法律ギリギリの苛酷な労働環境、杜撰なスケージュル管理などを赤裸々に書いた暴露本は物議を醸しました。
田尾:以前から意識にズレは感じていました。『Mの活劇』は皆で作りあげるものなのに。
菜華役の田尾さんは、暴露本を書いた経緯をそう語りました。
田尾:現場で働くスタッフたちの苦悩を、世間の皆様に知って欲しくて書いたんです。
津久田:(彼女が暴露本を出したことについて)驚きはしませんでしたね。同級生だし、長いこと一緒に仕事をしてる仲でもありますから。
増林:あの子はそういうので承認欲求を満たしたり、お金を稼ぎたがるタイプ。普段から不満が漏れ出てた。
影田:ちょくちょく講習会なんか開いちゃったり、ニュース番組でコメンテーターとして出演したり、「とうとう、そっちに行っちゃうんだ」っていう。
『Mの活劇』チームと、撮影現場の雰囲気は良くも悪くも変わりませんでした。
AD:現場の空気を悪くしてた常習犯は彼女(田尾さん)でした。部屋が乾燥してるだとか、ケータリングが気に入らないだとか。テイク数が増えると、露骨に態度に出てくる気難しい人でした。
プロデューサー:本の内容自体、上手く誤魔化してはいるけど極めて恣意的で、要はただの愚痴です。そういう自覚が多少あるからこそ、一般大衆を味方にしようと考えたのでしょう。
ディレクター:彼女は某所で意識の高いことをよく言っていますが、本を書いたきっかけは出番が少ないことと、ギャラが減ったことへの当てつけでしょう。そもそも端役だから出番が少ないのは当たり前だし、ギャラが少ないのは彼女が演じるキャラクターの関連商品が売れないからです。
津久田:あの本も、八割がたゴーストライターが書いてるだろうね。あの子、学校の読書感想文いつも最低評価だったから。
「よし、そろそろ行くか」
最後の一人が蕎麦を食べ終えるのを確認して、俺はおもむろに立ち上がった。
「えー、もう行くの? ドキュメント番組終わってからでもいいじゃん」
「こういう番組は、どうせ最後は前向きなこと言って終わりだ。後はせいぜいVTRを見た人が、それっぽいこと言うぐらいだろう」
皆が上着を着始めているのに、弟はコタツに入ったまま、ぶーたれる。
日の出を見ることは以前から決まっていたし、そのために俺たちは集まった。
何より、それを真っ先に提案したのは弟だ。
「早めに行かないと混むかもしれないし。どうせ日の出を見るなら、いい場所で見たいだろ?」
「そうかもしれないけどさあ、なんか体が動くことを拒否してるんだよ。自分でも上手く説明できないけど、何か医学的な理由があるに違いない」
だからといって、容赦するつもりはないが。
「このまま、なあなあにすればワンチャンあると思っているのかもしれないが、言いだしっぺが不参加なんて許さんぞ」
弟は体のほとんどがコタツに取り込まれており、頭以外は露出していない状態だった。
そこに身内への慈しみは存在しない。
「ぎゃあっ」
抵抗むなしく弟は引きずり出された。
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