2019-10-22

アイカツ!」の全178話はなぜファンにとっては“短い”のか

アイカツ!シリーズの「話数が多い」というハードルを越えて視聴してもらうためにはどう勧めれば良いか、という話が少し盛り上がっていた。

その中でよく出てきた話に、見てハマった人間にとってはその話数というのはむしろ少なく感じるほどである、というものがあった。

それについては私も大いに頷くものであるが、なぜ皆がこれだけ話数の多い物語をそろって「短い」と言うのであろうか。(単純に面白いからあっという間だよって意味かもしれないが)

それを少し考えてみたので書き連ねてみる。なお、シリーズ全部について書くと本当に長くなるので第1作の「アイカツ!」に絞って書く。

視聴者は「アイカツ!」の世界の住人と同じ時間を過ごす

アイカツ!」は2012年10月から2016年3月までの約3年半の期間に放映されたアニメである。総話数は178話。劇場版長編の「劇場版アイカツ!」と、ステージを中心に構成した中編「アイカツ!ミュージックアワード みんなで賞をもらっちゃいまSHOW!」、最終回後に制作された短編アイカツ!~ねらわれた魔法アイカツ!カ―ド~」の計3つがある。他にもドラマCD制作されている。

そして、「アイカツ!」は放映時期と作中の時間リンクしている。つまり、季節が現実と同じように流れ、クリスマスバレンタイン卒業式入学式年末年始などの季節のイベントエピソードが時期に合わせて放映されている。

劇場版も公開日と合わせてあり、たとえば2014年12月13日公開の「劇場版アイカツ!」は同年12月11日放映の第112話の後のお話となっている。

プリキュア等の年間を通して放映されるアニメを見ている人にとってはさほど驚くことではないかもしれないが、1〜2クールが基本の深夜アニメを中心に見ている人にとっては新鮮かもしれない。

さらに、いわゆる「サザエさん時空」ではなく、1年経つと実際にキャラクターが歳を取り、進級したり卒業したりする。

最初主人公星宮いちごは第1話時点では中学1年生だったのが、第178話時点では高校2年生になっている。(ある話数の間にだけきっちり1年間のブランク存在するが詳細は省く)

まりは、視聴者は画面を通して「アイカツ!」の世界での出来事リアルタイムに感じとり、キャラクターの成長を見守っていくのである

週に1回の放映内容だけでその1週間の出来事を知る、と単純化して考えてみると、それはあまりにも時間が足りないと言わざるを得ないであろう。

漫画スラムダンク」は週刊連載で6年連載して作中で4ヶ月の出来事を描いたのであるから、単純計算でその18倍の短さと言えてしまう。(1/3年の出来事を6年間で伝える=1/18年の出来事を1年かけて伝える)

そして、年間を通して季節に合わせて放映されていると、視聴者にとって「アイカツ!」は生活の一部となっていく。生活が終わることなんて人は想像したくないものであるから、それが終わった時の寂しさは計り知れない。

後追いで視聴している者にとっては、話数と共に季節が移り変わっていくのを感じながら見ていると、キャラクター人生を辿っているような感覚になる。そうすると、途中でそれが途切れてしまうとなると、それがどれだけ寂しいものであるか。

最終回後に制作された劇場版短編は、そんな人たちに向けてキャラクターから届けられた久しぶりの近況報告・贈り物であると考えてみると、それがどれだけ嬉しいものであるか。

先述したように「アイカツ!」ではドラマCDがいくつか制作されているが、劇中のラジオ番組という形をとっており、まるで実際にラジオを聴いているかのように感じることができる。ファンにとって「アイカツ!」のキャラクターはどこか現実と地続きのところに存在しているような感覚がある。

アイカツ!」のキャラクター誕生日を祝う時、毎年そのキャラクターの年齢を数えるファンは少なくない。今年、星宮いちご20歳になった。

アニメが終わってもキャラクターたちは消えることなく、生きてアイカツをし続けている。キャラクターの生きる姿を描くのにはいくら話数があっても足りない。

キャラクターの数だけ物語がある

アイカツ!」にはたくさんのアイドルが登場する。作中でCGで描かれたステージ披露したアイドルを数えてみると、総勢28人。披露されていないアイドルも多数おり、その中に人気のキャラクターもいる。

長期放映のアニメで俗に言われるものに「当番回」というものがある。

特定キャラクタースポットライトを当てたお話のことを指すが、「アイカツ!」にももちろん当番回と呼べる回が多くある。

しかし、28人を超えるキャラクターの全員に満遍なくスポットライトを当てるにはあまりにも話数が足りない。当然キャラクターによって登場の頻度の差は出るので、「あのキャラもっとたかった」という声は常にある。

それだけキャラクターが魅力的であったことの証左ではあるのだが、178話という話数をもってしても描き切れていないわけである

ただ、そういった「スポットライトを当てる」ことについては、第146話「もういちど三人で」で星宮いちごが語った言葉がちょうどぴったりだったので引用する。

「私ね、世の中のアイドルとか、みんなを照らすスポットライトって、ずーっと動いてる気がするんだよね。ぐるぐるって。ずーっとぐるぐるぐるぐるね。だから、その時その時で、照らされる人数は少ない。でも、照らされなかった人がいなくなってるわけじゃない。だから、次のチャンスは誰にでも来るんだよ。その場所に立っている限りね」

