて色々買わせていた、あの子は特別小賢しいタイプなのか?
A.そんな事はない。ちょっと粘ったら親が買ってくれたという成功体験をすることで、子供は学習していく。だから、親は簡単に折れてはいけない。というか、子供連れで買い物をするにも訓練がいる。ぶっつけ本番のように買い物に連れ出すと、子供に振り回されてしまう。来たことのない珍しい場所に、子供のテンションが上がってしまうからだ。お菓子やおもちゃがあるとなればなおさら興奮する。そうなると親の言葉など耳に入らなくなってしまう。赤ちゃんの頃から毎日子供を同じ店に買い物に連れて行って、親のペースで買い物をする事を覚えさせるのがよい。
「子供をしつけるのって、犬とかイルカとかを調教するのと同じようなとこありますよ」
って言ったら、Aさんは、
「犬って……」
とドン引きしていた。