2023-09-16

エントロピーとは何か

エントロピー」という概念がよくわかりません。 - Mond

https://mond.how/ja/topics/25cvmio3xol00zd/t242v2yde410hdy

https://b.hatena.ne.jp/entry/s/mond.how/ja/topics/25cvmio3xol00zd/t242v2yde410hdy


エントロピー」は名前自体比較的よく知られているものの、「何を意味しているのか今一つ分からない」という人の多い概念である。その理由の一つは、きちんと理解するためには一定レベル数学概念特に微積分と対数)の理解必要とされるからであろう。これらを避けて説明しようとしても、「結局何を言いたいのかすっきりしない」という印象になってしまやすい。

エントロピー」を理解し難いものにしているもう一つの理由は、「エントロピー」という概念が生まれ歴史的経緯だと思われる。

エントロピー提唱された時代は、物質構成する「原子」や「分子」の存在がまだ十分に立証されておらず、それらの存在を疑う物理学者も少なくなかった。エントロピー提唱クラウジウスは、「原子分子存在を前提しなくても支障がないように」熱力学理論を構築し、現象の可逆性と不可逆性の考察からエントロピー」という量を発見し、非常に巧妙な手法定義づけたのである

その手法は実にエレガントで、筆者はクラウジウスの天才性を感じずにはいられない。だが、その反面、熱力学における「エントロピー概念簡単イメージしづらい、初学者には敷居の高いものとなってしまったのだ。

その後、ボルマン分子存在を前提とした(よりイメージやすい)形で「エントロピー」を表現し直したのだが、分子存在を認めない物理学者達との間で論争となった。その論争は、アインシュタインブラウン運動理論確立して、分子実在が立証されるまで続いたのである





現代では、原子分子存在を疑う人はまず居ないため、ボルマンによる表現を心置きなく「エントロピー定義」として採用することができる。それは次のようなものである

「ある巨視的状態を実現しうる、微視的状態パターンの多さ」



例えば、容積が変わらない箱に入れられた、何らかの物質を考えて欲しい。

箱の中の物質の「体積」や「圧力」「物質量」などは具体的に測定することができる。また、箱の中の物質の「全エネルギー」は測定は難しいが、ある決まった値をとっているものと考えることができる。

これらの量を「巨視的状態量」または単に「状態量」と呼ぶ。


ここに、全く同じ箱をもう一つ用意し、全く同じ物質を同じ量入れて、圧力や全エネルギーも等しい状態にするとしよう。このとき、二つの箱の「巨視的状態」は同じであるでは、内部の状態は「完全に」同じだろうか?

そうではあるまい。箱の中の物質構成分子の、それぞれの位置運動状態は完全に同じにはならない。これらの「分子状態」は刻一刻と変化し、膨大なパターンをとりうるだろう。

このような分子レベル位置運動状態のことを「微視的状態と呼ぶ。


「微視的状態」のパターンの個数(場合の数)はあまりに多いので、普通に数えたのでは数値として表現するのも難しい。そこで「対数」を用いる。


例えば、巨視的状態Aがとりうる微視的状態の数を1000通り、巨視的状態Bがとりうる微視的状態の数を10000通りとする。このとき、Aの「パターンの多さ」を3、Bの「パターンの多さ」を4、というように、桁数をとったものを考えるのである

この考え方には、単に「とてつもなく大きな数を表現するための便宜的手法」という以上の意味がある。

先の例では、AとBを合わせた微視的状態の数は1000×10000=10000000通りであるが、「パターンの多さ」は7となり、両者それぞれの「パターンの多さ」の和になるのである


この「パターンの多さ」がすなわち「エントロピー」Sである

「微視的状態パターンの個数」をΩ通りとしたときエントロピーSは次のように表現できる。

S = k*logΩ

(ただし、kはボルマン定数と呼ばれる定数であり、対数logは常用対数ではなく自然対数を用いる。)

この「エントロピー」は、同じ巨視的状態に対して同じ数値をとるものであるから、「体積」や「圧力」などと同じく「状態量」の一つである





このような「目に見えない状態量」を考えることに、どのような意味があるのだろうか?

その疑問に答えるには、エントロピーエネルギー関係について考える必要がある。


再び箱に入った物質を考えよう。この箱に熱を加え、箱内の物質エネルギーを増加させると、エントロピーはどうなるだろうか?