スポットライトの当たってないところでもアイドルたちのアイカツは続いている。

物語舞台であるスターライト学園アイドル学校で、つまり通う生徒たちは全員アイドルである。メインで登場するアイドル以外も皆アイドル活動をしているわけである。実は、クラスメイトにも全員しっかり設定が付いている。何気ないシーンで映り込んでいるアイドルや、一瞬映った雑誌に載っているアイドルにも名前ちゃんとついていたりする。スポットライトが当たっていない彼女たちも、「アイカツ!」の世界で生き、活躍している1人であることが想像できて、それが「アイカツ!」という作品世界に深みを与えている。

さらに、アイドル以外にも、家族先生デザイナーファン仕事関係者等のサブキャラクターアイドルに負けず劣らず魅力的である

特にブランドデザイナー重要存在で、アイドルが、自分の好きなブランドトップデザイナーが作る「プレミアムレアドレス」を手に入れるまでの物語は「アイカツ!」のひとつの見所でもある。

デザイナーブランドに対する考え方だったり、アイドルとの向き合い方・関係性だったりにもその人の生き方のようなものを感じることができ、それは、いろんなアイドルのいろんなアイカツの形を見るのにも似ている。アイドルでないキャラクターにもその背景や物語があるのを感じさせる。

また、当初はただのモブしかなかったアナウンサーが、節目節目でのイベントでいつも司会者として登場するうちにいつの間にか名前が付くまでになっていた、ということもある。

何が言いたいかというと、「アイカツ!」を見ていると、登場する全てのキャラクターが魅力的で愛おしく思えるようになり、もっといろんな話が見たいと思うようになるということである

「かげがえのないもの」はなんてことな毎日の中にある

歴代シリーズキャラクターが大集合する新シリーズアイカツオンパレード!」の放映に際し、シリーズダイジェスト動画が公開されている。

歴代シリーズプレイバック!『アイカツ!(2012年10月~) ver.』
歴代シリーズプレイバック!『アイカツ!(2014年10月~) ver.』

だいたい5〜6分の動画シリーズがおさらいできるようになっている。

やろうと思えばアニメの内容をあらすじでさらっと伝えることはできる。主人公が「輝きのエチュード」や「SHINING LINE*」や「START DASH SENSATION」等の楽曲に至るまでの物語理解してもらうために最低限のエピソードピックアップすることもできる。

アイカツ!」は基本的1話完結のストーリーになっており、途中から見てもわかるような配慮もされている。単話で見ても面白い回はたくさんあるので、つまみ食いでもきっと楽しんで見ることができるであろう。

この回が良い、この回が好き、といった話に花を咲かせることもよくある。

それでもやっぱりファンとしては全話見てほしい。全話が全部大事な話だ、と本気で思っている。

星宮いちごが歩んだ道のりを軸に、物語上の重要エピソードだけをピックアップすることになったとしよう。

そうすると、例えばいちごたちがただオフタイムを過ごすだけという第24話「エンジョイオフタイム」は、含めなかったとしても物語説明可能である。でも、ファンとしてはこの話は絶対に外したくない。

また、いちごがメインでない他のキャラの「当番回」、例えば藤堂ユリカがメインの第89話「あこがれは永遠に」も含めなくてよいだろうか。確かに、なくてもいちご物語を語ることはできるであろう。だがこの回で描かれた藤堂ユリカアイドルとしてのあり方やデザイナーとの関係ファンとの向き合い方、そういったものが全くいちご関係ないなんてことはなく、作品を通して描かれているテーマの根幹に通じているものがたくさんある。

例えば「SHINING LINE*」の歌詞を紐解くときに、ただ美月いちごあかりにだけ注目して考えるのでは、やはりもったいない。いろんなアイドル、いや、アイドルでないキャラクターたちにもそれぞれの「SHINING LINE*」があるし、「最初の風」もある。

アイカツ!」の楽曲は、キャラソンというわけではなく、「アイカツ!」の世界で歌われるポップスであり、普遍性を持った歌詞になっている。もちろん、これは誰々が歌っているという「持ち歌」の考え方はあるが、ある楽曲を別のアイドルが歌うことでまた別の新しい意味が生まれる、ということが「アイカツ!」にはよくある。

などといろいろ考えていると、どの話も外すことができなくなってくる。いろんな人のいろんな出会いが物語を紡いでいる。全ての話が全部つながっている。

アイカツ!」を代表する曲のひとつに「カレンダーガール」がある。

この曲には「何てコトない毎日がかけがえないの」「何てコトない毎日がトクベツになる」という歌詞がある。

詳しい説明は第22話「アイドルオーラカレンダーガール」に任せるが、彼女たちの今日をかたちづくっているのは日々のアイカツであり、そして今日アイカツがその先の未来をつくっていく。

私たちが「START DASH SENSATION」で涙するのは、そうした彼女たちのアイカツをずっと見てきたかである

から彼女たちが見せてくれる「未来向きの今」を、できることならば全部見てほしいと願うのである

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