俺たちはコンビニに辿り着くと、粛々と目ぼしいものを買い物カゴに放り込む。
「手ぶらで冷やかしに入った人間が、数分後には強盗になっていた」というミームはあまりにも有名である。
財布の紐を緩める罠が、至る所に張り巡らされている。
案の定、弟が引っかかった。
「いらん、いらん。こういうところの福袋は、体よく在庫処理したいのが狙いなんだよ」
「でも定価より断然お得だって書いてある」
「定価でいらないものは、安くてもいらないものなんだよ。そういうものを“お得”だとは言わない」
実際、コンビニは手軽さの割に強力だ。
今やコンビニに出来ないことはない。
……とまで言うのは大袈裟だが、同レベルで便利な量販店が他にないのは確かだ。
それほどまでに便利で、携帯端末と同じくらい人々の日常から切り離せない存在なんだ。
「ここのは注文直後に二度揚げするから、いつも揚げたてだっての。というか、初詣の出店はいいのか?」
「だいじょーぶ、食える食える。それにコンビニ飯の方が安くて美味いし、どうしても食べたいわけじゃないし」
昔の偉い人は「コンビニが日常を席巻する」と言っていたが、それでもここまでだとは思っていなかっただろう。
「焼き鳥って、よほどのことがない限り買ったほうがいい食い物だと思う。近年は特にレベルが高くなってる」
「自宅で炭火焼きは難易度が高いからな。そもそも木炭が市場に出回ってないし」
「仕方ないだろう。一時期、集団自殺の手段として社会現象になったからな」
俺たちは他愛のない話をしながら、少し遠回りをしてカジマたちのもとへ戻る。
「む……」
公園までもうすぐというところで、ふと俺たちは足を止めた。
意外だったのは、この時間帯にしては参拝客がチラホラ見えたことだった。
「結構せっかちな人がいるんだな」
「まあ、年は越しているからな。早いに越したことはない、って考え方もある」
こりゃあ、初日の出の後に来てたら混みそうだぞ。
「……ひとつ提案だが、初日の出の前に、初詣を済ましておくのはどうだ?」
ウサクの提案に、俺たちは頷くまでもなかった。
みんな考えることは同じだ。
「よし、カジマとタイナイたちには、後で交代して行ってもらおう」
俺たちはレジ袋を揺らしながら、玉砂利を踏み鳴らして賽銭箱へと向かう。
「あるとは思うが、そんなコードを気にするほどの信仰心がない」
「そうそう、コードなんて無視するのが現代のスタンダードだよ」
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≪ 前 こうして買出し組は1位の俺と弟、そして2位のウサクとなった。 「初詣の出店で色々食べたいから、軽いものだけでいいよ」 「ああ、分かった」 「あ、そうだ。オイラのカード...
≪ 前 人数を合わせるため、俺たち兄弟は一蓮托生ということにした。 「じゃあ、マスダが4位の場合は弟くんも4位ってことか」 「そうだ。3位以上は買出し組になる」 「え、それで...
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「2019年のドラッグレース」 歌:小滝読二 作詞・作曲:小滝読二、梅本衰 あの日 気球で勝負したのさ 岬に誰が 早く飛べるか賭けてみて 吸ってたあとで 身震いしてたら 朝ま...
≪ 前 一応、参拝くらいは丁寧にやろうとする。 「えーと、二礼二拍手だっけか」 「どこかで一礼も必要だったはず」 「賽銭と鈴を鳴らすのって、どのタイミング?」 しかし、その...
≪ 前 「我々もそうだが、この国の人間はほとんどが信仰心を持っていない」 「そりゃあ、そうだろ。現代人の不平不満を神様に解決してもらおうなんてのは時代錯誤だ」 昔の偉い人...
≪ 前 「お前も初詣か?」 「ついでついで。カンって人に出店の手伝いに駆り出されてさ」 オサカが視線を泳がすと、その先にはカン先輩がいた。 あの人ならいるだろうとは思った...