さて、自分はこれを「テンプレものなゾンビサバイバル」と評したが、これは要所要所のツボは抑えていることを指しているだけだ。
この作品はある意味で「顧客の求めているもの」を提供しているとも言えるし、提供していないとも言える。
どういうことか説明していく。
まず、この映画を“豪華なキャスト”目当てで観たい人は、ぜひ映画館に足を運んで欲しい。
カメオ出演の俳優のために予算を使い果たしたんじゃないかという豪華っぷりである。
主演のマッピーもしっかり絡むので、彼の美声に終始酔いしれることだろう。
逆にゾンビサバイバルものを目当てに観に行くならば、あまり期待しない方がいい。
ゾンビサバイバルもので個人的に好きな箇所は、「パニック状態になって、人間社会が崩壊する前段階」である。
日常が徐々に壊れていくような、でもそれがまだ原型を留めているような段階のことである。
そこを丁寧に、上手く描いたゾンビサバイバルものは、個人的にそれだけでワンランク評価を上げたくなる。
本作も、その前段階にたっぷり尺を使う。
なんと1時間!
いくら自分が前段階が好きだからといって、モノには限度がある。
見せ方も無駄だという印象が強く、ただ登場人物たちがくっちゃべっているシーンが長々と続く。
パンデミックを想起させるニュースを挟んだり、ゾンビになりかけた様子のおかしい人が映るシーンなんてものは申し訳程度にしかない。
ゾンビサバイバルを観たい人は、後半の部分だけ観ても差し支えないレベルだ。
だが、これもある意味でわざとやっている節がある。
『ヴァリアブルオリジナル』の主人公を筆頭に、その他のアニメでも青年役、少年役で彼の声を聴かない日はない。
だからマッピーを目当てに観に行く人にとっては、彼が長々と話しているのはそれだけで至高なのだ。
だが、このマッピーという俳優が、ある意味で作品全体の雰囲気を歪にしている側面もある。
大根というわけではないのだが、これまで声優業ばかりやってきたせいなのか、その癖が抜け切っていない。
或いは、マッピーも実写向けの演技が出来たのかもしれないが、彼のファンはアニメから入ってきた人間ばかりなので、ファン向けの演技指導をさせたのだろうか。
マッピーの発声は本作でもすごくアニメっぽくて、実写向けの演技路線である周りの俳優とは明らかに浮いている。
ヒロインが「バリケードが突破された!」とリアル路線で喋り、周りの俳優やエキストラもそれに合った演技をする中、マッピーだけが雑音が全く無い環境で「ヤバいよ、本当にヤバいよ!?」と言っている場面の脱力感といったら筆舌に尽くしがたい。
これは自分の勝手な憶測だが、この映画の監督は元々コッテコテなゾンビサバイバルを撮りたかったのだと思う。
なのでマッピーの所属する事務所に関係する企業に出資を募ったら、出してきた条件がこの前半のかったるい展開だったのではないだろうか。
或いは広告担当が、俳優を前面に出して集客しようとした結果、それを極端にやりすぎたというか。
映画監督も俳優目当てとゾンビサバイバル目当ての人間をハッキリさせたかったので、前半は開き直って俳優劇場にして、後半でゾンビサバイバルを詰め込んだ、と自分は妄想している。
特に監督のこだわりが感じられたのは、子供のゾンビが出てくることだ。
しかもこの子供ゾンビが……(ネタバレというほどの展開ではないが、個人的な見所ではあるので伏せておく)。
本作のゴア描写は大したことはないのに、レーティングが高めなのはこれが原因だと考えられる。
それでなお“善良な人間からのクレーム”も覚悟しなければならない。
監督も色々譲歩し続けたと思われるが、ゾンビサバイバルのシビアさを表現するため、これは残そうとしたのだと思う。
自分としては、今回でこの監督も注目せざるをえない一人になった。
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