“理解のある彼くん”というワードをよく目にするようになり、アスペ(多分。未受診)のワイ「女は楽でいいよなーーッ!!」と思っていたが、唯一の友達に「でもお前の元彼女ちゃんは、かなり“理解があった”よな」と言われて黙る
子供の頃から勉強は出来るが空気が読めずに浮いていた。自分なりに気を使ったつもりでもやはりズレていて、しょっちゅう場を白けさせた。幸いいじめを受けたことはなかったが、いわゆる「班分け」的なやつでは行き場所がなく、修学旅行では人数の関係でクラスの陽キャグループに投入された。意外にも陽キャグループは優しくて、俺を適度にイジりながら一緒に行動してくれた。「増田おもしれぇ!」と言われたので「もしかしたらこのままグループに入れてもらえるんじゃ」と淡い期待を持ったが、そんなことは全然なかった。
大学でも、最初は頑張ってみたものの、すぐに周りに距離を置かれて孤立した。可愛い彼女が出来ればとも思ったが、友達が作れない男が彼女を作るのは無理ゲーだった。
何とか就活を終え、童貞のまま就職した。大企業ではないので同期は10人。その中のひとりがA子だった。同期の中でもいつも通り、最初だけ輪の中心にいて徐々にハブられる流れだったが、配属先が同じだったA子だけは離れずフォローをしてくれた。女子に優しくされたことのない俺は舞い上がり、A子にアプローチをした。ダサくて、空気の読めないアプローチだったと思うが、何度か粘って奇跡的にOKを貰い、人生初の彼女ができた。
A子は仕事ができた。優しく気遣いができるので、同期にも先輩にも好かれていた。ワイは学歴は1番だったが、案の定仕事ができない。そんなワイに、A子はかなり尽くしてくれたと思う。いつも優しい言葉で励ましてくれ、残業でヘトヘトの日には飯を作って待っててくれた。ワイはA子に依存した。そしていつのまにか、A子がしてくれることを“彼女なんだから”当たり前だと思うようになった。
そんなある日、ワイは仕事で大きなミスをして上司に叱責された。素直に謝れば良かったんだが、ミスのデカさにパニックになってわけのわからない言い訳をしてますます上司を怒らせた。同僚たちの軽蔑の目に耐えきれずに早退し、次の日から会社に行きたくてもいけなくなってしまった。ありがちだが、出社しようと玄関に立つと涙が止まらず吐いてしまう。
心配してくれたA子にも酷い言葉を浴びせてしまった。この世で甘えられるのはA子だけだったし、暴言を吐けるのも彼女だけだったからだ。それでもA子はワイを見捨てず、退職して家賃が払えなくなったワイを自宅に引き取ってくれた。広くはない1Kの部屋。毎日何の生産性もなく、家事もできないワイに、A子は頑張れとは言わなかった。病院にも連れて行ってくれた。少し症状が回復した時、ネトゲで出会ったメンヘラと意気投合した。A子は責任感があってまともだから、メンヘラのだらしなさに触れると安心する感じがあった。そこからはもうお察し。メンヘラとの浮気がバレた夜、A子は初めて泣き崩れた。出て行ってくれと言われた。A子に愛されている自信があったから、荷物をまとめる間に引き止められると思ったし、出て行ってからすぐ連絡があると思っていた。でもなかった。メンヘラの家に転がり込んだが、メンヘラとメンヘラでは共倒れになるしかない。3ヶ月後に帰ったA子のマンションには別の人が住んでおり、LINEもブロックされていた。
友人の言う通り、A子は“理解のある彼女”だった。でも俺は友人に言われるまで、どんな彼くんモノの漫画を読んでもA子を思い出すことはなかった。A子を“生きづらい人生に現れた救世主”
として感謝するのではなく、“生きづらい人生にやっときた報酬”くらいに思っていたんだと思う。「懸命に生きている自分の人生にはそういう女がずっと現れるべきなのになかった。やっと“当然の権利”を手に入れた」みたいな。俺が半生を漫画(笑)にしたとしたら、A子のことは書かなかったかもしれない……とまで思ってゾッとした。
当時は精神的にも経済的にも助けられたし、浮気がなければ、A子は結婚してくれたかもしれない。主夫ですらない(家事をやる気もない)ヒモを飼ってる女って意外といる。
半生漫画に理解のある彼くんを登場させられるのは、理解のある彼くんが特別だとちゃんと認識して、多少頼ったり甘えたとしても関係を続ける努力を怠らなかった人だと思う。俺みたいに当然の権利として受け取って、努力を怠る人間には理解のある恋人がいたとしても救いにはなれない……というか恋人の“理解”や愛情をぶち壊してしまう。
全員が全員そうじゃないだろうが、男は……ていうか俺は、女からの優しさを“当然与えられるべきもの”という風に捉えていたんだなと、ここ数日で考えていた。だからA子のことも特別“理解のある彼女ちゃん”と認識できなかった。
A子に謝りたいと思うが、すでに家庭を持った彼女にとって俺なんか忘れたい過去だろう。黒歴史か。謝りたいという気持ちさえ、A子のためじゃなく自分のためで、あわよくば優しくされたいとすら思っている。そういう自分が本当にキモい。