2015-03-08

[] 『ソーシャルリンク』 その7

  結局、不自然な言動をしたのは独身寮に住んでいた田中一人だった。翌日から俺は彼の寮の前に張り込みを始めた。朝、日の出前に起きてチャリで一時間かけて彼の最寄り駅まで。チャリをそこに停めると家の前まで歩く。そこで彼が起き出して出社するのを待つ。彼が家を出ると、その後をつけて一緒に職場まで。あとは退社を近くの喫茶店で一日待つ。彼が退社すると一緒に帰宅して、それからは彼が眠るまで夜中まで張り込み。終電もない時間になるからチャリ事務所まで帰ってくる。この生活を一週間続けた。睡眠時間は平均4時間ほどになった。正直堪える。

  何の成果も上がらず迎えた週末。俺はやはり朝から張り込みを続けていた。午前中は特に動きも無かったが、昼過ぎにどこかに出かけた。慌てて後をつける。最寄り駅から電車に乗り五駅先で降りた。駅から歩くこと十分。彼はうらぶれた雑居ビルに入っていった。

  エレベーター前の案内を見ると二階に『光の華』という宗教法人事務所を構えているらしい。田中は四時間ほどそこで過ごし、自分の家に帰った。それからは外出することなく就寝した。

  * * *

  田中の就寝を見届けてから事務所に帰ってきた俺は、早速ネットで『光の華』という宗教団体について調べてみた。最近規模を急激に拡大している新興宗教だという。その信者は多岐に渡り一般人のみならず芸能界司法警察機構政界にも少なから信者がいるそうだ。

  教祖中野興右衛門という人物で、45歳。バブル崩壊後、経済的に荒廃した日本を離れ、インドで十年間ブッダもかくやといった荒行を積み超自然的な能力を身につけたらしい。どんな人物なのか写真でもないものかと検索してみたが、一つも見つからなかった。なんでも、神秘性を保つために写真の類は一切撮っていないらしい。この情報化時代写真の一枚もないなんて、神秘性を通り越して不気味だ。まあ、逆にSNS今日の昼に何を食べたとか、誰と会ったとか、日常を垂れ流している宗教教祖なんていたら、それはそれで嫌だけれど。

  今度はこの宗教関係があると言われている人物を検索してみる。真偽は不明だが、ネット上のゴシップが大量に出てくる。あまり芸能界に詳しくない俺でも知った名前がちらほら見える。高橋圭一名前も見つかった。これで田中との繋がりが何なのか分かった。きっとこの宗教を通して関係があったのだろう。

  関連サイトを見るともなしにブラウジングしていると、一人のアイドルが目に留まる。西織あいか。19歳。明るい髪と、意思の強そうなぱっちりした猫のような瞳が印象的だ。売り出し中の駆け出しアイドルらしく、テレビで見たことはないが、かわいらしい。正直タイプだ。所属堀川プロダクション

  高橋圭一所属堀川プロダクションだった。同じ事務所で同じ宗教団体に属している芸能人二人。怪しい。

「確かめてみるか」

  * * *

  堀川プロダクションは中堅どころの芸能事務所だ。俺は事務所の入ったビルの向かいにある古本屋から、人の出入りを監視していた。まるで芸能人の追っかけになった気分だ。たまたま窓際の棚に陳列されていた、興味もない競馬マンガ立ち読みしながら待つこと三時間サングラスで顔を隠しているが、西織あいかと思しき人物が事務所から外に出てきた。

  急いで古本屋を出る。彼女は通りの角を曲がるところだった。見失わないよう小走りで後を追う。しばらく後をつけ、人通りが途絶えたのを確認して声をかけた。

「西織あいかだな」

  彼女は振り返って俺を一瞥すると、

「ファンの方? こういうの困るんですけど」

  と、不機嫌も露に言った。これで本当にアイドルが務まるのだろうかと、他人ごとながら心配になってくる。

別にファンじゃないが、ちょっと話が聞きたくてな」

  俺の話を聞いているのか聞いていないのか、はぁ~、と大きなため息をついたかと思うと、バックから携帯を取り出した。

もしもしマネージャーさん? ちょっと今すぐ来て欲しいんですけど……」

  彼女は有無をいわさず事務所に連絡を取り始めた。問題になるのは困る。焦った俺はとっさに、彼女の手から携帯を叩き落とした。

「ちょ……もがっ!」

  背中から手を回して羽交い締めにし、騒がれないよう口元を押さえる。

「騒ぐな! ちょっと話を聞くだけだから……」

  俺は囁くように言った。携帯からマネージャーと思しき男が、どうした!とか叫ぶ声が聞こえている。大事になるとまずい。

  彼女はしばらくもがもが暴れていたが、観念したのかやがて大人しくなった。

「よし。そのまま大人しくしてろよ」

  口元から手をどけても、騒ぎ出す様子はない。安心して羽交い締めにしていた力を抜いたら、彼女の体はずるりと腕の中から滑り落ちていった。

「え……」

  見れば彼女はぴくりともせずに地面の上に横たわっている。まさかまさか

「し、死んでる……」

  * * *

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