2015-03-01

[] 『ソーシャルリンク』 その5

  さて、この事件捜査すると決めたのはいいが、何から手を付けたらよいものか。まさか高橋圭一写真を持って、鎖の先に繋がっている共犯者が見つかるまで街をうろつくわけにもいかない。

  新聞週刊誌テレビインターネット。俺は事件関係しそうな情報を集められるだけ集めた。しかし、共犯者に繋がる情報は見つからなかった。テレビは連日、高橋容疑者について報道していた。派手な交友関係、爛れた異性関係、隠された変態趣味……史上最悪の犯罪者だ。容赦も何もない。

「こういう時って、なぜか卒業アルバムとか晒されるよな……」

  今回は特にめぼしい内容が書かれていなかったのか、報道されていないが。

卒アルか……」

  彼も学生だった時期があるわけで、当然学校に通っていれば人間関係が生まれるわけで。

  もしかしたら、彼の人間関係卒業アルバムから探れるかもしれない。卒業アルバムには卒業生写真が載っている。高橋圭一写真と突き合わせれば、もし今も関係が続いていれば分かるはずだ。

  ネット高橋圭一の経歴を検索する。都内にある高校に通っていたらしい。早速電話で問い合わせる。方々から問い合わせが殺到しているのだろう。何度かけても話し中だ。10回以上かけて、やっとつながった。

もしもし、○○高校事務所です」

  電話口の相手は疲れきった声で言った。

もしもし。私、佐々木探偵事務所佐々木誠也と申す者ですが、例の都内連続児童誘拐殺人事件について調べていまして……」

  すると相手はうんざりした口調で、

「そういうのは警察にまかせていますので」

  とだけ言って電話を切った。マスコミ警察ならいざ知らず、探偵への対応なんてこんなもんだろう。さて、どうするか。いっそマスコミ関係者を騙ろうか。しかし、図書室やそこらに保存されているであろう、アルバム現物を見せてもらわなくては困る。校内に入る時に身分証の提示くらいさせられるだろう。身分証の偽造? そんなスキル無いぞ。

「よし、学校に忍び込もう」

  ちょっと卒業アルバムを見せてもらうだけだ。そっと忍び込んで、そっと出てくる分にはバレやしないだろう。

  * * *

  その夜、草木眠る丑三つ時。俺は目立たないよう黒装束に身を包んで、件の高校の校門前に立っていた。校門は柵で閉じられているが、高さは2mもない。よじ登ろうと思えば、よじ登れる高さだ。俺は周囲に人が居ないことを確かめると、サッと柵を超え校内に侵入した。

  人目を避けて校舎の裏手にまわる。ガラス窓が一つあった。施錠されているが、何の変哲もないクレセント錠だ。俺は背負ってきたリュックの中からマイナスドライバー釣り糸を取り出した。サッシの隙間にマイナスドライバーを突っ込んで広げ、先を結んで輪っかを作った釣り糸を滑りこませる。その輪っかを錠に引っ掛け、引っ張れば……

  ガチャリ。音を立てて鍵が開いた。順調極まりない。窓を開けて校舎に侵入した。俺って天才じゃなかろうか。

  その時の俺には、最初に校門をよじ登った時点でモーションセンサーに引っかかっており、警備会社から警備員急行している途中だとは思いもよらなかった。

  俺は校舎をうろついて、図書室らしき部屋を見つけた。鍵がかかっていたが、ただの引き戸だったので力技で扉ごと外して中に入った。目当ての卒業アルバムは図書室の一番奥の棚にあった。高橋圭一卒業した年のものを抜き取る。後は彼の写真と付きあわせて確認するだけだ。

  カツン

  図書室の外の廊下から足音が聞こえた。心臓が飛び上がった。カツンカツンカツン……こちらに近づいてくる。

「おい、扉が外されているぞ」

「本当だ」

  なんてこった。懐中電灯を持った人影が二人、図書室に入ってきた。おそらく警備員だ。

「誰かいるのか!」

  俺は卒業アルバムを抱えたまま息を潜めた。どうしようどうしようどうしよう。

  二人組のうち、片方が入り口の前に立ち、片方が部屋を調べるために中に入ってきた。出入口は一つのみ。逃げ場は無い。

  薄暗くて二人の姿はぼんやりしか見えないが、間にある関係ははっきり見える。上司と部下だろう。部屋に入ってきたのが上司入り口を固めているのが部下。しかし、違和感がある。これはむしろ、義父と義理の息子の関係か? たまたま同じ会社家族で? いや、この関係もっと後ろめたい何かでは……?

  部屋を改めていた警備員がこちらに近づいてくる。あの本棚の角を曲がったら、俺の姿が見えるだろう。俺は隠れていた本棚の影から飛び出した。

「あっ、待て!」

  警備員懐中電灯で俺を照らす。俺は顔を見られないように手で隠しながら、叫んだ。

「おい、おっさん! あんたの部下、娘さんのことヤリ捨てしてるぞ!」

「なななななんでそれを!」

  思いっき狼狽える部下。その隙をついて、彼に体当たりをぶちかます。お互い派手に転倒するが、すぐさま立ち上がって猛ダッシュ。後ろでは警備員の二人が、お前だったのかとか、知りませんとか押し問答している。

  侵入した時に使った窓から外に出て、来た時は気づかなかった裏口か校外に出た。怪しまれない程度に走って高校から距離を取る。20分ほど走って、もう十分だろうという所で一息ついた。

「盗ってきてしまった……」

  手の中の卒業アルバムに目を落とす。これって、窃盗だよなぁ。

  ええい、やってしまったのは仕方がない。それもこれも、凶悪事件を解決に導くため! 結果オーライってことになるさ!

  * * *

次 http://anond.hatelabo.jp/20150303080108

前 http://anond.hatelabo.jp/20150301033659

記事への反応 -

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん