2024-07-28

1人の男がロリコンに目覚めた話

 私の大学将棋サークルの友人であるTの話をしよう。

 Tは、東京にある大学から千葉にある自宅まで毎日1時間30分くらいかけて帰っていた。

 時刻は夜10時過ぎで、Tは疲れていた。電車の中で彼はいものように、ぶつぶつと文句を言いながらスマホゲームに勤しんでいる。

 はー、つっかえねー。マジでこのチームくそ

 楽しむためのゲームで苛つきを募らせていたTがふと電車の周りを見渡してみると、すっかり乗客も少なくなっていることに気付き、着実に自宅に近づいていることを確認した。

 そしてTがまた無益な戦いに舞い戻ろうとした、まさにその時だった。

 ぼふ。なんと隣の席から幼女が彼の膝に倒れてきたのだ。

 慌てて視線を向けると、幼女は寝息をたてている。

 よりにもよって、こんなすいてる車内で、というか、母親は何しているんだ。

 Tはその事態に戸惑い慌てて横を向くと、幼女母親と思われる女性は手元のスマホを弄っていて、幼女のことは気にもとめてない。

 ちゃんと面倒見ろよな、母親失格だろ。

 幼女への戸惑いは母親への怒りに変わる。

 しかし、基本的内弁慶なところがあるTは、母親に対して注意することができなかった。

 何より、その時のTは幼女の熱を感じていた。

 もうスマホゲームをする気もしない。

 正確な時間は定かではないが、幼女を膝枕していた時間は、いつもの煩雑電車通学の時間ではなくなっていた。

 するとTの最寄駅を示すアナウンスが聞こえる。幼女はまだ彼の膝の上で寝ている。母親は何も言ってこない。

 そしてTも何も言わなかった。

 ただ幼女と一体化していた。

 結局、自宅の最寄り駅から大分離れた駅で幼女母親は降りて行った。

 母親は降りる瞬間に幼女を起こし、幼女は眠気眼を擦りながら、母親の手を握って歩いて行く。

 Tは一言何か声をかけるでもなく、その姿を目で追っていた。電車のドアが閉まり幼女が見えなくなるまで、ずっと、ずっと。

 もうすっかりTの中の幼女母親に対する怒りなんて消えている。

 Tに残ったのは、自分ロリコンであるという、そんなどうしようもない確信だけだった。

 

 いかがだったであろうか。もしかしたら、あなたもいつの日か、ふいにロリコンに目覚めるかもしれない。そんなメッセージがTの体験談からは読み取れるのではないか

 話はこれでは終わらない。Tはオープンで、社会不適合なタイプロリコン進化した。彼の中にはロリコンに対する罪悪感はなく、我はロリコンであると堂々と公言していた。

 その姿を見て、ある意味まだ捕まってないだけ、彼は頑張っているのかもしれないと思った。Tという男は、要は犯罪者予備軍であった。

 Tは電車に乗ると幼女を探し、学校の近くを歩けば幼女を探し、公園を見たら幼女を探す男だ。

 そんな彼が塾講師バイトをしていたのだ。事件が起きなかっただけ幸運状態であった。その証拠に、「小学生女の子距離が近いから懐かれると擦り寄ってくる」と嬉々として話していた彼の笑顔は、単純に気持ち悪かった。普通バイト代が出なくてブラックバイト文句を言う筈の居残り指導も、彼にとってはむしろご褒美のようだった。

 そんなTに大事件が起きる。なんと塾の小学生女の子から告白されたのだ。

 Tは大層悩んだ。教育者として。大人として。男として。そして1人の人間として。

 悩み抜いた末にTは、その告白を断るという決断を下す。なけなしの常識がTを踏みとどまらせた。1人の幼気な女の子ロリコンの魔の手から守られた瞬間でもあった。

 ここで終わったら凄くかっこよかったのだが、Tは告白を断ったのをひどく後悔していた。何ヶ月もその恋を引きずっていた。どうやら告白された女の子は、可愛い子で、付き合いたかったらしい。まあ社会が許さないのだが。

「どうせその子中学に上がり一旦塾辞めるんだから、俺も辞めてその子と付き合えば良かった」

 ある日の部室で机に肘をつきながらTがそう言った。誰も見ていなかったら悔し涙を流し始めるんじゃないかと思うほど、その日のTは打ちのめされていた。ロリコンガチ失恋なんて、誰も対処の仕方がわからない部室の空気は、異様に重たかった。

 その姿を見た私は、Tにとってロリコンというのは、無理矢理背負わされた重荷なんだと思った。

 果たしてTが幼女を求めてしまうのは、彼の自由意志か。それとも周りの環境のせいか。それとも親の教育責任か。

 否、それは性癖である

 学術的な根拠は分からないが、性癖とはきっと先天的ものだと思う。

 最近「親ガチャ」なる言葉流行ったが、これではまるで「性癖ガチャ」ではないか

 そのガチャの中でもロリコンは外れであることは疑いようがない。ロリコン世知辛い世の中をTは生き抜いていかねばならない。それは道なき道を行く覚悟必要で、もし自分性癖に身を預け、ロリコン道を突き進んだら最後、Tを待ち受けるのは社会的な抹殺だろう。

 もし、あの電車に乗らなかったら。隣の車両に乗っていたら。隣の席に座っていたら。

彼は違う道を進んでいたかもしれない。

 

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