2020-01-02

[] #82-3「ノンフィクションWWW

≪ 前


法律ギリギリの苛酷な労働環境杜撰なスケージュル管理などを赤裸々に書いた暴露本は物議を醸しました。

田尾:以前から意識にズレは感じていました。『Mの活劇』は皆で作りあげるものなのに。

菜華役の田尾さんは、暴露本を書いた経緯をそう語りました。

田尾:現場で働くスタッフたちの苦悩を、世間の皆様に知って欲しくて書いたんです。

この出来事に対して、共演者たちは意外にも冷静でした。

津久田:(彼女暴露本を出したことについて)驚きはしませんでしたね。同級生だし、長いこと一緒に仕事をしてる仲でもありますから

増林:あの子はそういうので承認欲求を満たしたり、お金を稼ぎたがるタイプ普段から不満が漏れ出てた。

影田:ちょくちょく講習会なんか開いちゃったり、ニュース番組コメンテーターとして出演したり、「とうとう、そっちに行っちゃうんだ」っていう。

『Mの活劇』チームと、撮影現場雰囲気は良くも悪くも変わりませんでした。

AD現場空気を悪くしてた常習犯彼女(田尾さん)でした。部屋が乾燥してるだとか、ケータリングが気に入らないだとか。テイク数が増えると、露骨に態度に出てくる気難しい人でした。

プロデューサー:本の内容自体、上手く誤魔化してはいるけど極めて恣意的で、要はただの愚痴です。そういう自覚が多少あるからこそ、一般大衆を味方にしようと考えたのでしょう。

ディレクター彼女は某所で意識の高いことをよく言っていますが、本を書いたきっかけは出番が少ないことと、ギャラが減ったことへの当てつけでしょう。そもそも端役だから出番が少ないのは当たり前だし、ギャラが少ないのは彼女が演じるキャラクターの関連商品が売れないからです。

津久田:あの本も、八割がたゴーストライターが書いてるだろうね。あの子学校読書感想文いつも最低評価だったから。


「よし、そろそろ行くか」

最後の一人が蕎麦を食べ終えるのを確認して、俺はおもむろに立ち上がった。

「えー、もう行くの? ドキュメント番組終わってからでもいいじゃん」

「こういう番組は、どうせ最後は前向きなこと言って終わりだ。後はせいぜいVTRを見た人が、それっぽいこと言うぐらいだろう」

皆が上着を着始めているのに、弟はコタツに入ったまま、ぶーたれる。

別に日の出なんて見なくていいんじゃね~?」

日の出を見ることは以前から決まっていたし、そのために俺たちは集まった。

何より、それを真っ先に提案したのは弟だ。

「早めに行かないと混むかもしれないし。どうせ日の出を見るなら、いい場所で見たいだろ?」

そうかもしれないけどさあ、なんか体が動くことを拒否してるんだよ。自分でも上手く説明できないけど、何か医学的な理由があるに違いない」

馬鹿げた主張だが、気持ちは分からなくもない。

真冬の深夜に外出する場合、多少の思い切りが必要とされる。

かいから離れ、寒空の下に身を置くのは簡単ではない。

ここに“コタツから出る”という工程が挟まれば尚更だ。

からといって、容赦するつもりはないが。

「このまま、なあなあにすればワンチャンあると思っているのかもしれないが、言いだしっぺが不参加なんて許さんぞ」

弟は体のほとんどがコタツに取り込まれており、頭以外は露出していない状態だった。

なので俺は、その露出した頭部を無造作に掴んで力を込めた。

そこに身内への慈しみは存在しない。

「ぎゃあっ」

当然、長男腕力次男が勝てるはずもない。

抵抗むなしく弟は引きずり出された。

自分意思で出ていた方が、多少マシだったろうにな」

次 ≫
記事への反応 -

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん