2020-01-07

[] #82-8「餅のロンGUY」

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「そういえば酒で思い出したが、マスダたちの家では今年“アレ”は出てくるのか?」

「“アレ”ってなんだよ?」

「この時期に“アレ”といえば、“アレ”しかないだろ。ほら、あの白いやつ……」

ウサクが周りを執拗に伺いながら、小声で意味深なことを言ってくる。

妙に怪しい雰囲気を漂わせており要領を得ない言い回しだが、俺は何となく察しがついた。

「餅のこと言ってるのか?」

「おい、公共の場で口にするな!」

どうやら正解だったらしいが、ウサクの慌てぶりは過剰だ。

まあ、慎重になるのも分からなくはない。

なにせ酒と同じくらいの嗜好品からな。

餅は他の二つと違って健康被害はなく、粘性の高い特別な米を加工したシンプル食品だ。

しかし、その性質ゆえ喉に詰まりやすく、一定の年齢でなければ食べることができない。

認可された専門店以外での販売は禁じられており、飲食店提供する際は異物除去機器の設置が義務付けられている。

違反者は厳しく取り締まられ、当然ながら密造も重罪だ。

死傷者が後を絶たない歴史があるのだから仕方ない。

それでも一時期は禁止にまでなった代物らしいし、それが食えるだけ俺達は良い時代に生まれたといえる。

「ウサクのところはどうなんだ?」

「また税率が上がっただろう。今年から我が家食卓普通の米を使った偽者だ」

しかし高額かつ希少なので、おいそれと手を出せる代物ではない。

「脱法餅も味は大分近くなったけど、食感が全然ダメなんだよなあ」

再現しすぎると条例に引っかかるからだろうけど、あれじゃあ餅を食ってる感じがしない。

「だったら初詣のあとに、また俺の家に集まろうぜ」

「なに、アレがあるのか!? しかも我々の分まで!」

「爺ちゃんが大量に送ってくれたんだよ。手に入ったのはいいけど食べられなくなったらしくて、俺達で楽しめってさ」

「そうか……今年から年齢制限が更に厳しくなったのか。気の毒にな」

仕方ないだろう。

年寄りが餅なんて食ったら、自殺行為と同じだからな。

逆に弟はというと、今年から餅を食えるようになったので大喜びである

「じいちゃんの分まで、俺が食ってやるさ!」

まあ、弟は以前からこっそり食っていたのを俺は知っているが。

それにしても意外だったのは、ウサクが大の餅好きだったということだ。

「ウサク、お前的に餅ってアリなのか」

「逆に聞きたいが、我がなぜ餅をナシだと考える?」

だって麻薬撲滅の啓蒙ビデオとか作ったことあるだろ」

出来が酷いうえに内容がクサいし、俺も半ば無理やり出演させられたので嫌でも覚えている。

貴様麻薬と餅が同じだと思っているのか。餅には中毒成分も有害物質もないぞ」

「だが、政治的にはどちらも似たような扱いだろう」

「それは大した理屈じゃない。政治的背景から見れば、モノの是非なんて極めて流動的だ。大事なのは、それらを選別するための知識と、各人の確固たる意志だろう!」

とどのつまり自分問題だと思っていないか問題ではない”ってことらしい。

都合よく持論を展開してまで、ウサクは餅を食べたいようだ。

客観的に考えて、そこまでして食べたいと思えるほど美味いものじゃないと思うが、人の欲求というもの制限下でこそ高まるのだろう。

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