2020-01-04

[] #82-5「心に刻む情景」

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とはいえ、全員でこの場を離れるわけにはいかない。

誰も居ない予約席なんて自由席と同じだからだ。

何らかの自治体がどこからともなく駆けつけてきて、あれよあれよという間に撤去される。

或いは、日の出を見たい他の人間たちによって侵略されるだろう。

勝者の特権として略奪行為、「俺たちの席なんて元からなかった」という歴史修正が施される。

場所取りとは、現代における戦争の縮図なんだ。

大袈裟な話じゃあない。


俺は以前に市街パレードがあった際、バイト場所取り代行をしたことがあるが、あの時は戦慄した。

確保する簡易席は3つ。

自分が座っておけば残り2席を見張っておけばいいだけの、チョロい仕事だ。

最初はそう思っていたが、その“最初”は十数分で終わりを告げた。

通りがかった同級生が話しかけてきて、そっちに目を向けて返事をしたときだ。

その後、すぐに視線を戻したけれど手遅れだった。

ちょっと目を離した隙に」とはよく言うが、この時の“ちょっと”は数秒の出来事

にも拘らず、俺の両隣には見知らぬ人間が二人座っていたんだ。

何食わぬ顔で携帯端末をイジり、位置情報ゲームを嗜んでいた様子は強烈だった。

まあ、結局は簡易席の前に人だかりができて、座った状態ではロクに見れないという状態になってしまったけれど。

“より良いものを見たい”という目的のために、人は容易く理性を放棄できる生き物だと俺は痛感したのさ。


というわけで、買出しに行く人数は絞らなければならない。

「こんな暗がりに一人で待機とか嫌っすよ」

「じゃあ、待機組は二人、残りが買出しって感じかな」

「それじゃあ、ここで待機したいのは?」

「……」

そもそも、ここにいるのが退屈だからこういう話が出ているわけだから愚問である

とどのつまり勝負して決めるしかないってことだ。

「じゃあ、ジャンケンで」

「いやいや、麻雀にしようよ。せっかく持ってきたんだからさ」

弟は、おもむろに俺のバッグから麻雀セットを取り出し、周りの賛成意見を募るまでもなく牌を並べ始めた。

「まあ、暇つぶしにもなるし、これでいっか」

まり自然所作だったから、みんなも疑問に思わない。

弟は心の中で「しめしめ」と思っていることだろう。

それは俺も同じだった。

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