まず、総エネルギーが増加することにより、各分子に対する「エネルギーの分配パターン」が増える。さらに、個々の分子の平均エネルギーが増えた分、可能運動パターンも増える。このため、エネルギーが増えるとエントロピーは増加すると考えていいだろう。

では、エントロピーの「上がり方」はどうか?

エントロピーは微視的状態パターンの「桁数」(対数をとった値)であるからエネルギー継続的に与え続けた場合エントロピーの増加の仕方はだんだん緩やかになっていくだろうと考えられる。


ここで、多くのエネルギーを与えた「熱い物質A」の入った箱と、少量のエネルギーしか与えていない「冷たい物質B」の入った箱を用意しよう。箱同士を接触させることで熱のやりとりが可能であるものとする。

物質Aには、熱を与えてもエントロピーがさほど増加しない(同様に、熱を奪ってもエントロピーがさほど減少しない)。言いかえると、エントロピー一定量増加させるのに多くのエネルギーを要する

物質Bは、熱を与えるとエントロピーが大きく増加する(同様に、熱を奪うとエントロピーが大きく減少する)。つまりエントロピー一定量増加させるのに必要エネルギーが少ない


箱を接触させたとき、AからBに熱が流入したとしよう。Aのエントロピーは下がり、Bのエントロピーは上がるが、「Aのエントロピー減少分」より「Bのエントロピー増加分」の方が多くなるので、全体のエントロピーは増加するだろう。

もし、逆にBからAに熱が流入したとするとどうか? Aのエントロピーは上がり、Bのエントロピーは下がるが、「Aのエントロピー増加分」より「Bのエントロピー減少分」の方が多いので、全体のエントロピーは減少することになる。


エントロピーが多いとは、微視的状態パターンが多いということである。従って、「AからBに熱が流入した」状態パターンと、「BからAに熱が流入した」状態パターンとでは、前者のパターンの方が圧倒的に多いエントロピーは微視的状態パターン数の対数なので、エントロピーの数値のわずかな差でも、微視的状態パターン数の違いは何十桁・何百桁にもなる)。これは、前者の方が「起こる確率が圧倒的に高い」ということを意味している。

これが、「熱は熱い物体から冷たい物体に移動する」という現象の、分子論的な理解である

冷たい物体から熱い物体へ熱が移動する確率は0ではないが、無視できるほど小さいのである


物体が「熱い」ほど、先程のエントロピー一定量増加させるのに必要エネルギーが多いといえる。そこで、この量を「絶対温度」Tとして定義する。

T = ⊿E/⊿S (体積・物質一定の条件で)

エントロピー定義ときに出て来た「ボルマン定数」kは、このTの温度目盛が、我々が普段使っているセルシウス温度(℃)の目盛と一致するように定められている。



さて、ここで用いたエントロピーが減少するような変化は、そうなる確率が非常に低いので現実的にはほぼ起こらない」という論法は、2物体間の熱のやりとりだけでなく、自然界のあらゆる現象適用することができる。

すなわち、「自然な(自発的な)変化ではエントロピーは常に増加する」と言うことができる。これが「エントロピー増大の法則である


ただし、外部との熱のやりとりがある場合は、そこまで含めて考える必要がある。

例えば、冷蔵庫プリンを入れておくと、プリン温度は「自然に」下がってエントロピーは減少する。

しかし、冷蔵庫が内部の熱を外部に排出し、さら冷蔵庫自身電気エネルギーを熱に変えながら動いているため、冷蔵庫の外の空気エントロピーは内部の減少分以上に増加しており、そこまで含めた全体のエントロピーは増加しているのである





最初に、「エントロピー理解には微積分と対数理解必要であると述べたが、なるべくそうした数学概念に馴染みがなくても読み進められるようにエントロピーの初歩的な話をまとめてみた。如何だったであろうか。

筆者は熱力学統計力学専門家でもなんでもないので、間違ったことを書いている可能性もある。誤りがあればご指摘いただけると幸いである。


クラウジウスによる「原子分子存在を前提としない」エントロピー定義については、筆者よりはるかに優秀な多くの方が解説記事を書かれているが、中でも「EMANの熱力学https://eman-physics.net/thermo/contents.html個人的にはおすすめである。興味ある方はご参照いただきたい。

続き

エンタルピーエントロピー関係について

https://anond.hatelabo.jp/20230917090022

記事への反応 -
  • エンタルピーもわからん

  • エントロピーとエンタルピーの違いがわからない

  • パターンの多さ、くらいまでなんとかついてけた

  • 生物は自身のエントロピーを下げるためにエネルギーを補給する必要があるっていうのなんか好き

  • 俺の理解はだいたい正しかったようだ。

  • 情報理論と熱力学って違うからなぁ 情報理論でエントロピーを解釈しているので、熱力学の方はちっともわからない 直感的に、コイントスで表になるか裏になるかという問題があったと...

