2018-03-05

[] #51-5「ノットシューゴ」

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俺は呆れ果てて何も言えないでいたが、同じくクラスメートであるタイナイが、カジマの蛮行を嗜めた。

ちょっと待てよ、カジマ。そんなの撮っちゃダメだ」

タイナイは俺たちの中で最もネット社会に漬かっている人間だ。

そのタイナイが嗜めるのだから、カジマのやっていることは思っている以上にタブーのようだ。

抗議活動結構だけど、これはただの目立ちたがりの売名行為しかならない」

「こーいうのは目立ってなんぼでしょ!」

「悪目立ちで集まるのは、騒ぎに乗じたいだけの烏合の衆だ。それだと肝心の問題についても、大衆に正しく認知されない。主義主張が何であれ、正しい筋道で実行されなければ正しい支持も得られないんだ」

「あーあー、そうやって物知り顔で、抗議活動している人の出鼻を挫いていくんだよなあ。タイナイみたいな自称常識人は~」

タイナイの言うことは真っ当だが、カジマにはまるで通じない。

カジマに自身客観的に見れる冷静さがあるなら、始めからこんなことをやろうとはしないだろう。

こういうタイプには、むしろ別のアプローチが効く。

「カジマ、お前のやってることはむしろヘイトを広めるだけ。しかも、そのヘイトはお前自身に向かうぞ。一般大衆からアニメオタク過激常識もないバカだと思われ、アニメオタクから抗議活動邪魔をする輩だと非難される」

「え……そこまで深く考えてなかった……よし、この抗議活動はやめるっす!」

まりにも容易く撤回したカジマに、タイナイは溜め息を吐く

カジマは大義名分があるからやっているだけで、別に高尚な志があるからこんなことをやっているわけではない。

いっちょ噛みしたいだけでリスクまで背負いたくはないので、それをチラつかせるたほうが効果なのだ

「あーあ。現実喧騒から離れて、楽しい気持ちアニメを観ていたいはずなのに、どうしてこんな現実問題ヤキモキしなきゃならないんすかね……」

カジマは何だか純粋ぶったことをのたまっているが、俺たちは面倒くさくなってきたので無視した。


…………

ところかわって父のほうでは、フォンさんと共に重役たちの説得に回っていた。

「…………いま一度考え直しませんか」

「そうは言っても、アニメってのは総合芸術だろ? 監督とは言っても、その実アニメ製作は他のスタッフたちの働きによるところが大きい。彼が『ヴァリオリ』を作った代表者だと表現することは不可能ではないが、100歩譲っても彼だけの、彼のためにある作品ではないはずだ」

「もちろん『ヴァリオリ』はシューゴさんだけの作品ではありません。ですが……」

「我々だって何も全面的シューゴ氏を責めているわけではない。出来れば彼に監督でいて欲しかったし、実際これまではそうしてきた。だがモノにはコンプライアンスがあり、限度もある。そして我々が何度言っても彼は改めなかった」

「言っておくが、君たちにだって責任はあるんだぞ。君たちが彼の手綱ちゃんと握っていれば、こうはならなかったかもしれないのだから

しかし、いずれも色よい返事はこなかった。


…………

ーー『ハテアニ』スタジオ

世間ではかなり騒ぎになっていたが、スタジオ内は意外にも落ち着いていた。

この界隈でスタッフが途中で入れ替わるなんてのは珍しいことではなかったし、それは監督という立場でさえ例外ではない。

今回はそれが人気アニメ監督だったというだけで、世間よりも現場のほうが冷静な者は多かった。

それに監督が誰であろうと給料が変わるわけではないので、現場人間はただ目の前の仕事をこなすしかないのだ。

せいぜい、暇をしてるアニメーターが、WEBメディア取材でテキトーなことを並べるくらいである。

しかし、現状ではその程度で落ち着いていても、このままではいずれ瓦解するという危機感が、父とフォンさんにあった。

やはりシューゴさんを呼び戻すのがベターだが、成果は芳しくなく、父たちは頭を抱えていた。

シューゴさんの『ヴァリオリ』における功績を丁寧に説明しても尚、誰も首を縦に振ってくれませんね……」

「実際、彼らの言い分にも一理も二里もありますからね」

こうなった大きな要因は、シューゴさんに対するネガティブイメージが強く残り続けているのが大きな要因だった。

特にある一件では、彼の過激言動によってアニメ業界全体が激震し、謝罪会見にまで発展したこともある。

経営から見て、そんな人間制作トップに置き続けるのは、リスキーすぎると判断するのは当然だったのだ。

しかし、それでも打つ手が全くないというわけではなかった。

「フォンさん、“あれ”はどんな調子ですか」

大分、溜まってきましたかね」

「では、そろそろシューゴさんのほうにもアプローチをかけてみましょうか」

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記事への反応 -
  • こうしてシューゴさんの監督降板の報は、瞬く間に広がっていった。 様々なSNSサイトで『ヴァリオリ』関連の話が頻出し、いずれも阿鼻叫喚の様相を呈していた。 「あの俗悪の権化た...

    • 実のところ、重役たちは監督降板を半ば予定していた。 これまでのシューゴさんの態度を顧みるに、今回も改善の余地は見られないであろうことは想像に難くない。 監督降板をチラつ...

    • あのさ、お前の書く話、すっげーつまんねえのわかるか? つまらねえ話はいい加減やめろよ。 そんなにやりてえなら 小説家になろうにでもやってろよ

  • ≪ 前 父はシューゴさんをファミレスに呼び出した。 内容が何であれ、必ずファミレスで話をする。 それが父たちの間で自然と出来たルールだった。 「形骸化して名前だけが残って...

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