2015-02-25

[] 『ソーシャルリンク』 その3

  占い業はすぐ廃業した。あの占い屋に行くと必ず別れるという噂が立って、客足がぱったり途絶えてしまたからだ。また借金けが増えた。

「はぁ~。もう死のうかな」

  隣で雑誌立ち読みしていたオッサンがギョっとして俺を見た。ふらっと立ち寄ったコンビニマンガ立ち読みして、ついつい長居してしまった。ジュースでも買って出よう。適当清涼飲料水ペットボトルを手にとってレジへ向かう。

「150円になります

  バイトだろう。若い女の店員だ。かわいい。支払いを済ませ商品とお釣りを受け取って店を出ようとした時、レジの向こうから店長らしき中年男性彼女に声をかけた。

「よくやってるな」

  ぽんと肩に手を置き、店長彼女を労った。二人は、なにやら濃い紫色の、ねばねばと糸を引くような『繋がり』でつながっている。これは、もしや……。俺は一つの思いつきと共に店を出た。

  * * *

  数日後、深夜。俺は件のコンビニの前で人を待っていた。目的の人物が店から出てくると、すかさず声をかけた。

すみませんちょっとお話よろしいでしょうか?」

「はあ」

  声をかけたのはこの店の店長。彼はうろんげな目で俺を見返していた。それはそうだろう。俺は夜だというのにサングラスで顔を隠しているのだ。怪しまない方がおかしい。一気に本題に入る。

もしかしてあなた不倫をなさっていませんか?」

「なっ、なんのことだ?」

  驚き目を見開く中年

「立ち話もなんですから、詳しくは、あそこのファミレスででも話しましょう」

  彼は黙って俺についていきた。ファミレスでは適当料理飲み物を注文した。

「してますよね? 不倫

「何をバカなことを」

証拠ならあるんですよ」

  俺はポケットから印刷しておいた写真を取り出し、テーブルの上に放った。彼とあの若い女性店員がラブホテルに入っていく写真だ。

「……何が望みだ?」

  男はすっかり観念したらしい。

「300万だ」

「さっ、300万!?

  席から立ち上がって叫ぶ男。

「ちょ、落ち着いて。騒ぎになったらお互い困るでしょう」

  すとん、と彼は元通り腰を下ろした。

「300万……」

  放心したようにつぶやいている所に追い打ちをかける。

「お前、小学校に上がったばかりの娘がいるだろ。不倫離婚なんて事になったら娘に会えなくなるぞ」

「そっ、それだけは……」

  顔色が変わった。さらに畳み掛ける。

「娘にも会えず、慰謝料養育費を払うためだけに働く日々を想像してみろよ。元嫁が再婚して新しい生活を始める横で、お前は稼ぎの大半を持って行かれて、趣味も贅沢も何もできず、一人で死ぬまで過ごすんだ」

「くっ、くぅ~!」

  彼は自分の寂しい老後の姿を想像したのか、頭を抱えて唸っている。

「それに比べれば、今300万払うくらい、どうってことないだろう? な?」

「うっ……くっ……くくく……」

  気づけばいい年した中年おっさんが、嗚咽を漏らして泣いていた。かわいそうだが、身から出た錆ってやつだな。

「じゃあ明日、ここで同じ時間に待っているぞ」

  料理はまだ来ていないが、支払いを済ませて俺は店を出た。

  翌日、彼は本当に300万を持って来た。分厚い茶封筒に、銀行から下ろしたての札束を三つ入れて。俺に金を手渡す瞬間の、泣き笑いのような形相と言ったら、なかなか見れない類のものだった。これに懲りて、これからはまっとうな人生を歩んで行って欲しい。

  さて、それはともかく。300万。300万だ。事務所に帰ってから一枚一枚数えてみたが、本当に一万円札が300枚あった。こんなにまとまった金を稼いだのは、生まれて始めてのことだ。今までろくろく、稼げやしなかったのに。これこそ、ボロ儲けってやつじゃないか。またやるか。発覚しないだけで、不倫なんてそこら中にあふれている。俺はそれを簡単に見つけられる。まるで、金の成る木だ。

  しかし、そう何度もゆすりたかりが上手くいくとも思えない。いつか通報されて警察のお世話になるだろう。もっと合法的なやり方はないものか……。

  そうだ、ひらめいた。あるじゃないか、うってつけの職業が。

  * * *

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