  • エントロピーが何であるかはなんとなくわかったけど エントロピーについて考えることに何の意味があるのかがわからん

    • 科学教という宗教では、生物の存在意義を「エントロピーを減らすこと」と考える一派があるため

    • そりゃ熱力学の法則を定義するために必要だからだろ。

    • エントロピーは「熱」と深い関係があって、たとえば注目する物体に熱が入ったときに状態がどう変化するか記述するときに必要になるんだよ(たとえば小学校で習った比熱はエントロ...

  • ◯◯◯◯ピー

  • 増田は物理に疎いのが多いとわかる

  • 情報量の平均

  • 時間は存在しないって本で読んだけど エントロピーは人間の主観的な錯覚だってさ エントロピー増大則以外の物理法則は時間を逆回ししても成り立つからエントロピー増大則が人間の主...

    • そんなん哲学イキリがよく言うでたらめやん 運動に再現性と客観性があるのだから時間の流れ方にも再現性があり客観性があるよ

  • エントロピーがわかった気がしないのって、 ・「エントロピー計」がない。 内部エネルギー計はないけど、温度計で代用できる、っていわれたらそうかな、って気もする。 あと、自由...

  • 面白いけどイメージ掴むだけならきゅうべえの説明で十分だわ。

  • と、トッカロピーとはどういう関係ですか? https://www.youtube.com/watch?v=-XVEsmV_uPQ

  • ある細胞が死んで温度が下がるとする それでもエントロピーは増える するとやはり霊体ができるのか

  • 多様性のあるほうがエントロピーが高いのか

  • 承前:https://anond.hatelabo.jp/20230916001142 前回の記事の反響の中で、「エンタルピーについても解説して欲しい」というご意見を複数いただいた。 エンタルピーはエントロピーと同じく熱...

  • 順位 ブクマ タイトル カテゴリー 1 2067 ゲームさんぽの次に見るべきYouTubeの教養コンテンツ 増田 2 2048 家を建てたときのはなし(追記あ...

    • お疲れ様です

    • カテゴリー違くね? タグじゃね

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    • No. ブクマ数 タイトル カテ(タグ) 備考 1 1429 ホストやってたけど普通はサイコパスになれんよ 増田 2 1327 東京に住んでいない俺がどこで文化を享受しているか ...

      • お疲れ様です!

      • 俺の書いたの、一つも入ってなくて草 俺の人生は文学じゃないんだなぁ ちょっとは気の利いたこと書くか

        • 投稿時間帯とか2-3ブクマがつくのを18時頃の人が集まってくる時間帯にするとか工夫してみたら? 曜日は金曜土曜のスマホ触ってそうな人が多そうな曜日にして あとよかったらリンク貼...

          • ブクマは数100とかは付くけど、ネタ増田とかが多いからかな 自分のネタはもう尽きた 書いた増田↓ おパンツとは言うのにおブラジャーとは言わないのは国難 https://anond.hatelabo.jp/2023112...

            • ブクマ700の経験あるけど、過去の知見を使ったお役立ち情報増田だったので、 こういうサラッとした短文ネタ増田で支持を得られるのは尊敬するわ おパンツはわざとらしすぎてゴミカス...

            • 売れない芸人の大喜利レベルだよな。もっと役に立つ記事とか勉強になる記事とか書けよ。低学歴か。

      • 増田文学まとめって2022年だけ抜けてるんだよな 誰かまとめてくれないかな、俺は技術力も読解力も不足してるのでパス

        • 簡単にパスしないでくれ 文句だけ言ってフリーライドするのは今日でやめにするのだ ①スクレイピングツールoctpusで「https://b.hatena.ne.jp/entrylist?url=https%3A%2F%2Fanond.hatelabo.jp%2F2022&sort=coun...

      • 4本入ってた。去年は低調だったかな。 今年はもっと頑張ろう。

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