期限当日。
俺たちの成果を、他のグループの前で発表する日ということだ。
他のグループの発表はというと、自分たちの住む町の歴史だとか……まあ何も言うことはない。
みんな課題をこなすことに必死だったし、他人の成果物に目を向ける心の余裕はなかったんだ。
そして、長いような短かったような時を彷徨い、いよいよ俺たちグループの番がきたのだった。
「英雄リダイアはこの町で生まれ育ったことは周知の通りです。リダイアは当時としては画期的な建築技術を発明し、この町の発展を大いに助けたとされます。ですが、これはあくまで彼の英雄たる理由の一つでしかありません」
このあたりはエビデンスがとれていることもあり、滞りなく進んだ。
「次に彼はアマゾンのとある集落にて、住人たちと槍を取り、侵略者から守ったという記録が残されています」
「アマゾンといえば、アマゾネス。しかし、そこでリダイアはこれといった人間関係のトラブルがなかったことが、記述内容から判断できます。つまり、リダイアは実は女性だったのではと推測できます」
聞いていた他のグループがざわつきだす。
一応の辻褄は合うものの、はっきり言ってとんでもない説だからだ。
念のため言っておくが、これは俺ではなくメンバーの一人であるタイナイが提唱したものだ。
それっぽくこじつけてはいるものの、タイナイが最近読んでいた漫画の影響をモロに受けていることは俺からみれば明らかであった。
さて、これが一つ目の策だ。
タイナイ、カジマ、ウサクでそれぞれ持ちよった説を全て統合して、後は無理やり辻褄を合わせてやろうというものだった。
当然そんなことをすれば、いずれ綻びが生じる。
そこで俺はとある説を用意しておくのだが……まあ直に分かる。
「戦乱の世が平定。落ち着きを取り戻し始めたころ、リダイアは医者を志します。今度は人を救う存在になりたい、と考えたのかもしれません。それから彼は西の島にて、医者として多くの命を助けました。汎用性の高い薬を発明したのも、この当時であると考えられます」
「医学が進歩しだしたころ、リダイアは芸術の分野で多彩な活躍をします。我らの町では建築技術、別の地方では絵画といった具合に」
周りのざわついた音は徐々に大きくなっていたが、意に介さなかった。
「そのように八面六臂の活躍をしていく内、またも世は戦乱の気配を漂わせていました。そこでリダイアは、再びその身を戦火の中へと投じていくのです」
説明も終盤にさしかかったとき、とうとう俺たちが予想していた言葉を一人のクラスメートが発した。
「ちょっと待ってくれ、さっきから色々と語っているが滅茶苦茶じゃないか。現実的じゃない」
当然の疑問だ。
そこで、俺たちは二つ目の策……いや、説を提唱することにした。
「仰るとおり。いくらリダイアが人並み外れた力の持ち主と定義したとしても、このとき既に64歳。現役を退いている上、当時の平均寿命を越えている。仮に生きていたとしても、物理的に有り得ない」
「我々はリダイアの活躍が書かれた文献をしらみつぶしに調べました。長生きの一言で済ますには、些か無理がある活躍の記録があることが分かりました」
「文献のいくつかは彼を英雄視する人々が作り上げた、偶像物語だと考えることもできます。ですが、それを踏まえてなお整合性のとれない話も多々あったのです」
「そこで、ある説が浮上します。リダイアというのは個人ではなく、各時代、あらゆる場所に複数いた、名もなき英雄の俗称ではないかと」
これこそが、俺の考えた方法……いや、説だ。
「あらゆる時代、あらゆる場所で活躍する英雄が多くいました。リダイアが様々な方面で才能を発揮したとされるのも、そもそも別人だと考えれば自然です」
「なぜ、それらがリダイアとされたかは、彼らに関する詳しい文献が個別に存在しない、つまり名もなき英雄だったことに他なりません。そこで当時の人々は、ある種の英雄の理想像としてリダイアを作り上げ、そこに実在する英雄を投影させました」
「時には自称し、時には伝聞によって。事実、真実、伝承入り混じり、『リダイア』という英雄の集合体が形作られたわけです」
一応の整合性こそ取れるものの、その実は文献の真偽を分別することを放棄した、苦肉の策だったからだ。
それでも課題を未完成にして出すよりは、それを完成品にするために帳尻を合わせるほうがマシだと考えたのだ。
どうしても後一歩というところで完成に届かない。 やはり問題はリダイアに関する情報の真偽、その取捨選択ではあるが、グループ内で意見が分かれるのも混迷の一因だ。 「やっぱり...
歴史には英雄がつきものだ。 例えば、俺たちの町だとリダイアという人物がそれである。 この手の英雄にありがちな像も当然のように作られていて、待ち合わせ場所としても定番とな...
≪ 前 俺たちからすれば無理やり辻褄合わせをしただけの内容だったのだが、これが意外にも教師からは高評価だった。 ヤケクソ気味な発表スタイルが真に迫っているように見えたのだ...