巷を賑わせているJeSUのライセンスですが、ちょっと視点を変えた問題提起をしてみます。
「CPTアジアプレミア」は、「懸賞」だったのでしょうか。それとも「興行」だったのでしょうか。
気の短い人のために先にまとめを書いておきますと、「CPTアジアプレミア」は両方の条件を満たしています。
私の問題提起は「それってありなの?」と「それって景表法の潜脱では?」の2点です。
なぜ「懸賞」か「興行」かが重要かというと、この立て付けで賞金がどういうお金なのかが変わるからです。
なぜかというと、大会の賞金がゲームの購入を誘引するから、これは景表法の規制する「景品類」になるという理屈です。
ゲームを買うと、(練習できるので)大会で勝ちやすくなり、賞金を得やすくなる、だからそのためにゲームを買う人が出る可能性があるということですね。
こうした「景品類」と購買行動に因果関係があることを「取引付随性がある」と言います。
念のため付言すると、それが悪いと言っているのではなく、やりすぎてはいけないということです。
参考(消費者庁のノーアクションレターの回答):https://www.caa.go.jp/law/nal/pdf/info_nal_160909_0005.pdf(※PDF注意)
本件企画は、有料ユーザーが賞金という経済上の利益の提供を受ける事が可能又は容易になる企画であり、本件企画において成績優秀者に提供される賞金は、「取引に付随」する提供に当たるものと考えられる
こうした「商品・サービスの利用者に対し、くじ等の偶然性、特定行為の優劣等によって景品類を提供すること」(消費者庁のホームページより)を「懸賞」と呼びます。
つまり、最大10万円の賞金が出る大会は、「懸賞」であると言えます。
参考(消費者庁の景品類の解説ページ):https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/premium_regulation/
また、よく10万円が取り上げられますが、「取引価額の20倍または10万円のいずれか低い方」なので5000円未満のゲームでは販売価格の20倍が「景品類」(賞金)の上限になります。
JeSUの主張する「仕事の報酬」扱いの賞金は、景表法の適用外です。
JeSUは当初全く別の説明をしていたんですが、ここではとりあえず横に置いておきます。
「興行」とは何かを観客に見せることを目的とした活動のことで、本稿では「懸賞」と対比するためかぎかっこでくくっていますが、言葉そのままの意味で使っています。
これは、1977年の景表法改正でできた例外規定が根拠になっています。
「仕事の報酬」として顧客に財物を渡す場合、景表法の「景品類」には当たらないとするものです。
賞金とは言っていますが、一般的に賞金と言ってイメージするものとは性格が異なります。
どちらかというと格闘技のファイトマネーに近いと考えればいいでしょうか。
「仕事の報酬」であれば、成績に応じて賞金額が変わるのは変ではないか?という疑問も湧きますが、JeSUが消費者庁に対して行ったノーアクションレターの回答では以下のようになっており、そこは問題ないようです。
参考(消費者庁の回答):https://www.caa.go.jp/law/nal/pdf/info_nal_190903_0002.pdf(※PDF注意)
大会の成績に応じて賞金を提供する大会等に関しては(中略)当該参加者への賞金の提供は(中略)景品表示法第4条の規定の適用対象とならないものと考えられる
形式上は、主催者が「興行」として大会を行うため出場選手に仕事として出演を依頼し、その報酬として賞金を提供するという形になっているわけです。
つまり、JeSUのライセンスで賞金を出す大会は「興行」、ゲーム大会の形をとったショーであると言えます。
では、「CPTアジアプレミア」は「懸賞」だったのでしょうか。それとも「興行」だったのでしょうか。
もう分かりますよね。
両方のケースの賞金を出しているのですから、「両方」です。
これ、いいんですかね?
「景品類」としての賞金を出した以上、「CPTアジアプレミア」は「懸賞」としての性質を持っています。
そこで一部の選手に「仕事の報酬」としてより高額な賞金を提供するのは、「仕事の報酬」を隠れ蓑にした潜脱なのではないか、という疑いが生まれます。
JeSUのノーアクションレターの回答には、「景品表示法における景品類の制限の趣旨の潜脱と認められるような事実関係が別途存在しない限りにおいては」と条件が付いていますね。
このノーアクションレターでは「興行」として大会を開催したケースしか照会していないので、「懸賞」の性質を含んだ今回のケースには適用できないということになります。
これに関して一つ腑に落ちない点があります。
JeSUのノーアクションレターの内容です。
参考(JeSUの照会書):https://www.caa.go.jp/law/nal/pdf/info_nal_190805_0001.pdf(※PDF注意)
(中略)
この質問ですが、「賞金を受領できるのは、ライセンス選手に限られ、ライセンス選手でない者が上位入賞した場合には当該入賞者に対して賞金は提供されない」と条件付けされています。
しかし、これは「CPTアジアプレミア」のケースには適用できません。
この条件では、ライセンス非保持は賞金を受け取れないのですから、実際にライセンス非保持者が賞金を受け取った「CPTアジアプレミア」とは合致しません。
本来なら、JeSUはもう一つ「一般参加を可能とするものの、ライセンス選手には規定の賞金を提供し、一般参加者には景品表示法に基づき最大10万円の賞金を提供する」大会のケースを質問すべきでした。
この内容なら先に指摘した「興行」と「懸賞」を両方満たしたケースになり、かつ実態に則したものとなるのですから。
もしJeSUが意図的にこれを外して照会を行ったのだとしたら、景表法の適用内であるという回答が出ることを恐れたのではないかと疑ってしまうわけです。
今回話題になっているももち氏は2018年12月にも賞金を減額されており、「CPTアジアプレミア」の大会規約にはライセンス非保持者の賞金についての規定まで盛り込まれており(2018年の「東京ゲームショウ」で行われた「CPTジャパンプレミア」の大会規約にはありません)、カプコンとJeSUが今回の件について想定していなかったという言い訳はできないと思います。
参考(「CPTアジアプレミア」の大会規約):https://sf.esports.capcom.com/asia-premier/jp/
8.入賞者に対する賞金の付与に関しては、以下に定める通りとします。
(中略)
ただ、どう考えても「懸賞」の大会に「仕事の報酬」を出すのは潜脱としか思えず、JeSUのノーアクションレターではその疑惑は拭えないのです。