俺たちからすれば無理やり辻褄合わせをしただけの内容だったのだが、これが意外にも教師からは高評価だった。
ヤケクソ気味な発表スタイルが真に迫っているように見えたのだろうか。
メンバーの一人であるタイナイの分析によると、他のグループがネットで簡単に手に入る文献からコピー&ペーストしたみたいな成果物だったので、俺たちの発表が新鮮に映ったのではと言っていた。
カジマはというと、各文献の記述をどれも否定しない、その姿勢が何より評価につながったんだと前向きな解釈だ。
何はともあれ俺たちは成し遂げたのだ。
しかし、課題のためとはいえテキトーなことをでっちあげた後ろめたさもグループ内にはあった。
俺も多少はあったものの、それも数日経つと薄れていく程度のもので、他のメンバーも同じだった。
ウサクを除いては。
「あの時は課題をこなすことで必死だったが、我々は大罪を犯してしまったのではないか? もし、我らの説が正史のように扱われてしまったらと思うと……早起きしてしまう」
会うたびに毎回こんな話をしてきて面倒くさかったので、俺はとある人物を紹介することにした。
正直なところ俺は未だにこいつの言うことをマトモに信じる気はないのだが、それっぽいことを見せたり言ったりはできるので、これでウサクに程よく納得してもらおうと思ったのだ。
「まあ、いいや。リダイアに関する記録だけど、マスダたちの説を後押しするような記録は未来にも存在しないね」
それは俺たちの発表内容がデタラメであることを示していたが、同時に未来には俺たちの成果物が禍根と共に残っていないことも示していた。
ウサクが信じるかどうかは分からないが、とりあえず気休めにはなるだろう。
「そうか……では、どのような記録が残っているんだ?」
「そうだなあ、例えば銀河大戦においてスパイとして、リダイアという名前の宇宙人が活動していた記録があるね」
どうしてそんなことを言うんだ。
それを周りに見られないよう、おもむろに自分の口元を左手で覆う。
「そりゃそうさ。君たちのいる時代から、数百年後の出来事だからね」
ガイドはそれに気づくと、慌てて取り繕い始めた。
「ええと、ウサク? 歴史ってのはね、あくまで歴史なんだ。ボクはそう思うよ」
訳の分からない説明に俺は思わずため息が出そうになるが、堪えてフォローした。
「ウサク、お前はちょっと難しく考えすぎなんだよ。リダイアがどんな人物であるか、何を為したかなんて、俺たちにはさして重要な事柄じゃないんだ。真偽がどうあれ、な」
後にウサクは、リダイアに関する資料を独自に纏め上げ、一部界隈で脚光を浴びることになる。
まあ、それはまた別のお話。
「ガイド、ウサクが書いた文献、記録は未来に残っているのか?」
「知らない」
こいつに話を聞いたのは失敗だったな。
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