2017-08-03

[] #32-1「数奇なる英雄 リダイア」

歴史には英雄がつきものだ。

例えば、俺たちの町だとリダイアという人物がそれである

この手の英雄ありがちな像も当然のように作られていて、待ち合わせ場所としても定番となっている。

俺たちの町の象徴存在だ。

ただ、その知名度に反してリダイアという人物が何者か知っている人は少ない。

像がたっているから多分すごい人なんだろう位の認識だ。

もちろん、俺もとある機会が訪れるまで知らなかった。

……いや、やっぱり現在進行形で知らないと言ったほうがいいかもしれない。


俺の通う学校では、授業と同じくらい課題について重視している。

今回は歴史だった。

数人でグループを組み、何らかのテーマについて取り組む方式だ。

俺のグループはというと、タイナイ、カジマ、ウサク、よく連れ立つメンバーたちである

惰性で組んだというのもあるが、円滑にコミュニケーションを取れる相手のほうが、課題達成の作業効率が増すという理由も勿論ある。

俺たちは数分話し合い、リダイアについての経歴をまとめることになった。

この町を代表する有名な英雄だし、簡単だという目論見があったからだ。

だが、この考えは甘かった。

「まとめる」ってのは、ただ情報を抜き出して、それをくっつけるだけでは不十分だ。

物事筋道を立てて、整理しなければならない。

その点で、リダイアの歴史は難解だった。

現在見つかっている文献は、どうも不明瞭な点が多かったんだ。

いや、正確に言うなら、いくつかの文献を照らし合わせる度に整合性が取れない箇所がどんどん出てくるのが問題だった。

たとえば彼の活躍の記録を時系列順に並べると、離れた場所で同時に活躍していることになってしまったり、明らかに平均寿命より遥かに生きていることになってしまう。

他には多芸な万能超人だったり、その時代にいる著名人が大体友達になってしまうこともあった。

虚実入り混じっていることは明らかであったが、どれが虚構事実か調べれば調べるほど区別ができなくなっていく。

「これ、テーマ選びをミスったんじゃないか?」

「……気づくのが遅すぎたね。期限は待ってくれない」

この時点で俺たちはこの課題に多大な時間と労力を要していた。

から別のテーマを選び、先生に判定が貰えるような成果物を作るのは様々な面で難しい状態だった。

「嘆いても仕方がない。確かに我らは困難な道を選んだ。しかし、それでも進むしかないのだ」

ウサクがグループ鼓舞し、俺たちもそれに同調した。

勿論、それはどちらかというと消極的判断からくるものではあったのだが。

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