何らかの自治体がどこからともなく駆けつけてきて、あれよあれよという間に撤去される。
或いは、日の出を見たい他の人間たちによって侵略されるだろう。
勝者の特権として略奪行為、「俺たちの席なんて元からなかった」という歴史修正が施される。
大袈裟な話じゃあない。
俺は以前に市街パレードがあった際、バイトで場所取り代行をしたことがあるが、あの時は戦慄した。
確保する簡易席は3つ。
自分が座っておけば残り2席を見張っておけばいいだけの、チョロい仕事だ。
最初はそう思っていたが、その“最初”は十数分で終わりを告げた。
通りがかった同級生が話しかけてきて、そっちに目を向けて返事をしたときだ。
その後、すぐに視線を戻したけれど手遅れだった。
「ちょっと目を離した隙に」とはよく言うが、この時の“ちょっと”は数秒の出来事。
にも拘らず、俺の両隣には見知らぬ人間が二人座っていたんだ。
何食わぬ顔で携帯端末をイジり、位置情報ゲームを嗜んでいた様子は強烈だった。
まあ、結局は簡易席の前に人だかりができて、座った状態ではロクに見れないという状態になってしまったけれど。
“より良いものを見たい”という目的のために、人は容易く理性を放棄できる生き物だと俺は痛感したのさ。
というわけで、買出しに行く人数は絞らなければならない。
「こんな暗がりに一人で待機とか嫌っすよ」
「じゃあ、待機組は二人、残りが買出しって感じかな」
「それじゃあ、ここで待機したいのは?」
「……」
そもそも、ここにいるのが退屈だからこういう話が出ているわけだから愚問である。
「じゃあ、ジャンケンで」
弟は、おもむろに俺のバッグから麻雀セットを取り出し、周りの賛成意見を募るまでもなく牌を並べ始めた。
「まあ、暇つぶしにもなるし、これでいっか」
弟は心の中で「しめしめ」と思っていることだろう。
それは俺も同じだった。
≪ 前 この町で日の出を見たいなら、港近くの展望台が手軽かつ最適な場所だ。 いや、“だった”というべきか。 なにせ、みんな考えることは同じだ。 そして生憎、展望台に“みん...
≪ 前 法律ギリギリの苛酷な労働環境、杜撰なスケージュル管理などを赤裸々に書いた暴露本は物議を醸しました。 田尾:以前から意識にズレは感じていました。『Mの活劇』は皆で作...
≪ 前 竹島:あの頃は人間扱いしてくれなかった。エベレストに登らされたとき、この仕事を請けたのは失敗だと思いました。 この時の『Mの活劇』の撮影について、Mのスタントであ...
「2019年のドラッグレース」 歌:小滝読二 作詞・作曲:小滝読二、梅本衰 あの日 気球で勝負したのさ 岬に誰が 早く飛べるか賭けてみて 吸ってたあとで 身震いしてたら 朝ま...
≪ 前 人数を合わせるため、俺たち兄弟は一蓮托生ということにした。 「じゃあ、マスダが4位の場合は弟くんも4位ってことか」 「そうだ。3位以上は買出し組になる」 「え、それで...
≪ 前 こうして買出し組は1位の俺と弟、そして2位のウサクとなった。 「初詣の出店で色々食べたいから、軽いものだけでいいよ」 「ああ、分かった」 「あ、そうだ。オイラのカード...
≪ 前 「そういえば酒で思い出したが、マスダたちの家では今年“アレ”は出てくるのか?」 「“アレ”ってなんだよ?」 「この時期に“アレ”といえば、“アレ”しかないだろ。ほ...
≪ 前 俺たちはコンビニに辿り着くと、粛々と目ぼしいものを買い物カゴに放り込む。 あまり長居するのは危険だ。 「手ぶら冷やかしに入った人間が、数分後には強盗になっていた」...
≪ 前 一応、参拝くらいは丁寧にやろうとする。 「えーと、二礼二拍手だっけか」 「どこかで一礼も必要だったはず」 「賽銭と鈴を鳴らすのって、どのタイミング?」 しかし、その...
≪ 前 「我々もそうだが、この国の人間はほとんどが信仰心を持っていない」 「そりゃあ、そうだろ。現代人の不平不満を神様に解決してもらおうなんてのは時代錯誤だ」 昔の偉い人...
≪ 前 「お前も初詣か?」 「ついでついで。カンって人に出店の手伝いに駆り出されてさ」 オサカが視線を泳がすと、その先にはカン先輩がいた。 あの人ならいるだろうとは思った...