問題は複雑であり、また経験から来る主観的視点になりやすいため議論が噛み合わない亊が多いように思う。
今となっては嗜む程度ながらも一応現役の格ゲーマーとして、パズル、TPS、RTS、DTCGなどいくつかの対戦ゲーに触れてきた身として、何人もの初心者と向き合っては失敗と後悔をしてきた身として、自分なりに考えてみたい。
勝負に勝つという行為は無条件に楽しい。本能に根ざした快感がある。
だが、勝てないと楽しくない、『俺が勝てないゲームはクソゲー』というのは短絡的だ。
勝てば楽しいし、負ければ悔しい。
実際には、悔しいで済んでいるのであればかなり良い方である。充分楽しんでいると言って良い。
クソーもう一回!とまた勝負を挑むだろう。
問題は、実力差を如実に感じるため悔しくすらない、ゲームを理解していないため次に打つ手が無いとなった時である。
こうなってはもう無感情に、一方的に、ただ倒されるだけだ。それはもう遊びとして成り立っていないだろう。
つまり、楽しくない。もういいやと投げ出してしまうのも道理だ。
チーム戦のゲームであれば、味方のおかげでなんとなく勝ててしまう亊がままあるし、
DTCGでは相手が事故ったり自分のドロー運が噛み合ったりするとなんとなく勝ててしまったりもする。
しかし格ゲーは誤魔化しの効かない一対一の対戦であり、これを重く感じてしまう人も多いように感じる。
「最初勝てないのは当たり前だよ。」
合わせて、教えてやるから知識を詰め込め、まずこれを練習しろ、とまくし立てる。
「スタート地点すら遠い!もっと気軽にゲームを楽しみたいだけなのに!」
経験者は考えている。
勝てるようになれば楽しいはずだ。まさに「勝てないから楽しくない」と言われた亊すらある。
だったら勝つための方法を懇切丁寧に教えよう。
初心者は考えている。
練習しろと言われると、今のままではダメだと言われているようで息苦しい。
CPUと戦うアーケードモードはもちろん、キャラを掘り下げるストーリーモード、簡単なものから手強いものまで揃ったミッションモードなどなど。
ところが経験者ほど、トレモとオンライン対戦しかしてなかったりする。私もそうだ。
初めてプレイするシリーズのゲームでもストーリーなんてそっちのけ。黙々とトレモに勤しむ。
何故なら格ゲーを対戦ツールとして認識し、勝てるようになれば楽しいと考えているからだ。
格ゲーとは人対人で対戦をするものなのだという認識が経験者にとってはあまりにも当然の亊なので、同様の認識を初心者も持っていると考えてしまう。
自分がプレイしていないモードを初心者が楽しんでいるとも思わずに。
楽しみ方は人それぞれなのだ。初心者には初心者なりの楽しみ方がある。
経験者は練習をしないと勝てなくてつまらないし、練習も楽しめるが
初心者は練習なんてしなくても楽しめるし、練習はつらいのである。
初心者の言う「勝てないから楽しくない」には、「実力差があり過ぎて対戦する意義を見いだせない」という意図があるのではないかと思う。
どうせ勝てないし、一矢報いるためのカードも持っていない。
そもそも初心者はなんとなくプレイするだけで充分に楽しめるのであり、別に強くなりたい、勝てるようになりたいとは思っていない。
これを経験者が「勝ちたいとは思うが練習はしたくない」と捉えて憤慨してしまうのはよく見る光景だが、そもそもお互いの認識にズレがある。
初心者だって別に練習も何もなしに楽して勝ちたいとも勝てるとも思っていない。
格ゲーは対戦ツールでありそれ以外の何物でもないという風潮があるように思う。
そんな亊はない。
もちろん対戦ツールとして人対人の生きた勝負が出来るのは格ゲーの大きな魅力だ。
しかし、単純にアクションゲームとして格ゲーはまた大きな魅力を持っている。
ひとつのキャラクターが多種多様な動きを、それも紛れもない自分の操作でキャラクターがすぐさましてくれるというのは他のジャンルに類を見ない。
これもまた格ゲーの持つ魅力であり、初心者がまず楽しめるのはこちらだ。
表題のような話になるのは、対戦ツールとして遊ばねばならないという押し付けがましい風潮にあり、それこそが最大の問題だと私は思う。
動かすだけで楽しい。CPUに勝って嬉しい。それだけで充分なのに。
なので経験者が持つ心得として、対戦ツールとしての遊び方を押し付けない亊が肝要だと私は考える。
最初に教えるのは、このボタンを押すと強いよ、この技が強いよ、といった程度で良い。
そして、まずは自分が楽しいと思うようにプレイしてご覧よと言ってやる。
対戦しなくても、練習に時間を割かなくても、楽しむ方法はありますよ、と。
初心者だって初心者なりに自分で考えて自分なりのプレイを見出していくし、それがゲームが持つ楽しさ、その本質のひとつであるだろう。
一から十までシステムを把握しろだの、全キャラの主要技を知っておけだの、そんな亊を始めから教えて飲み込むのは尋常ならざるモチベーションを持った人だけであり、その人はきっと独学でも一端の格ゲーマーになる。
そして、「勝てないから楽しくない」と言葉通りに考えている亊だろう。だから勉強をし、練習をするのだと。同じ発言でもこの記事で想定している初心者とは意図が異なっている。
こうした人は実際に存在し、また存在するが故に問題がややこしくなっているようにも思う。
現代の格ゲーはそんな強いモチベーションを持った人しか始められないと考えている人も居るのではないだろうか。
私もかつてはそうだったのだが、今は考え方を改めこの記事を書いている。
格ゲーを初心者なりの楽しみ方で遊んでいたら、もしかすると対戦をしてみたいと思う日が来るかもしれない。
それは、プレイしているうちにそのゲームがもっと好きになり、対戦ツールとしての側面を知りたくなったからかもしれない。
或いは対戦動画を見て自分もやってみたくなったからかもしれない。
ともかくも、そうして自分から対戦がしてみたいとモチベーションを持って臨めるようになったなら、きっともうその人にとって練習はつらいものではなく楽しいものになっているだろう。
知識を仕入れ、練習をし、対戦に活かす、その手助けを経験者は存分にすると良い。
もし対戦ツールとして遊ぶ日が訪れなかったのなら、その人に取って自分が当事者として対戦をする亊は魅力的ではなかったというだけの亊だ。
それでもその人にとって格ゲーはつまらないものとは限らないし、格ゲーの魅力をわかっていない、楽しんでいないという亊にもならない。
経験者が憤慨する亊は何も無いのだ。
一人の格ゲーマーとして、まずは是非にやってみて欲しい。
魅力的なキャラが居て、動きを見ているだけで楽しいかもしれない。
演出が綺麗で自分がこの技を出したんだと思うと気持ち良いかもしれない。
なんとなく動かして、なんとなく楽しんで欲しい。
始めから対戦なんて見据えなくて良いし、むしろオンライン対戦なんて狩られるだけだからやめておけとすら思う。
もしかすると周りにいろいろとアドバイスを頂戴して目が回ってしまうかもしれないが、無視して良い。
そんなの知るかと自分なりの遊び方を見い出せば良い。
上から目線でそんな遊び方してるんだと言われるかもしれない。もちろん無視して良い。
仲の良い友人と、全く同じタイミングで同じく初心者として始めてしまえば何も考えず楽しめる。