2021-08-24

PCRにまつわるエトセトラ

Twitterではここ一、二年なんたら研究室教授だの、PhDだのがクソ偉そうに医療関係者糾弾する様をよく見かける。

よくもまあ専門外の分野から、その道のプロ説教できるものだ。

詳しいことは書くつもりがないが、私は臨床検査に関することを仕事にしている。

一応プロとして、今日コロナウイルス検査をかなり間近で見てきているし、学術経験をしている。

からこそ匿名性のあるこの場を借り、Twitterで紛糾している話題の一つであるPCRと抗原検査について雑記する。

例え1人でも、賢い人の考える材料になれば幸いである。

まず、PCR検査世界的に非常に信頼されている検査方法であり、感度も原理上は極めて優れている代物であることは明記しておく。

私は決して、PCRもつパワーを低く見積もっている訳ではない。

ただ、PCRが必ずしも完璧方法でない事をここで少しだけ説明する。

これを読んで、日夜臨床の現場で身を粉にする医療従事者を糾弾する人間が1人でも少なくなる事を祈っている。

PCRコストがかかり、また処理に時間が長く必要になる」ということはテレビニュースでも知っている人は多いだろう。

これは間違いなく真実だ。

だが、こういった事実に対しても、懐疑的コメントをする者が後をたたない。

PCRは本当は安価にできる”

PCRは一時間あたり100件以上のサンプルを処理できる”

PCRの感度は100%で、偽陰性が出ない”

などなど…挙げ出せばキリがない。

この場ではこれらの、およそ現実をよく理解していないコメント対する一つの回答を記載する。

ただし、あくまで1人の医療関係者意見であることには留意されたし。

PCR検査は本当は安価実施できる。原価はxxx円だから〜”

まず、原価で語ることがもはやおかしいのだが、そこは目を瞑り、臨床検査としてのPCR安価実施できない一つの理由を述べる。

端的に言って仕舞えば、この理由は「精度管理コストがかかるからなのだ

まずメーカー販売する臨床検査用のPCR試薬はすべて、対外診断用医薬品として認可を受けたもののみが診断に使われている。これはさまざまな環境や、さまざまな人から採られたサンプルが、正確に診断用の高い正確性が要求される。

実際の病院検査施設で使われる際に、手間がかからず、それでいて迅速に正確な結果を出しやすいように商品として設計されているものを、さらに厳重な審査を行ってから販売するのだ。メーカー販売価格を上げるに決まっているのである。単なる実験試薬とは訳が違う。

さらに、実際にこのような試薬を使って検査を行うときにも、精度管理の壁がある。

コンタミネーションを防止するためのキャビネット動線の確保された検査室、正確かつ迅速に連鎖反応を行える検出器、十分に訓練された臨床検査技師…これらが全て揃ってはじめて「信頼できるデータ」が得られるのだ。

学生適当やらせて、失敗したらやり直せばいいなんて代物では断じてない。そのため、大学院生研究でやるようなレベルPCR臨床検査は別物になるということは、ここまで書けばある程度イメージできるのではないかと思う。

安価PCR実施しにくいのはこのためである

PCRは一時間あたり100件以上のサンプルを処理できる”

これも実際の臨床検査からしたら間違いであると言える。

ただ、ものすごく時間あたりのサンプル処理数が大きいPCR機というのは存在しているのは事実だ。

某有名製薬メーカー販売する、自動化機器は非常に優れた処理スピードを持ち、大量の検査可能だろう。

しかし、だ。この機器は恐ろしい価格をしている。気になる方はしらべてみるといいが、おいそれと買えるような額では断じてない。前述した精度管理可能検査から用意するとなると下手したら数億かかる。

こんな機器置かないから小型機でやるとなれば、それは処理スピードがガクンと落ちる。

プレートに試薬を撒き、間違わないようにサンプルを添加し、増幅し、検出する一連の流れを本当に理解しているなら、PCRにかかる時間の長さも理解できるだろう。

PCRの感度は100%で、偽陰性が出ない。また偽陽性も出ない。”

これは大きな誤りである

検体の採取成功確率は決して100%ではないし、どうしてもコンタミネーションは低確率とはいえ発生するのだから

また、検体の保存液中でRNAが分解されるスピード無視して良いのか?

使用する試薬によっては、反応阻害を起こすような物質が混入するケースがあるが、これは無視するのか?

これらの要因を鑑みると、実質的な感度と特異度はどうなってしまうのか?

などなど、考え出せばキリはない。

さまざまな要因がPCR検査現実の精度を阻害する可能性が残されてしまい、それを100%除外するのは不可能に近いのである

原理だけでは現実は語れないのだ。

現実では理論ではなく、製品運用が全てなのだ

現場医師検査技師をはじめとした医療従事者が、不当な批判を受けずにすむように祈る。

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