どうしても後一歩というところで完成に届かない。
やはり問題はリダイアに関する情報の真偽、その取捨選択ではあるが、グループ内で意見が分かれるのも混迷の一因だ。
「やっぱり、こっちの文献に書かれたことが嘘なんじゃないかな。こっちに書かれたリダイアの容姿は、青年くらい。この時点で青年だとすると、40年後の彼はもう老人だ」
「こっちの文献にはリダイアの容姿について書かれていないから、矛盾はしないだろ」
「活躍の内容が問題なんだよ。スーパーアスリート並の身体能力で敵を蹴散らしたことになっちゃうんだ。ましてや人間の平均寿命が今より遥かに低かった時代だ。なおさら有り得ない」
「だが、そっちの文献は伝聞をもとに書かれた手記だろ。正確性に欠けるんじゃないか?」
「そんなこといったら、あっちの文献はリダイアと敵対する勢力が書いたものだろ。偏見が混じっている可能性がある」
こんな調子だ。
「というか、リダイアはこの町では建築家として名を馳せたんだよね。こっちの方だと天下無双の猛将ってことになるんだけど、どうもイメージが湧かないんだよなあ」
「医者として多くの命を救ったと書かれてるな、こっちは」
「うーん、この文献にはアマゾンの集落でヤマト魂を発揮したとか書かれているのが謎過ぎるな」
もう一つ厄介だったのが、リダイアに対するイメージがメンバーそれぞれで異なっていたことだ。
歴史的な英雄というものは、ある意味でそれを見た人間の理想という側面もある。
リダイアという英雄はそんなこと言わない、そんなことをしない、この主観が判断を鈍らせることもある。
文献をまとめるのに苦労した理由は、そういったメンバー間での価値観の違いによるところも大きかった。
こうして制作が滞っている割に、議論だけは白熱している状態が1時間ほど続いた。
沈黙を貫いていた俺もさすがに痺れを切らした。
「みんな、議論はここまでだ。意見を一致させるだなんてことが、そもそも無理だったんだ」
「方法はある」
そう、方法はあるのだ。
当然、俺がその方法を今まで提示しなかったのは相応の理由があるからなのだが。
しかし、このままじゃ判定すら貰えないかもしれないので、背に腹は変えられない。
「具体的にはどうするんだ。そもそも各情報の真偽を判断できず、取捨選択に苦慮しているから進まないのに」
「シフトって、どういう風に?」
「発想の転換さ。取捨選択が困難なら、取捨選択なんてしなければいい」
「……はあ?」
三人は全く同じ調子で、同時にそう声を発した。
そういうところだけは一致するんだな。
歴史には英雄がつきものだ。 例えば、俺たちの町だとリダイアという人物がそれである。 この手の英雄にありがちな像も当然のように作られていて、待ち合わせ場所としても定番とな...
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